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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2025年3月更新)

米国

DOJ、アルゴリズムによる価格設定で大手家主6社を提訴

2025年1月7日 米国司法省 公表

原文

【概要】

1 米国司法省(以下「DOJ」という。)は、2024年8月23日、ノースカロライナ州、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、ミネソタ州、オレゴン州、テネシー州及びワシントン州の司法長官とともに、RealPage Inc.(テキサス州リチャードソンに本社を置く不動産管理ソフトウェア会社。以下「RealPage」という。)が違法に、賃貸住宅価格設定に関する賃貸人間の競争を減少させ、商業収益管理ソフトウェア(賃貸住宅価格の設定などに利用される。))の市場を独占したとして、民事反トラスト訴訟を提起した。(注1)
(注1)https://www.justice.gov/opa/pr/justice-department-sues-realpage-algorithmic-pricing-scheme-harms-millions-american-renters 
 DOJは、2025年1月7日、各州の共同原告とともに、RealPageに対する反トラスト法訴訟の修正訴状を提出し、アルゴリズムによる価格設定に参加し、賃借人に損害を与えたとして全米最大手の家主6社を提訴した。修正訴状には、イリノイ州及びマサチューセッツ州の司法長官も加わり、州及び連邦の共同原告総数は10となった。  
    
2 修正訴状によると、家主であるGreystar Real Estate Partners LLC (以下「Greystar」という。) 、 Blackstone’s LivCor LLC (以下「LivCor」という。)、Camden Property Trust (以下「Camden」という。)、Cushman & Wakefield Inc and Pinnacle Property Management Services LLC、Willow Bridge Property Company LLC (以下「Willow Bridge」という。)及びCortland Management LLC (以下「Cortland」という。) の6社(以下「6社」という。)は、賃貸住宅の価格設定に関する家主間の競争を減少させる違法なスキームに参加し、何百万人もの米国の賃借人に損害を与えた。6社は、合わせて43の州及びコロンビア特別区で130万戸以上の賃貸住宅を経営している。 
 同時にDOJは、家主であるCortlandに対し、政府への協力、賃貸料設定に競合他社の機微なデータを使用することの中止、企業監視人による監視なしで競合他社と同じアルゴリズムを使用することの中止を求める同意判決案を提出した。
 
3 ドーハ・メッキDOJ反トラスト局長代理(訳注:本件公表時)は、次のように述べた。  
 「全米の米国人が住宅を購入するのに苦労している中、本日の訴訟で名指しされた家主らは、賃貸料に関する機微な情報を共有し、アルゴリズムを使用して賃貸料を高く維持するよう調整していた。RealPage及び6社に対する本日の措置は、人々よりも利益を優先する彼らの行為をやめさせ、全米の何百万人もの人々がより手頃な価格で住宅を購入できるようにすることを目指すものである。」  
  
4 修正訴状によると、6社は、共通の価格設定アルゴリズムを通じて、互いの競争上機微な情報を利用して賃貸料を設定するスキームに積極的に参加していた。6社は、 RealPageの反競争的な価格設定アルゴリズムを使用するとともに、以下のような様々な手段で協調していた。
 (1) 賃貸料、稼働率、その他競争上機微な情報について、競合他社の上級管理職と直接連絡を取り合うこと 
 ある事例では、GreystarはCamdenに、直近の更新率だけでなく、来期の価格設定の考え方、RealPageの推奨価格の受入れ、(賃借人への)譲歩の事例、稼働率に関する競争上微妙な情報などを提供した。同様に、Camden及びLivCorの幹部は、値上げ計画を含む価格戦略について、数か月にわたって連絡を取り合っていた。
 (2) 定期的に「電話会議」を行うこと
 婉曲的に「市場調査」と呼ばれるこのような話合いの間、6社は競合他社に電話をかけたりメールを送ったりして、賃貸料、稼働率、価格戦略、値引きに関する競争上機微な情報を共有し、時には議論した。
 (3) RealPageが主催する「ユーザーグループ」に参加すること
 例えば、6社はユーザーグループを通じて、ソフトウェアの価格設定方法をどのように変更するか、また自社の価格設定戦略について話し合う。ある事例では、LivCor及びWillow Bridgeの幹部がユーザーグループに参加し、更新料の値上げ、譲歩、RealPageが推奨する賃貸料の受入れ率などについて話し合った。
 (4) RealPageのソフトウェアのパラメータに関する情報を競合他社と共有すること
 一例として、Willow Bridgeの収益管理ディレクターの要請を受けて、Greystarの収益管理ディレクターは、RealPageのソフトウェアの標準的な自動承諾パラメータを提供した。これには、「自動承認」の1日及び1週間の使用限度、Greystarが「自動承認」を使用する曜日が含まれる。  
 
5 DOJはまた、13州で8万戸以上の賃貸住宅を管理する家主であるCortlandに関しては、裁判所の承認が得られれば、訴訟を終了させる同意判決案を発表した。同意判決案に基づいて、Cortlandは、DOJの調査及び訴訟に協力し、特に以下のことを禁じられる。
 (1) 競合他社の競合上機微なデータを使用して、価格設定モデルを訓練又は実行すること。
 (2) 裁判所が任命した監視人の監督なしに、第三者のソフトウェア又はアルゴリズムを使用して賃貸住宅の価格を設定すること。
 (3) 賃貸料の設定又は推奨賃貸料の生成の一環として、他の不動産管理業者に競合上機微な情報を要求、開示等すること。
  
6 Tunney法の規定に基づき、同意判決案は競争上の影響に関する記述とともに連邦官報に掲載される。何人も60日間の意見募集期間中に、DOJ反トラスト局技術・デジタルプラットフォーム課長宛に同意判決案に関する意見書を提出することができる。ノースカロライナ州中部地区連邦地方裁判所は、60日間の意見募集期間終了後、公共の利益に適うと判断した場合、最終判決を下すことができる。

7 本訴訟の共同原告は、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、イリノイ州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、ノースカロライナ州、オレゴン州、テネシー州及びワシントン州の司法長官である。

8 6社は、いずれも集合住宅を管理しており、うち数社は管理物件の一部又は全部を所有している。

FTC、AIに関する業務提携及び投資に関するスタッフ・レポートを公表

2025年1月17日 米国連邦取引員会 公表

原文

【概要】

1 2025年1月17日、米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、大手クラウドサービスプロバイダー(Cloud Service Provider、以下「CSP」という。)であるAlphabet Inc.、Amazon.com Inc.及びMicrosoft Corp.と最も著名な生成AI開発事業者であるAnthropic PBC及びOpenAI OpCo,LLCの2社との業務提携及び投資に関するスタッフ・レポートを公表した。
 
2 リナ・カーンFTC委員長(訳注:本レポート公表時)は、次のように述べた。 「企業が生成AI技術を急速に展開している中、執行当局や政策立案者は、オープンな市場、機会、イノベーションを損なうようなビジネス戦略に対し、警戒と防御を怠ってはならない。本レポートは、大手テック企業による提携がどのように、ロックインを生み出し、スタートアップ企業から重要なAIインプットを奪う可能性があるかを示し、公正な競争を損なう可能性のある機密情報についても明らかにしている。」

3 本レポートは、3つの別々の数十億ドル規模の投資に関与した5社(MicrosoftとOpenAI、AmazonとAnthropic、AlphabetとAnthropic)に対して2024年1月にFTC法6条(b)に基づき執行された報告命令に基づくものである。

4 本レポートは、生成AI開発事業者とCSP間の業務提携について、FTC、一般市民、政策立案者が理解を深めることを目的としている。また、本レポートの調査結果は、大手テック企業が関与する業務提携の特性や潜在的影響、また、それが消費者、企業、多くの経済セグメントに与える可能性のある影響を、FTCが適切に評価するために寄与する。

5 主な調査結果
 (1) 本レポートでは、CSPとAI開発事業者との業務提携の構造に係る重要な側面として、例えば、業務提携においてCSPが保持する株式や収益分配権(revenue share right)や、AI開発事業者への投資を通じてCSPが獲得した特定の協業権、経営権、独占的権利などについて詳説し、以下のようなAI業務提携におけるいくつかの重要な条件が示されている。
 (ア) AI開発事業者との業務提携におけるCSPの大規模な株式保有権及び一定の収益分配の権利 
 (イ) CSP側がAI開発事業者側に対して程度の差はあれ保有する一定の協業権、経営権、独占的権利
 (ウ) AI開発事業者側がCSP側の投資の大部分を当該CSPのクラウドサービスに費やすことを求めるコミットメント 
 (エ) 以下のようなAI開発事業者の重要なリソース及び情報の共有
 ① ディスカウント価格での大量のコンピューティング・リソースへのアクセス
 ② AI開発事業者の最先端モデルに関する権利や知的財産権
 ③ 特定の財務データやトレーニング・データ
 (オ) AIモデルをCSPの製品の中に統合したり、CSPのプラットフォーム上で展開したりすることを通じ、既存製品を拡張する機会の提供
 (2) 本レポートでは、AI業務提携の潜在的な影響について、以下の点を注目すべきであるとしている。
 (ア) コンピューティング・リソースやエンジニア人材などの特定のインプットへのアクセスに影響を与えるCSPの能力は、業務提携しているAI開発事業者とそうでない事業者の両者にとっての競争に影響を与える可能性があること。
 (イ) 業務提携によりAI開発事業者にとって契約的・技術的なスイッチング・コストが増加する可能性があり、それによってCSPの変更がより困難になったり、複数のCSPの利用が制限されたりする可能性があること。
 (ウ) 生成AIモデル、AI開発手法、機密チップの共同開発、提携関係の下でのファイナンスや、利用顧客数及び収益額など他社が入手できないであろう機密の技術上・事業上の情報にCSPパートナーがアクセスできること。

6 本レポートは、2024年9月時点でFTCが入手した情報及び2025年1月までに公開された情報を反映している。委員会は5対0の議決で、本レポートの公表を承認した(注1)。
(注1) ファーガソン現FTC委員長(訳注:本レポート発表時は委員)は、本件についての「賛成及び反対意見」(concurring and dissenting statement)を公表し、本レポート第5章「AIパートナーシップの潜在的な影響に関する注目すべき分野」においてAI産業の将来とAIパートナーシップが競争に与えるかもしれない影響の分析についての憶測を発表すべきでなかったとの反対意見を表明し、読者は第5章を読み飛ばすか、極めて懐疑的に読むべきであると記している。
 https://www.ftc.gov/legal-library/browse/cases-proceedings/public-statements/concurring-dissenting-statement-commissioner-andrew-n-ferguson-joined-commissioner-melissa-holyoak

その他

インドネシア

インドネシア事業競争監視委員会、グーグルに対し約19億円の制裁金を賦課

2025年1月22日 インドネシア事業競争監視委員会 公表

【概要】
1 2025年1月21日、インドネシア事業競争監視委員会(以下「KPPU」という。)は、グーグルのGoogle Play Billingシステム(以下「GPB」という。)に対する1999年法律第5号(独占的行為及び不公正な事業競争の禁止に関するインドネシア共和国法、以下「競争法」という。)の違反被疑案件に関して、独占的行為(第17条)及び市場の制限と技術開発の妨害(第25条第1項b)に該当する違反行為が認定されたと発表した。競争法に基づいて設置されるKPPUの委員会パネルは、グーグルに対し、2025億ルピア(約19億円相当)の制裁金を課し、Google Play StoreにおけるGPBの利用強制の停止を命じた。また、委員会パネルは、グーグルに対し、全てのアプリ開発者がUser Choice Billing(以下「UCB」という。)プログラムに参加する機会を提供すること、本決定が法的拘束力を持つようになってから1年間、5%以上のサービス手数料の減額を提供することを命じた。この決定は2025年1月21日、Hilman Pujana氏が委員長を務め、Mohammad Reza氏及びEugenia Mardanugraha氏が委員を務める委員会パネルによって読み上げられた。

2 本件はグーグルが競争法第17条、第19条a及びb、第25条第1項a及びbに違反した疑いがあるとして、KPPUが職権で調査を開始したものである。グーグルは、Google Play Storeを通じてアプリを提供するアプリ開発者に対し、GPBの適用を強制し、アプリ開発者がこれに従わない場合には、Google Play Storeからアプリを削除するという制裁を課している。またグーグルは、GPBの利用に際し15%~30%の手数料を徴収している。委員会パネルは、2024年6月28日から本件の予備手続(preliminary examination)を行い、2024年12月3日に正式手続(follow-up examination)を終了した。

3 Google Play Storeは、アプリ内で購入したデジタル製品及びサービスをアプリ内決済するシステムとしてGPBを提供することにより、アプリ開発者とアプリユーザーを結びつけるデジタル・プラットフォームであると、委員会パネルは多面的市場分析を通じて説明した。  本件の関連市場は、2022年6月1日から2024年12月31日までの違反被疑期間中、インドネシア領域内のAndroidベースのモバイルオペレーティングシステムを搭載した全てのスマートモバイルデバイスにプリインストール可能なデジタル・プラットフォームを通じたデジタルアプリ及びサービスの流通分野である。委員会パネルは、審問手続において明らかになった事実及び市場構造分析に基づき、Google Play Storeが市場シェアの50%以上を占め、全てのアンドロイド搭載スマートモバイル端末にプリインストールできる唯一のアプリストアであると判断した。

4 グーグルは、Google Play Storeで配信されるデジタル製品及びサービスを購入するたびにGPBの利用を義務付け、GPBに代わる他の決済手段の利用を認めず、ユーザーに様々な影響を与えた。つまり、このようなGPBの利用強制が、アプリユーザーに様々な影響を与え、利用可能な決済手段の選択の制限につながったと審問手続の中で認定された。決済手段が制限された結果、アプリの利用者が減少し、取引の減少が収益の減少と相関し、サービスコストの増加によりアプリの価格が最大30%上昇した。

5 また、グーグルは、アプリ開発者がこれらの義務(GPBの利用義務)に従わなかった場合、Google Play Storeからアプリを削除し、アプリのアップデートを許可しないという制裁を課した。その結果、いくつかのアプリがGoogle Play Storeから削除された。それだけでなく、アプリ開発者はユーザーインターフェースやユーザーエクスペリエンスをカスタマイズする際の課題にも直面し、これにより、市場におけるアプリの競争力を維持することの複雑さが増している。

6 委員会パネルは、審問手続で明らかになった証拠及び事実に基づき、グーグルが競争法第17条及び第25条bに違反したことは法的にも説得力を持って証明されたと結論付けたが、第19条a及びb、並びに第25条1項aの違反の疑いについては証拠が不十分であったと結論付けた。違反の認定を受け、委員会パネルはグーグルに対して2025億ルピアの制裁金の支払を命じ、この制裁金は競争法違反の制裁金収入として国庫に納付することを決定した。さらに、委員会パネルは、グーグルに対し、Google Play StoreにおけるGPBの利用強制を停止するよう命じた。また、委員会パネルは、グーグルに対し、全てのアプリ開発者がUCBプログラムに参加する機会を提供すること、1年間は5%以上の手数料減額を提供するよう命じた。
 
7 上記制裁金は、決定が確定してから30日以内に支払わなければならない。グーグルが制裁金の支払を遅延した場合、非課税国家収入に関する規則の規定に従い、委員会パネルはグーグルに対し、毎月制裁金額の2%の遅延制裁金の支払も命じる。KPPUの決定に対して異議申立てを行う場合、2021年政令第44号第12条第2項に従い、グーグルは制裁金額の20%を銀行保証として支払わなければならない。 

タイ

タイ電子取引開発機構、デジタル・プラットフォーム・エコノミー法の草案を公表

2025年1月15日 タイ電子取引開発機構 公表

原文

【概要】

1  概要
  タイ電子取引開発機構(Electronic Transactions Development Agency、以下「 ETDA」という。)は、国務院及びタイ取引競争委員会 (TCCT) と協力して、デジタル・プラットフォーム・エコノミー法(Digital Platform Economy Act)の草案を公表し、現在、パブリック・コメントを募集している(募集期限:2月15日)。 
 本草案では、
(1) 小規模も含めたプラットフォーム事業者全体に対する規制
(2) 非常に大規模なオンライン・プラットフォーム及び指定された「ゲートキーパー」に対する追加的な規制
を課すことなどを目的としている。例えば、検索エンジン、ソーシャル・ネットワーキング、ビデオ共有、クラウド・コンピューティング、オンライン広告等、既存プロバイダーや中核的なプラットフォーム・サービスのゲートキーパーに対して、透明性及び公平性に関する追加義務を課している。また、年間収益が10億バーツを超えるか、1か月当たりのユーザー数が600万人を超える大手オンライン・プラットフォームは、報告、コンテンツ・モデレーション、トラッキングの追加責任を負うことになる。

2 デジタル・プラットフォーム・エコノミー法の主な内容
(1) 総則
 本法を担当するのは、デジタル経済社会大臣及び商務大臣であり、それぞれの権限内で施行に関する省令を制定することができる。本法の執行は、ETDAが担う(注1)。
 (注1) 現時点でTCCTは本法の執行権限を持つとの規定はない。
 本法の目的は、経済及び社会の発展、競争力の向上、消費者及びサービス利用者の保護、公正かつ効率的な競争の促進である。デジタル・プラットフォームを利用した違法行為を防止し、公平な監督を行いながら、公共の利益と個人の職業及び生活の自由とのバランスを考慮することも目的としている。
 内閣には、デジタル・プラットフォーム事業の規制及び促進に関する基準、手続、条件を政令(Royal Decree)によって定める権限が与えられている。内閣は、デジタル・プラットフォーム経済委員会(後述参照。)からの提言に基づき、デジタル・プラットフォームを介した配送業者や旅客運送事業者の保護を目的とする政令を発行することができる。
 デジタル・プラットフォーム事業者は、政府機関との連絡役を任命する義務を負うものの、国内に法人を設立する必要はない。

(2) デジタル・プラットフォーム事業者の責任と義務
 (ア) そのサービスを機能に応じて3つのタイプに分類し、異なる責任範囲を規定。
 ・単純なデータ転送サービス: 情報の単純な転送を行う。事業者が通信を開始していない、受信者を選択していない、情報を変更していないことを証明できる場合、違法行為に対する責任を免れる。
 ・キャッシング(データの一時保存)サービス: データを一時的に保存し、効率的な配信を支援する役割を持つ。データの変更を行わず、アクセス条件を遵守し、適切なサービス提供基準を満たしている場合、違法行為に対する責任を負わない。
 ・ホスティング(データ保存)サービス: 長期的にデータを保存するサービス。事業者が保存されたデータの違法性を認識していなかった場合、責任を免れるが、違法性が判明した際には、速やかにデータを削除するか、アクセスを遮断する必要がある。
 (イ) 透明性、公正性、消費者保護を確保するために以下のとおり義務付け。
 ・権利・義務の通知: ユーザーに対し、関連する法律上の権利
 ・義務及び潜在的なリスクを明確に通知する義務。
 ・苦情受付窓口の設置: 違法行為の報告や苦情を受け付ける窓口を設置し、24時間以内に受付を確認し、60日以内に調査結果を通知する義務。
 ・広告情報の開示: 広告を他の情報と明確に区別し、広告主の情報を開示する義務。
 ・利用規約の明確化: 利用規約、料金、アルゴリズム、苦情処理メカニズムを分かりやすく公開し、誰でも簡単にアクセスできるようにする義務。

(3) 大規模オンライン・プラットフォームの該当要件及び追加的義務
 (ア) 大規模オンライン・プラットフォーム(Very Large Online Platform、以下「VLOP」という。)とは、以下のいずれかに該当するデジタル・プラットフォームを指す。
 ・年間売上(税引前)が10億バーツ(約40億円)超
 ・月間ユーザー数が600万人超 
 (イ) VLOPが経済的・社会的安全保障に重大な影響を与えるリスクがあると政府が認定した場合、これらの事業者は、通常のプラットフォーム事業者の義務に加え、以下のような追加的義務を負う。これらの義務は、VLOPが公正かつ透明なプラットフォーム運営を行い、ユーザーの権利を保護するために設けるものである。
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(4) ゲートキーパー(市場支配的プラットフォーム)の該当要件及び追加的義務
 (ア) 以下の3つの条件を全て満たす事業者がゲートキーパーに該当する。
 ・経済・社会への重大な影響力: 年間売上が70億バーツ超
 ・企業ユーザーと消費者を結ぶ重要なゲートウェイ: 月間1500万人以上の消費者と1万社以上の事業者を保有。
 ・市場支配力の維持: 3年以上にわたり上記の基準を満たし続けている。
 (イ) 以下のサービスを提供する事業者がゲートキーパーとして認定され得る。
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 デジタル・プラットフォーム経済委員会は、ゲートキーパーのリストを3年ごとに見直す。
 (ウ) ゲートキーパーに対する主な追加的義務は以下のとおり。
 ・政府への情報提供義務:ゲートキーパーに該当する場合には60日以内に政府へ報告する義務。
 ・政府による調査要請への対応義務:政府がゲートキーパーに該当すると疑う場合に政府の求めに応じ、情報提出を行う義務。
 ・広告費や手数料等の料金情報の公開:透明性を確保するため、料金に関する情報を開示。
 ・事業者ユーザーの自由な利用の確保:事業者ユーザー(企業顧客)の利用の不当制限の禁止(エンドユーザーと自由に連絡・契約できるように確保)。

(5) デジタル・プラットフォーム経済委員会 
        政府関係者及び専門家で構成。デジタル・プラットフォームに関する政策決定、監督、関係機関との連携を担う。

(6) 罰則 
        違反行為に対して、行政罰(過料)及び刑事罰を規定する。違反の重大性に応じて罰則が異なる。

英国

CMA、英国デジタル新法に基づくグーグルの検索サービス等の調査を開始

2025年1月14日 英国競争・市場庁 公表

原文

【概要】

1  英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、1月14日、同年1月1日に施行された「2024年デジタル市場・競争・消費者法」(Digital Markets, Competition and Consumers Act、以下「DMCCA」という。)に基づき、同法の規制対象となる事業者の指定に係る初の調査を開始した。この調査では、検索及び検索広告サービスにおけるグーグルの地位及び、それが消費者や企業(広告主、ニュース・パブリッシャー、検索エンジンなど)にどのような影響を与えるかを評価する。

2 DMCCAに基づいて、CMAは、特定のデジタル領域(particular digital activity)に関して戦略的市場地位(Strategic Market Status、以下「SMS」という。)を持つ事業者を指定することができる。SMSの指定要件は、以下のとおり。
 ・ 英国に関連するデジタル活動において、実質的かつ定着した市場力を有すること。
 ・ 戦略的に重要な地位を有すること。
 ・ 世界売上高が250億ポンド以上、又は英国の売上高が10億ポンド以上であること。 一旦SMSの指定が行われると、CMAは当該指定事業者に対して行動要件(conduct requirements)を課すか、英国の消費者・企業にとって望ましい結果をもたらすような競争促進的介入(pro-competition interventions)を導入することができる。
  今回の調査では、英国のグーグルが検索及び検索広告分野においてSMSを有しているかの評価を行い、同時に、最終的な指定決定の際に行動要件を課すべきかどうかの検討を行う。

3 グーグルの革新的なサービスは、英国において大きな利益を生み出してきた。同社の検索サービスは、何百万人もの人々や企業がインターネットにアクセスし利用するためのゲートウェイ(入り口)となっている。英国では、グーグルが一般検索の90%以上の利用シェアを占めており、また、20万社以上の広告主がグーグルの検索広告を利用している。検索は経済成長にとって不可欠であり、検索は、企業同士、投資家、顧客とのつながりを促進する。また、イノベーションを促進するための新しいAI製品やサービスを開発するのに役立つ膨大なデータを生み出している。

4 検索が消費者、企業、経済にとって重要なデジタルサービスであることを考えると、同分野の競争が健全に機能することが極めて重要である。効果的な競争は、消費者がより多くの選択肢を享受し、新しく革新的なサービスを利用でき、自分のデータを管理できることを保証する。検索サービスは、ニュースにアクセスする手段としても重要である。効果的な競争は、人々が幅広いコンテンツにアクセスできること、また、パブリッシャーが自社のコンテンツの使用に対して公正に扱われることを保証する助けとなる可能性がある。効果的な競争が存在することにより、企業にとっては検索広告のコストが抑制される可能性があり、これは年間1世帯あたり約500ポンドに相当し、ひいては経済全体の価格を引き下げることにつながる。効果的で競争力のある市場は、例えば、新しいAIスタートアップ企業がグーグルやその他の既存のプレイヤーと対等に競争できるようにすることを含め、従来の検索サービスの代替を創出する形で企業が革新することを可能にする。

5 今回の調査の主な視点は、以下の点を含む。
 (1) 検索分野における競争の弱さと参入・イノベーションの障壁: 同分野において競争がどのように機能しているか、またグーグルがその地位を利用して他者のイノベーションを妨げているかどうか。参入障壁によって競合他社の市場参入が妨げられているかどうか。特にグーグルが、新しいAIサービスやインターフェース(「回答エンジン(answer engines)」を含む。)の開発について、グーグルの検索サービスにかかる競争圧力を制限する形で進め得る状況なのかどうか。
 (2) 市場力の利用の可能性とオープンな市場の確保: グーグルが市場での地位を利用して自社のサービス(例:ショッピングや旅行に特化した検索サービス)を優遇しているかどうか。
 (3) 搾取的行為の可能性: 消費者の同意を得ずに大量のデータを収集・使用しているかどうか、またパブリッシャーのコンテンツを公正な条件(支払条件を含む)で使用しているかどうか。

6 今後、グーグルに課され得る行動要件には、例えばグーグルが収集したデータを他の企業に提供することや、パブリッシャーが、グーグルのAIサービス等の中で自社データがどのように使用されるかについてよりコントロールできるようにすることが含まれる可能性がある。
 CMAは、本調査を9か月以内に完了する必要があり、適切かつ透明性のあるアプローチを採用する。今後は、広告主、ニュース・パブリッシャー、消費者団体を含む幅広い利害関係者の関与に重点を置く。また、決定を下す前(法定期限は2025年10月13日)にグーグルからも証拠を収集する予定である。本件の意見募集の期限は2月3日。

7 サラ・カーデル・チーフエグゼクティブは、次のように述べた。
「英国中の何百万人もの人々や企業がグーグルの検索・広告サービスに依存しており、検索の90%がグーグルのプラットフォームで行われ、20万以上の英国企業がグーグルに広告を出している。だからこそ、これらのサービスが人々や企業に良い結果をもたらし、特にAIが検索サービスを変革する可能性がある中で、公平な競争の場を確保することが非常に重要である。
 人々が検索サービスにおける選択肢とイノベーションの恩恵を十分に受け、公正な取引(例えば、データの収集・保存方法など)を受けられるようにすることが我々の仕事である。そして事業者にとっては、ライバルとなる検索エンジンであれ、広告主であれ、報道機関であれ、大小を問わず全ての企業が成功するために公平な競争の場を確保したい。」 

CMA、英国デジタル新法に基づくモバイル分野(アップルとグーグル)の調査を開始

2025年1月23日 英国競争・市場庁 公表

原文

【概要】

1 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、1月23日、DMCCAに基づき、特定のデジタル領域(areas of digital activity)における戦略的市場地位(SMS)の指定に関する第二弾の調査を開始した。今回の調査では、モバイルデバイスで動作するOS、アプリストア、ブラウザを含む「モバイルエコシステム分野」におけるアップル及びグーグルの地位について並行して評価する。調査では、モバイルデバイスを使用する人々や、これらのデバイス向けのアプリ等の革新的なサービスやコンテンツを開発している何千もの企業への影響を調査する。

2 現在、英国の16歳以上のほぼ全員(94%)、つまり約5600万人の英国の消費者がスマートフォンを所有しており、平均的な英国のユーザーは1日当たり約3時間をモバイルデバイスの使用に費やしている。また、英国では、約15,000の企業がモバイルデバイスで使用されるアプリの開発に携わっており、アプリ開発による英国の総収益は約280億ポンドと推定される。多くの企業が、デジタルウォレットのようなモバイル機器や、モバイル機器と連動するヘッドフォンやスマートウォッチのようなコネクテッドデバイスの技術開発を進めようとしている。したがって、英国経済全体で成長、投資、イノベーションの機会を最大限に生み出すには、これらの市場が大小を問わず全ての企業にとってうまく機能することが重要である。

3 英国で販売されているほぼ全てのモバイルデバイスには、iOS(アップル)又はAndroid(グーグル)がプリインストールされており、アップル及びグーグルの自社アプリストア(「App Store」と「Play Store」)及びブラウザは、他の製品やサービスと比較して、プラットフォーム上で排他的又は先導的な地位(exclusive or leading positions)を占める。これは、アップルとグーグルが、モバイルデバイス上で提供されるコンテンツ、サービス、技術開発において多大な影響力を及ぼすことができることを意味する。

4 モバイルエコシステムが人々、企業、経済にとって重要であることを踏まえると、競争がうまく機能することが極めて重要である。効果的な競争によって、アップルやグーグルが課す契約条件に関して、消費者や企業が公正に扱われることにつながる。また、効果的な競争によって、企業がイノベーションを起こし、様々なコンテンツ、サービス、技術開発をモバイル端末で消費者に提供するための開かれた機会を確保することができる。これには、AI製品やサービス、デジタルウォレットを通じて提供される非接触型決済、モバイルブラウザを通じてアクセスする新しいタイプのアプリ(スーパーアプリやウェブアプリなど)が含まれる可能性がある。これはひいては、モバイルエコシステムに依存する経済の一部において、持続的な成長機会を支える可能性がある。

5 今回の調査の視点は次のとおり。
 (1) アップルとグーグルのモバイルエコシステム間の競争、及びエコシステム内での競争の程度: アップル及びグーグルのモバイルエコシステムにおいて競争がどのように機能しているか。競合他社がアップルとグーグルのプラットフォーム上で競合サービス等を提供することを妨げているものは何であるのか。
 (2) アップルとグーグルの市場支配力を他の活動に利用(leveraging)する可能性: アップル又はグーグルが、OS、アプリ配信、ブラウザにおける地位を利用して、iOSやAndroidデバイスにプリインストールされ、より目立つ位置に配置されていることで、自社アプリやサービスを優遇しているかどうか。
 (3) 潜在的な搾取行為: アップル又はグーグルが、自社アプリストアにおいてアプリ開発者がアプリを配布する条件として、不公平な利用規約への同意を求めているかどうか。モバイルデバイス上で、消費者がアプリを能動的に選択することを困難にするような「選択アーキテクチャ(choice architecture)」がユーザーに対して表示されているかどうか。

6 今後、アップルやグーグルに課され得る行動要件には、例えば、他社アプリにモバイルデバイス上で動作するために必要となる主要機能へのアクセスを開放することや、ユーザーがアップルやグーグルの自社アプリストア以外で、より簡単にアプリをダウンロードしアプリ内コンテンツの支払を行えるようにすることが含まれる可能性がある。

7 CMAは、本調査について、適切かつ透明性のあるアプローチを採用する。今後は、デバイスメーカー、ソフトウェア開発者、ユーザーグループなどを含む幅広い利害関係者との関与に重点を置く。また、決定を下す前(法定期限は2025年10月22日)にアップルとグーグルからも証拠を収集する予定である。本件の意見募集の期限は2月12日。

8 サラ・カーデル・チーフエグゼクティブは、次のように述べた。
   「モバイルエコシステムの競争が激化すれば、アプリストア、ブラウザ、OSなど、何百万人もの人々が利用する様々なサービスにおいて、新たなイノベーションと新たな機会が促進される可能性がある。よい競争が促進されれば、事業者はアップルやグーグルのプラットフォームで新しい革新的な製品やサービスを提供できるようになり、英国の経済成長を後押しするだろう。」