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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2024年12月更新)

米国

FTC、Hessコーポレーション のCEOをChevronの取締役に任命することを禁止する同意命令案を承認

2024年9月30日 米国連邦取引委員会 公表

原文

【概要】

1 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、Chevronが競合事業者の石油会社Hessを買収するにあたっての反トラスト法上の懸念を解消するため、Chevronの取締役にHessコーポレーションのJohn B. Hess CEOを任命することを禁止する同意命令案を承認した。

2 FTCは、申立書において、以下のように主張している。
 Hess氏は、石油輸出国機構(OPEC)の現職及び元事務局長並びにサウジアラビア出身の政府高官と公私にわたって情報交換を行っていた。その情報交換の中で、Hess氏は、原油市場の安定と在庫管理の重要性を強調し、これらの関係者に、この問題に関して行動を起こし、様々なイベントで発言するよう促していた。
 Hess氏は、OPECの競合産油国にも生産を安定させ、在庫を減らすよう勧めた。Hess氏が公言しているように、在庫水準と原油価格には直接的な相関関係がある。原油の探査と生産が減少すると、一般的に原油価格が上昇し、ガソリン、ディーゼル、ジェット燃料などの輸送用燃料や灯油など、石油製品の価格も上昇する。
 ChevronとHessコーポレーションとの合併契約は、Hess氏を取締役に任命するために必要なあらゆる行動をとることをChevronに要求している。Hess氏がChevronの取締役に就任した場合、市場を安定させるというOPECの目標を支持する旨のメッセージをOPEC等に広めるためのより大きなプラットフォームを得ることになる。そして、Chevronは原油価格の上昇を維持するためにOPECの供給量決定に合わせて自社の生産を調整する可能性が高まる。Hess氏のこれまでの行動を考慮すると、Hess氏がChevronの取締役に任命されることで、業界における協調のリスクが有意に高まるなど、競争を阻害するおそれが大きくなる。
 
3 FTC競争局のヘンリー・リュー局長は、次のように述べた。
 「Hess氏は、世界の原油の供給量や原油市場におけるその他の競争要因に関して競合他社と情報交換を行っており、 Chevronの取締役には不適格である。FTCは、この重要な市場における競争を保護し、米国の消費者がガソリン価格の低下から利益を得られるよう、あらゆる執行手段を行使する。」

4 FTCが提案する同意命令案は、ChevronがHess氏をChevronの取締役に指名、任命することを禁止するとともに、Hess氏がChevron若しくはその取締役会の顧問、相談役又は代表に就くことを認めることを禁止している。ただし、同意命令案は、ChevronがHess氏を①ガイアナにあるHessコーポレーションの石油関連及び保健省関連の活動に関してガイアナ政府関係者との協議、②Salk研究所の「植物利用イニシアティブ」に関連した協議を担当する役割に限定した顧問、相談役、又は代表とすることを認める。

5 FTCは、3対2の賛成多数で同意命令案を承認し、訴状及び同意命令案を意見募集に付すことを決定した。リナ・M・カーン委員長は、レベッカ・ケリー・スローター委員及びアルバロ・ベドヤ委員と連名で賛成の意見書を発表した(注1)。メリッサ・ホリオーク委員(注2)及びアンドリュー・N・ファーガソン委員(注3)は、それぞれ反対の意見書を発表した。
(注1) https://www.ftc.gov/legal-library/browse/cases-proceedings/public-statements/statement-chair-lina-m-khan-joined-commissioner-rebecca-kelly-slaughter-commissioner-alvaro-bedoya-1
(注2) https://www.ftc.gov/legal-library/browse/cases-proceedings/public-statements/dissenting-statement-commissioner-melissa-holyoak-matter-chevron-corporation-hess-corporation
(注3) https://www.ftc.gov/legal-library/browse/cases-proceedings/public-statements/dissenting-statement-commissioner-andrew-n-ferguson-matter-chevron-corporation-hess-corporation

エピックゲームズ対グーグルの私訴におけるグーグル敗訴を受けての是正措置命令

2024年10月7日 カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所

【概要】
1 本件経緯
(1)  2020年8月、エピックゲームズは、独自の決済システムを備えたゲームアプリ(フォートナイト)が、グーグルのPlay Storeから削除されたことが反トラスト法違反であるとして差止めを求めて、カリフォルニア州連邦地方裁判所に提訴した。

(2)  2023年12月、カリフォルニア州連邦地方裁判所の陪審員は、全員一致でグーグルの独占を認める評決を出した。

(3) 2024年10月7日、カリフォルニア州連邦地方裁判所は、上記評決を受けて検討した結果、具体的な是正措置に関する命令を出した。

2 是正措置命令の概要
(1) 本命令は、Google LLC及びその親会社、関連会社、子会社、役員、代理人、従業員等で、本命令の送達による実際の通知を受け取った者(総称して「グーグル」という。)に適用される。 

(2) 特段の定めがない限り、本命令の効力発生日は2024年11月1日とする。

(3) 本命令の地理的範囲はアメリカ合衆国とする。

(4) 2027年11月1日までの3年間、グーグルは、Androidアプリを配信している又は配信を検討している個人又は事業者等とGoogle Play Storeから得た収益を共有してはならない。

(5) 2027年11月1日までの3年間、グーグルは、アプリ開発者がアプリを最初に又は独占的にGoogle Play Storeに配信することに同意することを、支払、収益分配又はグーグルの製品・サービスへのアクセスの条件とすることはできない。

(6) 2027年11月1日までの3年間、グーグルは、アプリ開発者がサードパーティのAndroidアプリ配信プラットフォームでアプリを配信しないこと、又はGoogle Play Storeで配信しているアプリにはない機能や異なるバージョンでのアプリを配信しないことに同意することを、支払、収益分配又はグーグルの製品・サービスへのアクセスの条件とすることはできない。

(7) 2027年11月1日までの3年間、グーグルは、OEM又は通信事業者との契約において、Android端末の特定の場所にGoogle Play Storeをプリインストールすることに同意することを、支払、収益の分配又はグーグルの製品・サービスへのアクセスの条件とすることはできない。

(8) 2027年11月1日までの3年間、グーグルは、OEM又は通信事業者との契約において、Google Play Store以外のAndroidアプリ配信プラットフォーム又はストアをプリインストールしないことに同意することを、支払、収益の分配又はグーグルの製品・サービスへのアクセスの条件とすることはできない。

(9) 2027年11月1日までの3年間、グーグルは、Google Play Storeで配信されるアプリで、Google Play Billingの使用を義務付けたり、Google Play Billing以外のアプリ内決済手段の使用を禁止したりすることはできない。グーグルはアプリ開発者がユーザーとGoogle Play Billing以外のアプリ内決済手段の利用可否について連絡を取ることを禁止することはできない。グーグルはアプリ開発者にGoogle Play Billingを利用しているかどうかに基づく値段設定を求めることはできない。

(10) 2027年11月1日までの3年間、グーグルは、アプリ開発者がユーザーに対してGoogle Play Store以外でのアプリ入手方法や価格について連絡することを禁止することはできない。また、アプリ開発者がGoogle Play Store以外でのアプリダウンロードのリンクの提供を禁止することはできない。

(11) 3年間にわたり、グーグルは、サードパーティのAndroidアプリストアがユーザーにGoogle Play Storeのアプリを提供できるようにGoogle Play Storeのアプリカタログにアクセスできるようにする。Google Play Storeでのみ入手可能なアプリについて、グーグルは、Google Play Storeで直接ダウンロードできるその他のアプリと同じ条件でユーザーがダウンロードできるようにし、グーグルはそれによる全ての収益を確保できる。グーグルはサードパーティのAndroidアプリストアが、アプリカタログに掲載することをオプトアウトすることができる仕組みを提供する。グーグルは、本条項を遵守するために必要な技術の構築と実施を本命令の日付から8か月以内に行い、その技術が完全に機能し始めてから、3年間の遵守期間を開始することとする。

(12) 3年間にわたり、グーグルは、Google Play Storeを通じてサードパーティのAndroidアプリ配信プラットフォーム又はストアの配信を禁止することはできない。グーグルは、プラットフォーム又はストア及びそれらが配信するアプリが、コンピュータシステム及びセキュリティの観点から安全であり、米国連邦法又は州法に違反する違法な商品・サービスではなく、グーグルのコンテンツ基準にも違反しないことを確保するために、審査し、適当な措置を講ずることができる。この審査により講じる措置は、グーグルがGoogle Play Storeで配信するアプリに対して現在講じている措置と同等のものでなければならない。また、措置について(サードパーティから)異議申立てがあった場合、グーグルは、その必要性等について立証責任を負う。これら審査等にかかった相当の費用は、実費ベースで、グーグルからサードパーティに請求することができる。グーグルは、本条項を遵守するために必要な技術及び手続の構築と実施を本命令の日付から8か月以内に行い、その技術及び手続が完全に機能し始めてから、3年間の期間を開始することとする。

(13)  (12)記載の サードパーティからの異議については、以下に規定する技術委員会がまず判断し、必要に応じて裁判所が最終決定する。本命令の日付から30日以内に、当事者は裁判所に対して、3名で構成される技術委員を推薦する。エピックゲームズ及びグーグルはそれぞれ1名を選出し、この2名が3人目の委員を選出する。技術委員会が紛争を処理・解決できない場合には、当事者は裁判所に解決を求めることができる。技術委員会は本命令に定めた期限を延長することはできないが、裁判所に延長の受入れ又は否定を提案することはできる。3人目の委員の報酬は、当事者が均等に負担する。

(14) グーグル又はエピックゲームズは、正当な理由がある場合、本命令の変更を要求することができる。

3 グーグルの対応
 グーグルは、上記第8項を除き本件是正措置の実施を一時停止するよう裁判所に申し立て、同申立ては認められた(注1)(注2)。グーグルは2023年12月、州との裁判で和解した際に第8項について合意している。
(注1)https://fingfx.thomsonreuters.com/gfx/legaldocs/zjpqnjdlovx/Donato-order-Epic-Google-20241018.pdf
(注2)https://www.documentcloud.org/documents/25224867-google-stay-appeals-epic-case

司法省など、グーグルにChromeの譲渡を求めることを含む是正措置案を提出

2024年11月20日 司法省等によるコロンビア特別区連邦地方裁判所への提出文書

【概要】
1 本件経緯等
 2020年、司法省及び各州の司法長官(以下「原告」という。)が、グーグルの反トラスト法違反を訴えた訴訟に関して、コロンビア特別区連邦地方裁判所は2024年8月5日に、グーグルが総合検索サービス市場及び検索テキスト広告市場において独占力を有しており、それを違法に維持・強化した旨を認める判決を出した(注1)。同判決を踏まえ、2024年11月20日、原告はグーグルが高いシェアを持つブラウザ(Chrome)の第三者への譲渡(構造的措置)を含む是正措置案に関する最終判決案(Proposed Final Judgment、以下「PFJ」という。)を裁判所に提出した。原告は、今後の検索市場において、AIが重要な機能となるであろうことから、競合のAI製品の会社への投資を禁止する措置も含むなど、現在及び過去だけでなく、AI製品分野の競争も意識した将来を見据えた是正措置の重要性を強調している。なお、グーグルの独占が総合検索市場で10年以上も続いたことに対処するため、是正措置案の有効期間は原則として10年間としている。
 グーグルは、独自の是正案を2024年12月に提出する方針としており、2025年夏頃に判決が下される予定である。
(注1)https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/usa/2024usa/202410us.html

2 PFJにおける各是正措置案の概要
(1) 第三者との排他的な契約の停止及び防止
① 効果的な是正措置は、グーグルと競合する総合検索エンジンや潜在的な新規参入者に対して、コストの増加、流通の妨害、競争上重要な情報へのアクセスの阻害を防ぐものでなければならない。そのため、PFJでは、グーグルが、グーグルをデフォルトの総合検索エンジンとするため、又は第三者が競合する検索製品を提供するのを妨害するために、第三者に対して金銭供与を含む利益提供を禁止する。
② PFJでは、グーグルがコンテンツパブリッシャー等と排他的契約(グーグルがコンテンツパブリッシャーに対しAI製品製造者等へのデータの提供を制限することを含む。)を結ぶこと、グーグルの総合検索エンジンを他のグーグル製品とバンドル・抱き合わせすること、総合検索サービスの配信に関する収益分配契約を締結すること、米国当局の事前承認を得ることなく総合検索サービス市場及び検索テキスト広告やAI製品分野における競合他社に投資したり、競合他社との提携や買収を行うことを禁止する。これらの是正措置は、グーグルの違法な行為を終了させ、競合他社や新規参入者に対して市場を開放することを狙いとしている。

(2) 自己優遇を可能にする所有及び支配の禁止
 ① 自己優遇等を通じて競合他社や潜在的な新規参入者の排除のおそれを防ぐため、PFJはグーグルにChromeの第三者への譲渡を要求する。裁判所が認めたように、「グーグルが最も効率的な検索配信手段をほぼ完全に支配していることは、参入障壁の大きな要因である」ため、Chromeをデフォルトに設定することは、「他に利用可能な検索配信手段を大幅に狭めるという市場の現実を招き、新たな競争の出現を阻害する」ものである。PFJはこの「支配の現実」に対処しており、競合他社や潜在的な新規参入者が競争を行うインセンティブを回復するものである。PFJは、グーグルがブラウザを所有することを禁止する(Chromeの譲渡後、グーグルは5年間ブラウザ市場に再参入できない)。
② グーグルが現在又は将来の競合他社と財務的に関わり合うことは、是正措置を無意味なものにするため、検索及び検索テキスト広告の競合他社、クエリを基礎としたAI製品や広告技術等の競合他社への投資・買収も禁止する。潜在的な競合他社への投資や買収は、今後出てくる可能性のある競争を阻害し、それらの競合他社がグーグルと競争するインセンティブを阻害し、今後何十年かで検索及び検索テキスト広告市場がイノベーティブに変化していくことを促進するというPFJの目的を害する。グーグルは、上記のような投資を行っていればそれを開示し、即座にそれによる利益を競合製品の排除に利用することを止め、6か月以内に譲渡しなければならない。
③ これらの是正措置が、グーグルがAndroidエコシステムを自己に優位となるように不当に活用することを防止する上で効果的ではない又はグーグルが是正措置を回避しようとした場合には、更なる構造的な是正措置としてAndroidを第三者へ譲渡する要求を想定している。

(3) 自己優遇を防止する行動的是正措置
① 是正措置を効果的なものにするためには、グーグルが、自社の検索製品に、自社が所有・管理する製品・サービス(モバイルOS(Android)、アプリ(YouTube)、AI製品(Gemini)、関連するデータなど)に優先アクセス権を付与することによる是正措置の回避を防止する必要がある。グーグルが、自社の所有・管理する製品・サービスを、自社の総合検索エンジン又は検索テキスト広告製品を優遇するために利用することを禁止する。
② PFJは、グーグルが、総合検索サービスや検索テキスト広告市場において、ユーザーが競合する総合検索エンジンを発見する能力を損なったり、妨害したり、何らかの形で弱めたり、競争者の競争力を制限したり、その他の方法で グーグルにとって競争上の脅威となる商品やサービスをユーザーが発見することを妨げる行為を行うことを禁止する。

(4) シンジケーション(注2)とデータアクセスを通じた競争の回復
① 競争力のある総合検索エンジンの「構築、改善、維持」のために、膨大な量のデータは「不可欠な原材料」である。グーグルは違法行為により競合他社を犠牲にして長年にわたり膨大な量のデータを蓄積してきた。このPFJは、反競争的な方法で得られた優位性を是正することを目的としている。そこで、PFJは、とりわけ競合他社及び潜在的な新規参入者に対して、限界費用で、かつ継続的に検索インデックス(注3)を提供すること、10年間にわたり、ユーザーデータ及び広告データを無償、非差別的かつ適切なプライバシー保護措置を講じた上で、競合他社のAI製品においても使用制限などを設けず、提供することをグーグルに義務付ける。
(注2)一般的には「再配信」や「転載」などの意味で使われる言葉。
(注3)ウェブサイトをクロールして集積したデータベース。
② PFJは、グーグルがパブリッシャー、ウェブサイト、コンテンツクリエーターに対して、データクローリングの権利(検索インデックスの作成や大規模言語モデルの訓練などのためにコンテンツを取得されたり、AIが生成したコンテンツとして表示されることを拒否(オプトアウト)する権利)を提供することを求めている。
③ 参入障壁を取り除き、グーグルが違法に得た規模の優位性を解消するため、グーグルに対して、検索結果、ランキングシグナル、クエリに関する情報を10年間、また、グーグルの検索テキスト広告を1年間、一定の制限付きで開示することを義務付ける。

(5) 透明性の向上及びスイッチング・コストの削減による競争の回復
① グーグルによる検索テキスト広告の独占を維持するための違法行為は、広告主による検索プロバイダーの選択を妨げるとともに、競合他社が検索広告によってマネタイズする能力を妨げるものであり、「グーグルが検索テキスト広告において超競争的な価格(supracompetitive price)で利益を得ることを可能」にし、「テキスト広告の質を低下」させ、関連サービス等の質も低下させていた(広告主が検索クエリレポートで受け取る情報がより少なくなっている。)。
② PFJは、広告主がグーグル及び(グーグルの)競合他社のサービスを利用して自社の広告を最適化するために必要な、グーグルテキスト広告のコストやパフォーマンスに関する情報、選択肢、可視性を得られるようにすることで、これらの損害を是正する。特に、グーグルに対して、広告主への検索クエリレポートの中に、広告パフォーマンス及びコストに関する必要十分なリアルタイムの情報を含めること等を義務付ける。
③ 広告主が広告オークションで入力したテキスト広告のデータや情報をエキスポートする能力をグーグルが制限することを禁止する。そして、グーグルが、テキスト広告のオークションや開示情報の変更について月次のレポートを技術委員会(後述(7)参照。)及び原告に提出することを求める。

(6) 競争を回復するための検索配信契約及びユーザー通知に関する制限
① 本件における包括的な問題解消として、グーグルの検索配信契約から生じた影響を元に戻す必要がある(米国のほとんどのデバイスでグーグル検索がプリインストールされる契約。これらの契約により、グーグルの競合他社がユーザーに他の方法でリーチせざるを得なかった。)。そのため、PFJはグーグルに対してChromeを分割・譲渡することを義務付けている。これにより、グーグルがChromeという重要な検索アクセスポイントを支配することが恒久的に阻止され、競合する検索エンジンは、多くのユーザーがインターネットへの入り口としているブラウザにアクセスする能力を得ることができる。
② PFJは、グーグルがサードパーティ-デバイスや検索アクセスポイント(例:Samsungのデバイス、Safari、Firefox等)と契約を結ぶこと、及び、グーグル自身のデバイス(Pixelなど)を通じて総合検索サービスを配信することを制限するための複数の規定を盛り込んでいる。これにより、総合検索サービス及び検索テキスト広告の両市場における競争が促進される。これらの規定は、グーグルの違法な配信契約を終了させ、また違法な契約がアップデートされないようにし、アップルを含むディストリビューターへの反競争的な金銭の支払を排除するようにデザインされている。アップルは強力な潜在的競争者であるが、グーグルから多額の収益分配金受け取っているため、グーグルに対抗してこなかった。したがって、PFJは、グーグルがアップルに対して、総合検索又は検索アクセスポイントに関連するデフォルト、プリインストール等を得る見返りとして、いかなる方法の利益を提供することも禁止している。
③ アップル以外のディストリビューターやサードパーティ-デバイスに対しても同様に、限定的な例外を除いて、グーグルが総合検索又は検索アクセスポイントに関連するデフォルト、プリインストール等を得る見返りとして、いかなる方法の利益を提供することも禁止している。
④ PFJは、グーグルが今後提供する自社デバイスに検索アクセスポイントをプリインストールすることを禁止するとともに、ユーザーが以前にグーグルのブラウザにおけるデフォルトの総合検索エンジンを自発的に選択していなかった場合には、グーグルブラウザの新規及び既存の画面でそれを選択する画面を示すことを求めている。この選択画面は、グーグルを優遇せず、消費者行動の経験的証拠に基づいて、使いやすく、選択の複雑性などを最小化するように設計されなければならない。

(7) 是正措置の実効性確保及び迂回や報復の防止
 独占状態の維持を防止・抑制する是正措置としては、是正措置の実効性確保及び独占状態を維持するための新たな方法などを通じた是正措置の迂回や報復への防止策が求められる。PFJは、グーグルが社内にコンプライアンス担当責任者を任命すること、並びに、原告及び裁判所がグーグルの遵守状況を監視するサポートを行う技術委員会(委員は裁判所が任命。)を設立することを義務付ける。この措置によって、原告はグーグルの遵守状況に関する申告を調査するためのツールを手にすることができ、かつ、グーグルが迂回や報復をすることを禁止することができる。

その他

ブラジル

ブラジル経済擁護行政委員会、労働分野において反競争的行為が行われた疑いで31社に対し、審査手続を開始

2024年10月8日 ブラジル経済擁護行政委員会

【概要】
 2024年10月8日、ブラジル経済擁護行政委員会(以下「CADE」という。)の総監督局(SG)は、労働市場における反競争的行為を行った疑いで、バイエル、コカ・コーラなどの大企業及び日本企業を含む主に消費財メーカー31社に対して法律に基づく正式な審査手続を開始すると発表した。CADEが公表した審査開始の決定に係る調査内容を示した報告書(以下「報告書」という。)によると、今回の調査は、リニエンシー及びCADEのヒアリングにより行われた。CADEは、リニエンシーの署名者が提示した文書及び報告書(①各事業者の参加の度合い、②参加の特徴(積極性、一貫性、同時性)、③違反被疑行為への最近の関与を証明する文書など。)の分析を行い、反競争的行為に関与した疑いのある事業者31社(以下「関係事業者」という。)のリスト(バイエル、ネスレ、コカ・コーラ、コルゲート、ダノン、ヘンケル、日の出グループ、ニベア、ペプシコ、ユニリーバなどを含む。)を作成した。関係事業者は、競争上機微な情報の交換などを行い、ブラジルの労働市場における競争を阻害した疑いが持たれている。関係事業者は、30日以内に反証を提出することができる。

【報告書の概要】
1 本件調査では、主に消費財メーカーが行った労働市場に反競争的な影響を与える行為を対象としているが、この分野に限られるものではない。反競争的被疑行為は、遅くとも1994年から2021年初めまで続いたと見られている。

2 反競争的行為と疑われる競争上機微な情報の交換には、賃金、無料の食料クーポン、医療保険、生命保険、私的年金、各種ボーナス、将来の賃上げ計画などに関する情報の交換が含まれていると見られている。

3 関係事業者は、「消費財企業グループ」(Grupo de Empresas de Consumo(以下「GECON」という。))という団体を通じて、定期的な対面会議、オンライン会議、電子メール、WhatsAppグループなどにより、ブラジルの雇用分野の競争上機微な情報を体系的に交換した疑いが持たれており、これにより対象事業者の雇用分野の競争を阻害するおそれがある。

4 関係事業者による反競争的被疑行為は、ブラジルの労働市場における雇用者間の労働力の維持又は獲得の競争を制限し、妨げる効果を持つ可能性があり、特に全国規模の消費財メーカーなどが雇用する労働力の獲得競争に影響を及ぼす可能性がある。

5 ブラジル競争法は、憲法が定める自由な競争及び経済力の濫用の防止の規定に基づき、市場の競争力を確保し、ひいては消費者の価格を引き下げ、製品の多様性及び品質を向上させ、イノベーションを促進することを目的として、経済秩序に対する違反の防止及び処罰を規定している。労働市場にも同じ論理が当てはまる。企業が消費者に製品を購入させるために競争するのと同様に、企業は従業員を雇用又は維持するためにも競争する。この意味で、製品をめぐる競争が消費者により良い条件を提供するのと同様に、従業員の獲得・維持をめぐる雇用者間の競争は、より良い賃金条件と労働給付、そしてより大きな雇用機会につながる。

6 消費者のための競争は製品の販売競争であるが、被雇用者のための競争は、例えば原材料の購入競争と同じように、労働力の購入競争である。独占又は寡占という販売における市場支配力の行使が製品価格の上昇を引き起こし、消費者厚生を低下させる可能性があるのと同様に、雇用者は賃金コストを削減することによって増収を図るインセンティブがあり、買い手独占又は買い手寡占に当たる労働力の購入における市場支配力の行使もまた、労働者の労働条件及び賃金を人為的に制限する可能性がある。

7 競争法は伝統的に製品の販売市場により多く適用されてきたが、購入者も反競争的行為を行う可能性があるため、競争法は投入財の購入市場にも同様に適用される。このような考えの下、各国競争当局においても、労働市場における反競争的行為に対して調査の開始や法的措置が採られている事例も見られる。しかし、まだ、製品市場における競争法の適用と労働市場における競争法の適用の間には不均衡がみられる。

8 労働市場における買い手独占の力の行使は、場合によっては製品市場の消費者にも害を及ぼす。例えば、企業が製品市場と労働市場の両方で市場力を有している場合、労働市場での力の行使は、製品市場における生産量の低下につながる。さらに、企業が同じ製品市場で競争していなくても、消費者厚生の低下が続く可能性がある。

9 競争法は一般法であり労働市場にも適用され得るが、これまで製品市場における事例が多く、労働市場への適用に関する学説や判例の積み重ねが少ない。これは、憂慮すべき点である。なぜなら、競争法の適用を製品市場に集中する場合、利益最大化のために合理的な行動をとる企業は、労働市場も含めたその他の市場において収入の増大を図ろうとするからである。

10 各国当局の動き(ガイドラインの策定や審査の開始)を見ると、労働分野での買い手独占に対する懸念に、競争法の観点からも、もっと強く対処すべきとの認識が高まっている。
・米国では、司法省が2016年に「人事担当者のための反トラスト法ガイダンス」を公表し考え方を示している。
・日本では、公正取引委員会が2018年に競争政策研究センターから「人材と競争政策に関する検討会」報告書を公表している。
・英国では、2023年に競争・市場庁が「反競争的行為の回避のための雇用主に対する助言ガイダンス」を公表している。
・香港では、2018年に競争委員会が「雇用分野の競争上の問題」を公表している。
・ポルトガルでは、2021年に競争当局が「労働市場協定及び競争政策に関するイシューペーパー」を公表している。
・カナダでは、2023年に競争局が「賃金協定に関する執行ガイドライン」を公表している。
・OECDでは、2020年に事務局ペーパーとして「労働市場における競争上の懸念」を公表している。

11 ブラジルの労働市場では、労働者は賃金が低くても転職しにくい環境があり、雇用者が市場力を行使し、賃金やその他の労働条件を引き下げることが労働者を失うことなく容易にできる環境がある。ブラジルの労働市場で、多くの労働者は低スキル、低賃金で働いており、雇用者による市場力の行使に影響を受けやすい。

12 労働市場における水平合意(共謀のタイプ)は、以下の3つに分類できる。
①賃金取決め合意
②雇用しないことを取り決める合意
③競争のパラメーターとなる雇用条件を調整するための情報交換
 報告書では、上記3つのタイプの共謀について、学説やOECDの報告書などの国際的議論についてまとめている。

ドイツ

ドイツ連邦カルテル庁、フェイスブックに対する調査を終結

2024年10月10日 ドイツ連邦カルテル庁 公表

原文

【概要】
1 ドイツ連邦カルテル庁(以下「カルテル庁」という。)は、フェイスブックに関する調査を終了した。この調査の結果、ソーシャルネットワークである「フェイスブック」のユーザーに対し、データの統合に関する選択肢を大幅に改善する措置が講じられた。

2 カルテル庁は、2019年2月、メタ(旧フェイスブック)が、ユーザーの同意なしに外部からのユーザーの個人情報を統合することを禁止した。メタはこの決定を不服として控訴した。数年にわたる法的手続が行われた間(2020年にドイツ連邦通常裁判所(注1)及び2023年の欧州司法裁判所は原則的な事項に関してカルテル庁の立場を容認。)、メタとカルテル庁もカルテル庁の決定を実施するための具体的な措置について集中的に交渉した。メタの是正措置は、現在、カルテル庁が本件を終結させるのに十分効果的なものであると判断されている。それを受けてメタは、デュッセルドルフ高等裁判所で係属中のカルテル庁の決定に対する控訴を取り下げた。この決定は最終的なものである。
(注1)https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/sonota/2020others/202008others.html

3 アンドレアス・ムントカルテル庁長官は、次のように述べた。
「我々の2019年のフェイスブックに対する決定は、今日でも画期的と言える。我々の決定の結果、メタはユーザーデータの取扱方法について非常に大きな変更を行った。主な変更点は、フェイスブックのサービスを利用する際に、フェイスブックの利用中に生成されたデータでなくても、メタが無制限にデータを収集し、そのデータをユーザーアカウントにリンクすることにユーザーが同意させられること、がなくなったことである。これは、インスタグラム等のメタが提供するサービスや、サードパーティのウェブサイトやアプリなどにも適用される。つまり、ユーザーは、自分のデータがどのように統合されるかについて、よりよくコントロールできるようになったのである。このような非常に具体的な改善に加え、カルテル庁の決定は、欧州司法裁判所による重要な画期的判決(注2)につながり、国内及び欧州レベルでの立法構想に影響を与えた。このことはまた、この分野における法的な明確性と、我々が介入できる手段という点で、現在の状況が5年前とは大きく異なっていることを意味している。」
(注2)https://curia.europa.eu/jcms/jcms/p1_4029629/en/

4 カルテル庁の決定以前は、フェイスブックが外部のサービスからもユーザーに関するデータを収集し、そのデータを関連するフェイスブックのアカウントにリンクさせることが許可されている場合にのみ、ソーシャルネットワークのフェイスブックを使用することができた。これには、メタが提供する他のサービス(インスタグラムなど)のデータや、サードパーティのアプリやサードパーティのウェブサイトから収集されたデータも含まれる。ユーザーには、ほぼ無制限に統合されるデータに同意するか、ソーシャルネットワークを全く利用しないかの選択肢しかなかった。カルテル庁は、これらの利用規約を禁止し、ユーザーの明確な同意がある場合にのみデータの統合が可能であると決定したが、同意をフェイスブックの利用条件とすることはできないとした(注3)。
(注3) https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/sonota/2019others/201903others.html

5 今回、調査を終了する前に、メタとカルテル庁との間で集中的な協議が行われ、その間にメタはカルテル庁の決定を実施するために以下の措置を徐々に講じた、又は講じることに合意した。
(1) アカウントセンターを導入し、メタが提供するその他のサービスから収集したデータを分離(注4)
 アカウントセンターでは、メタが提供するどのサービス(フェイスブック、インスタグラム等)に接続するかをユーザー自身が決めることができ、広告目的でもこれらのサービス間でデータを共有することをユーザー自身が許可できる。各サービスを個別に利用する場合でも、ユーザーエクスペリエンスの品質が大きく損なわれることはない。
(注4) https://www.bundeskartellamt.de/SharedDocs/Meldung/EN/Pressemitteilungen/2023/07_06_2023_Meta_Daten.html
(2) フェイスブックのデータを他のデータから分離できる「クッキー」設定の導入
 フェイスブックの「クッキー」設定では、自分のフェイスブックのデータについて、いわゆるビジネスツールを使ってメタがサードパーティのウェブサイトやアプリから収集したデータと統合することを許可するかどうかを、ユーザーが決めることができるようになった。これはインスタグラムにも適用される。
(3) フェイスブックログインに関する特別な例外
 フェイスブックのデータを他のウェブサイトやアプリの使用中に収集されたデータと統合させないことを選択したユーザーは、フェイスブックログインの例外を設定することができ、その場合、サードパーティのアプリやサードパーティのウェブサイトでも、ユーザーはフェイスブックログインを引き続き使用できる。これまでユーザーは、フェイスブックログインを使用したい場合、全てのユーザーデータをサードパーティのアプリやウェブサイトのデータと統合することをメタに許可する必要があった。
(4) 簡潔で分かりやすいユーザー通知
 メタのユーザーが関連する設定をすぐに見つけて、メタによる望ましくないデータの統合を防ぐために、過去にデータの統合に同意したことのあるユーザーには、フェイスブックにアクセスする際に目立つ通知が表示される。この通知には、新たに設計された同意オプションへの直接リンクが含まれている。
(5) ユーザーナビゲーション
 メタは、データポリシーの冒頭に、ユーザーの選択肢を知らせる目立つ通知を追加した(注5)。これには簡単な説明と、アカウントセンター及び「クッキー」設定へのリンクが含まれている。
(注5)「私たちが使用する情報を管理する方法」 https://en-gb.facebook.com/privacy/policy/?entry_point=facebook_page_footer
(6) セキュリティ目的でのデータ統合の制限
 フェイスブック又はインスタグラムにおけるユーザーの設定にかかわらず、メタはセキュリティ目的で利用データを保存し、統合することができるが、これは一時的なものであり、事前に定義された標準化された期間を超えないこととする。

 6 ムント長官は、次のように述べた。
「これらのツールを総合すると、ユーザーは、他のメタが提供するサービス、サードパーティのアプリやウェブサイトから収集された個人データが自分のフェイスブックアカウントにリンクされる範囲について、よりよくコントロールができるようになる。」

7 上記の措置は既に実施されているか、今後数週間以内に実施される予定である。

8 今回、カルテル庁が調査を終了したという事実は、全ての競争法上の懸念が完全に排除されたことを意味するものではない。カルテル庁が調査を終了したのは、メタの措置がカルテル庁が裁量でメタに対する本件調査を終了するのに十分に適切な内容であると判断されたからである。また、必要に応じて他の当局が、EUにおけるメタのサービスの利用者のために更なる改善を達成するための効果的かつ適切な手段を自由に使えるからである。従って、上述の一連の是正措置に伴う今回の調査の終了は、メタがこれらの是正措置から生じる義務を遵守しているかどうかについての認定を意味するものではない。例えば、欧州委員会は現在、ユーザーが有効な同意を与えていない場合、いわゆるゲートキーパーの様々なサービス間でのデータの統合に対して法的措置を講じる権限を有している。これは、カルテル庁のフェイスブックに対する決定の基礎となった問題を利用したデジタル市場法の第5条第2項に規定されている。また、一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、以下「GDPR」という。)を適用する際、データ保護当局は、実際に同意がどの程度自由に与えられているか、また、個々のサービス内を含むデータ処理が過剰でないかどうかをチェックすることができる。また、メタがユーザーのために利用規約をどのように設計するかについては、消費者保護規則も適用し得る。

9 競争法及びデータ保護法が提起する問題には、ある程度の類似性があるため、本件調査中、カルテル庁はデータ保護当局と定期的に意見交換を行った。さらに、カルテル庁は連邦情報セキュリティ庁(Bundesamt fur Sicherheit in der Informationstechnik、BSI)の技術的なサポートを受けた。ドイツ消費者団体連盟(Verbraucherzentrale Bundesverband、VZBV)も第三者として調査に関与した。

10 背景
(1) カルテル庁は、2019年2月6日、メタ(旧フェイスブック)に対し、ユーザーの同意なしに外部のソースからのユーザーデータを統合することを禁止する決定を下した。メタは、この決定を不服としてデュッセルドルフ高等裁判所に控訴した。2019年8月26日、同裁判所はメタの求めに応じ、決定の効力の中断を命じた。2020年6月23日、連邦通常裁判所はカルテル庁の求めに応じ同裁判所の決定を破棄し、カルテル庁の決定の効力中断を命じるメタの要請を却下した。2021年3月24日、デュッセルドルフ高等裁判所は特定の問題を欧州司法裁判所に付託し、同裁判所の決定が出るまで手続を一時停止した。欧州司法裁判所は、競争法に基づく決定において利害を比較検討する際に、カルテル庁もGDPRの規定を解釈することができるかどうかを明らかにすることになっていたところ、2023年7月4日の判決において、これを支持する判決を下した。当事者間の協議の結果、デュッセルドルフ高等裁判所における訴訟手続は、もはや積極的に進められることはなく、メタが控訴を取り下げることで終了した。
(2)  ユーザーが広告なしでフェイスブックやインスタグラムを有料で利用することができるメタの「支払か、(個人データの収集・統合への)同意か」の(二者択一的な)モデルの合法性が現在議論されている。欧州の複数の消費者団体が各国のデータ保護当局に苦情を申し立てている。欧州データ保護委員会も2024年4月17日の声明で、このようなモデルを批判している。欧州委員会は、2024年3月7日から施行されているデジタル市場法にメタの「支払か同意か」モデルが準拠していない可能性が高いと判断し、2024年7月1日に予備的な調査結果をメタに通知した(注6)。
(注6)https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_3582