最近の動き(2025年4月更新)
米国
DOJ、Hewlett Packard EnterpriseによるJuniper Networksの買収計画の阻止を求めて提訴
2025年1月30日 米国司法省 公表
【概要】
1 米国司法省(以下「DOJ」という。)は、2025年1月30日、Hewlett Packard Enterprise Co.(以下「HPE」という。)が提案する、競合のワイヤレス・ローカル・エリア・ネットワーク(以下「WLAN」という。)技術プロバイダーであるJuniper Networks Inc.(以下「Juniper」という。)の140億ドルでの買収を阻止するためにカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に提訴した。HPE及びJuniperは、それぞれ米国第2位と第3位の企業向けWLANソリューション・プロバイダーである。訴状では、合併計画は、当事会社間の激しい直接競争を排除し、価格を引き上げ、イノベーションを低下させ、米国の多数の企業及び機関の選択肢を減少させるもので、クレイトン法第7条に違反するとしている。
2 オミード・A・アッセフィ反トラスト局長代理は、次のように述べた。
「HPEと Juniperは成功した企業であるが、WLAN市場で競合他社として競争を続けるのではなく、既に集中している市場の集中をさらに高めるために、統合しようとしている。この合併がもたらす脅威は理論的なものにとどまらない。米国の病院や中小企業を含む我が国の重要な産業は、その使命を果たすためにワイヤレス・ネットワークに依存している。本件合併計画は、競争を著しく減少させ、イノベーションを弱体化させ、その結果、米国の経済の大部分は、より少数のWLANプロバイダーに対し、より多くを支払うことになる。」
3 ハードウェア、ソフトウェア及び高度な人工知能を含むWLANテクノロジーは、現代の職場にとって不可欠である。今日、何百万人もの米国人がワイヤレス対応機器からインターネットにアクセスし、企業のリソースを作成・共有している。小売店の従業員はワイヤレスで支払を処理し、在庫を記録している。医師は携帯電話やタブレットで医療記録にアクセスし、移動中にも救命処置が必要な患者の様子を追跡している。大学生はノートパソコンでノートを取り、寮の部屋から教材にアクセスする。ワイヤレス・ネットワークは、多くの従業員が雇用主のコンピュータ・ネットワークやインターネットに接続する主要な手段である。
4 訴状で主張されているように、Juniperは、マイナーなプレーヤーから米国の企業向けWLANプロバイダーのトップ3の一つに急成長した破壊的な力を持つ存在である。また、Juniperは、多くの顧客のワイヤレス・ネットワークの運用コストを大幅に削減する革新的なツールを導入した。このような競争圧力により、HPEは自社製品の値引き及び独自のイノベーションへの投資を余儀なくされた。HPEは、Juniperの存在感の高まりを認識し、エンジニア及び営業担当者向けの研修を必須とすることなどのキャンペーンを実施し、契約獲得を争う際にJuniperを「打倒する」ことを目指した。実際に、HPEの最前線の営業担当者は、JuniperがHPEの「顧客を奪おうとしている」機会が数十回もあったため、買収計画が発表されるわずか1か月前に、「Juniperの脅威は深刻である」と懸念していた。HPEの上級幹部もこの見解を共有しており、ある元HPE幹部は、Juniperとの「戦いにルールはない」とチームに念を押し、販売機会を求めて直接対決するときにJuniperを「打倒する」よう促した。
5 HPEは現在、この、自社より小規模で革新的な競合他社を買収しようとしている。HPEとJuniperの買収計画が実現すれば、既に高度に集中している市場がさらに統合され、米国企業は合併後のHPEと市場のリーダーであるCisco Systems Inc.の2社が市場の70%以上を支配する市場に直面することになる。この極めて重要なテクノロジー市場における競争の実質的な減少は、まさにクレイトン法が防止しようとしている脅威をもたらすものである。
8 2023年4月、カルテル庁は、アップルは市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者に該当し、ドイツ競争法第19a条第1項に基づく拡大濫用規制の対象となるとの決定を下した(注1)。アップルは、この決定を不服として提訴していたが、 2025年3月18日、連邦通常裁判所(最高裁判所に相当)は、カルテル庁の決定を支持する判決を下した(注2)。
FTC、テック・プラットフォームによる検閲について調査を開始
1 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、2025年2月20日、テック・プラットフォームがユーザーの発言内容や属性に基づき、サービスへのアクセスを拒否又は制限しているかどうかの実態をより深く理解し、また、こうした行為が法律に違反している可能性があるかどうかを調査するための公開調査として、一般からの意見を求める情報提供要請(RFI)を開始した。この一般からの意見提出の期限は2025年5月21日までである。
2 テック・プラットフォームによる検閲(Censorship)は、米国的ではない(un-American)だけにとどまらず、違法行為である可能性もある。テック企業は、ユーザーを排除するような、紛らわしい、あるいは予測不能な内部手続を採用することがあり、その決定に対して異議を申し立てることができない場合もある。テック・プラットフォームによるこのような行為は、消費者への損害や競争への影響をもたらす可能性があり、また、競争の欠如によりもたらされた可能性や反競争的行為が生み出した結果である可能性もある。
3 アンドリュー・ファーガソン委員長は、「テック企業はユーザーをいじめてはならず、この調査は、米国民が本音を語るのを封じ込めたり、抑圧したりすることで、これらの企業がいかにして法律に違反しているのかをFTCがよりよく理解することに役立つだろう。」とコメントした。
4 利用禁止、事実上の禁止(shadow banned)、収益化の禁止、その他の検閲を受けたテック・プラットフォームのユーザーは、RFIに回答することが推奨される。FTCは、テック企業のポリシーによって消費者が潜在的に不公正、欺瞞的行為・慣行又は不公正な競争方法を含めてどのような被害を受けているのかを理解することに関心がある。
【テック・プラットフォーム検閲に関する情報提供要請(RFI)】
FTCは、テック・プラットフォームが行っている可能性のあるユーザーの発言内容(当該プラットフォーム外で行われる活動を含む。)や所属に基づいて、ユーザーのサービスへのアクセスを拒否又は低下させる方法(「収益化の禁止」や「事実上の禁止」など)についてよりよく理解するために、広く一般から意見を募集する。テック・プラットフォームは、しばしば事前の通知なしに、ユーザーのサービスへのアクセスを制限するために、不透明又は予測不可能な内部手順を採用する可能性があり、影響を受けるユーザーは、関連する損害を軽減する手段をほとんど持たないままになる。また、ユーザーはプラットフォーム上での解約や格下げにつながったとされる違反について、ほとんど情報を得られない可能性がある。また同様に、テック・プラットフォームは、自社の決定に対して異議申立てや提訴を行う実質的な機会をユーザーに与えないかもしれない。テック・プラットフォームによるこのような行為は、サービス条件やその他のポリシー(以下このRFIにおいて「ポリシー」と総称する)に違反し、テック・プラットフォームの公的な表明に基づくユーザーの合理的な期待を裏切る可能性がある。競争に影響を及ぼす可能性のあるこのようなポリシー及び慣行は、競争の欠如から生じたものであったか、又は反競争的行為の結果であった可能性がある。
FTCの職員は、ユーザーが自由かつオープンにアイデアや所属を共有する能力を制限するような、テック・プラットフォームによる、潜在的に不公正又は欺瞞的な行為や慣行、あるいは潜在的に不公正な競争方法などの行為によって、消費者がどのように被害を受けたかを理解することに関心を持っている。FTC職員は、技術プラットフォームの現従業員及び元従業員を含む一般市民に対し、以下の質問を含むがこれに限定されない、このトピックに関するFTCの検討に関連するあらゆる問題又は懸念についてコメントすることを奨励する。
質問1 プラットフォームは、どのような状況において、ユーザーの発言内容や属性を理由にユーザーによるサービスへのアクセスを拒否又は制限(「事実上の禁止」、「収益化の禁止」など)したことがあるか?
質問2 プラットフォームは、不利益措置が行われた時点で、ユーザーのプラットフォーム内外での行為を規制、検閲又は制限する方法についてポリシーを定めたり、他の公的な表明を行っていたか?
質問3 プラットフォームは、サービスへのアクセスを拒否又は制限する不利益措置に対して、ユーザーが異議申立てや提訴を行うことができるかどうかを直接的又は間接的に示していたか?
質問4 プラットフォームの不利益措置は、ユーザー(コンテンツ・クリエーターを含む)にどのような影響を与えたか?
質問5 プラットフォームがポリシーを採用したり、不利益措置を講ずることを決断した要因はなにか?
質問6 プラットフォームによる不利益措置は、競争の欠如によって可能になったのか?プラットフォームの慣行やポリシーは競争に影響を与えたか?
その他
ドイツ
ドイツ連邦カルテル庁、アップルのApp Tracking Transparency Framework (ATTF)の現状に懸念を表明
2025年2月13日 ドイツ連邦カルテル庁 公表
【概要】
1 ドイツ連邦カルテル庁(以下「カルテル庁」という。)は、2025年2月13日、米国クパチーノに本社を置くアップルInc.及びミュンヘンに本社を置くアップルGmbHに対し、アップルの「App Tracking Transparency Framework」(以下「ATTF」という。)に関する予備的な法的評価を送付した。アップルのApp Storeでアプリを提供するプロバイダーは、2021年4月にATTFが導入されて以来、広告目的で特定のデータにアクセスする前に、ユーザーから追加の同意を得なければならなくなった。しかし、ATTFに基づく厳格な要件は、サードパーティのアプリ・プロバイダーにのみ適用され、アップル自身には適用されない。カルテル庁の予備的見解では、これは大規模なデジタル企業に対する特別な濫用禁止規定(ドイツ競争法(以下「GWB」という。)第19a条第2項)及びEU機能条約(TFEU)第102条の一般的な濫用禁止規定に違反する可能性がある。アップルには現在、この主張に対して意見を述べる機会が与えられている。
2 カルテル庁のアンドレアス・ムント長官は、次のように述べた。
「アップルは包括的なデジタルエコシステムを運営しており、その多くのサービスや接続デバイス、App Store、Apple IDを通じて、広告に関連するユーザーデータへの広範なアクセスを得ている。アップルは、これらのデータの一部を利用して、App Store内でパーソナライズ広告の広告枠を提供し、大きな収益を上げている。パーソナライズ広告は、App Storeで無料アプリを提供する他の企業にとっても商業的に重要であり、その中にはアップルのサービスと競合するアプリも含まれている。これは特に、例えばアップルとは対照的に、自社では情報を引き出す広範で詳細なユーザーデータという財産に持っていない多くのプロバイダーに当てはまる。しかし、ATTFは、競合するアプリ開発者が広告に必要なユーザーデータにアクセスすることを非常に困難にしている。
我々にとって重要なのは、ユーザーが自分のデータがパーソナライズされた広告に使用されるかどうかについて、自由かつ十分な情報を得た上で判断できることである。問題となっているのは、アップルが他のプロバイダーに対して、ユーザーの同意を求める際に、自社より厳しい基準を適用することが許されるかどうかである。我々の予備的見解では、これを行うことはドイツ競争法で禁止されている不平等な扱いや自己優遇に該当する可能性がある。」
3 2021年4月に発表されたiOS 14.5、iPadOS 14.5、tvOS 14.5のアップデートで、アップルはiPhoneなどのアップル製デバイス向けにATTFを導入した。ATTFは、異なるサービスや企業間でのサードパーティアプリによるユーザー追跡(サードパーティトラッキング)に関する特定の前提条件を定めている。広告主やアプリ開発者は、ユーザー追跡は、パーソナライズされた広告を表示するために使ったり、他の目的のためにユーザーデータを追跡・利用したりすることができる。これらの使い方は、特に、広告収入によりアプリを無料で提供するビジネスモデルを持つサードパーティのアプリ開発者にとって重要である。
4 現行のデータ保護規則の下では、アプリ開発者は、ユーザーデータにアクセスする前にユーザーの同意を得なければならない。サードパーティ事業者にとっては、ATTFにおいても、データの使用及び企業間でのデータの統合にユーザーの同意を得ることを条件とされている。ATTFによる同意は、既存のダイアログで求められる同意に加えて、サードパーティのアプリが最初に起動されたときにポップアップ表示されるダイアログにおいても要求されるものである。広告関係事業者にとって重要なものであり、デバイスを識別するためにアップルが提供する広告主識別子(IDFA)へのアクセスも、この同意が条件となる。ただし、この追加の同意は、アップルが自社のエコシステム内においてサービス間でユーザーデータを利用・統合する場合(ファーストパーティートラッキング)には要求されない。ユーザーは、アップルに対して自分のデータをパーソナライズ広告に使用することを制限することもできるが、アップルは追加のATTF規則には従う必要はない。
5 アップルの自社製アプリとサードパーティ製アプリの同意ダイアログは、大きく異なる。現在のデザインや特に文言についてみると、アップルの自社アプリの同意ダイアログが、サードパーティ製アプリのATTFダイアログよりも、ユーザーが同意しやすくなるように作られている傾向にある。
6 カルテル庁の予備的見解では、ATTFは3つの側面に関して競争上の懸念を提起しており、アップルがサードパーティ製アプリよりも自社製アプリを優遇し、関連市場の参加者を阻害する原因となっている可能性がある。
第一に、アップルのATTFでは、「トラッキング」を企業間の広告目的のデータ処理のみを対象とする形で定義している。しかし、これまでの調査結果によれば、厳格なATTFの規則は、App Store、Apple ID、コネクテッドデバイスなど、アップルのエコシステム全体でユーザーデータを組み合わせ、広告目的に利用するという自社の行為には適用されない。
第二に、サードパーティのアプリは、ATTFの下で最大4つの連続した同意ダイアログをユーザーに表示する可能性があるが、アップル自身のアプリでは最大でも2つまでしか表示されない。また、これらのダイアログでは、アップル自身が提供するサービス間でのユーザーデータの処理(ファーストパーティトラッキング)には言及しない。
第三に、カルテル庁の予備的見解では、アップルが提供する同意ダイアログは現在、アップルによるデータ処理をユーザーに許可するよう促す形で設計されていが、サードパーティ製アプリの同意ダイアログは、サードパーティによるデータ処理を拒否するようユーザーを誘導している。
7 この影響を受ける事業者には、自社製アプリを提供するアプリ開発者やコンテンツプロバイダー(メディアパブリッシャーなど)だけでなく、広告業界の広告主や技術サービスプロバイダーも含まれる。
カルテル庁は、欧州委員会及び他の国の競争当局と密接に協力しながら手続を進めており、これらの当局は現在、自国の競争法手続の中でATTFに関する調査を行っている。
(注1)https://www.bundeskartellamt.de/SharedDocs/Meldung/EN/Pressemitteilungen/2023/
05_04_2023_Abschluss_Apple.html
(注2)https://www.bundesgerichtshof.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2025/2025053.
html?nn=10690868
韓国
KFTC、ブロードコムが申請した同意議決手続を開始
2025年2月7日 韓国公正取引委員会 公表
原文
【概要】
1 韓国公正取引委員会(以下「KFTC」という。)は、ブロードコムが「独占規制及び公正取引に関する法律」(以下「公正取引法」という。)に違反した疑いで調査していたところ、同社は、2024年10月31日、同意議決手続の開始を申請した。KFTCは、ブロードコムが本件に関して申請した同意議決案に対して、2025年1月22日、同意議決手続を開始することを決定した。
同意議決とは、公正取引法違反の疑いを持たれている事業者が、自ら被害救済、取引秩序の改善等の自主的な是正案を提示し、KFTCが利害関係者の意見を聴取した上で当該是正案が妥当であると認める場合、公正取引法違反を認定せずに事件を処理する仕組みである。同意議決の手続は、手続開始の可否決定、暫定同意議決案の作成、利害関係者の意見集約、最終同意議決案の審議議決過程を経て確定する。
2 ブロードコムは、有料放送セットトップボックス(Set-Top Box)の部品であるSystem on Chip(以下「SoC」という。)を製造販売している。ブロードコムは、国内のセットトップボックスメーカーらに、①有料放送事業者(セットトップボックス購買者)の入札等に参加する際、ブロードコムのSoCが搭載されたセットトップボックスだけを提案させたり、②既に競争事業者のSoCを搭載することに決めていた事業についてブロードコムのSoCに変更させたりするよう要求した。
SoCとは、データ保存のためのメモリー、アナログ・デジタル信号を制御・加工・処理する信号処理部、内蔵ソフトウェア等が一つに統合された半導体である。
有料放送セットトップボックスの取引構造は、①セットトップボックスの購入者(有料放送事業者)によるセットトップボックス事業の公告(競争入札・随意契約等)→②セットトップボックスメーカーがSoCメーカーにSoC の見積依頼→③SoC メーカーによる見積の提供→④セットトップボックスメーカーによるセットトップボックス購入者への事業提案書の提出→⑤セットトップボックス購入者による最終提案書の選定及び供給契約の締結という流れとなっている。
3 韓国国内のセットトップボックスメーカーは、ブロードコムの要求に従い、ブロードコムのSoC を搭載したセットトップボックスを有料放送事業者に提案し、これを受け、セットトップボックスの供給契約を締結した後、製造・販売した。これに対し、KFTCは、自社SoCのみを搭載してセットトップボックスを提案させたブロードコムの行為に対して以下の観点から公正取引法違反の有無を調査していた。
(1) 市場支配的地位濫用行為であって、不当に取引の相手方が競争事業者と取引しないことを条件としてその取引の相手方と取引する行為(旧公正取引法第3条の2第1項第5号)
(2) 不公正な取引行為であって、不当に取引の相手方が自己又は系列会社の競争事業者と取引しない条件でその取引の相手方と取引する行為 (旧公正取引法第23条第1項第5号)
4 ブロードコムは、KFTCの審査報告書の送付前に、非メモリー半導体市場の競争秩序を改善し、半導体設計(Fabless、以下「ファブレス」という。)及び非メモリー半導体業界のスタートアップ等の中小事業者支援を通じた共生を図るための自主是正案を提出し、同意議決を申請した。
ブロードコムが提示した自主是正案の主な内容は、次のとおりである。
(1) ブロードコムは、競争事業者のSoC 搭載を防ぐ目的で、①国内セットトップボックスメーカー等(以下「取引の相手方」という。)にブロードコムのSoCのみを搭載するよう要求せず、②ブロードコムと取引の相手方との間で締結されている既存契約の内容を取引の相手方に不利益となるように変更する行為を行わない。
(2) ブロードコムは、取引の相手方のSoC 需要量の過半数をブロードコムから購入するよう要求したり、これを条件として、ブロードコムが取引の相手方に価格・非価格(技術支援等)の利益を提供する契約を締結しない。
取引の相手方がSoC 需要量の過半数を購入する要求を断っても、SoC の販売・配送を終了・中断・延期したり、既存の利益を撤回・修正するなどの不利益を与える行為を行わない。
(3) ブロードコムは、是正措置の遵守を徹底するため、自主的な遵守システム(Compliance Program)を運用する計画である。役職員に公正取引法の研修を年1回以上実施し、本是正案の遵守状況をKFTCに毎年報告する計画である。
(4) 上記の是正措置とともに、ブロードコムは、国内のファブレス及び非メモリー半導体産業を支援し、スタートアップなどの国内中小事業者との共存を促進するための措置(共存案)を提示した。
共存案は、大きく分けて、①半導体の専門家及び人材を養成するための教育センターの設立及び運営支援、②ファブレス等の半導体分野のスタートアップらのための事業コンサルティングの提供、インフラ構築、海外進出、ネットワーク活動などの支援、③半導体産業関連セミナー・カンファレンスの開催及び半導体産業の広報活動の支援(体験館・広報館の設置等)が含まれ、このような共存案を実行するために、共生基金として130億ウォン相当を支援する予定である。
5 これらの是正措置及び共存案を受けて、KFTCは、事件の性格、申請人が提示した是正案の取引秩序の改善効果、他の事業者の保護、予想される制裁水準との均衡等を総合的に考慮し、同意議決手続を開始することを決定した。
KFTCは、欧州委員会、米国連邦取引委員会もブロードコムの類似行為に対して、それぞれ同意議決で事件を処理したという点を考慮して、ブロードコムが提示した是正及び共存案を迅速に履行させることが国内非メモリー半導体市場の競争秩序や取引秩序の改善等の公益にも符合すると判断した(注1)。
また、ブロードコムの是正措置は、今後ブロードコムが国内SoC市場で市場支配的地位の濫用行為を行う懸念を十分に未然防止できるという点も考慮した。
合わせて、今回の同意議決開始決定は、SoC分野で優れた技術力を保有するグローバル事業者が該当分野の国内スタートアップなど中小事業者の成長を支援し、国内非メモリー半導体産業との共生を図り、当該産業の成長に寄与するという点で意味が大きい。
今後KFTCは、早期に是正措置案を具体化して暫定の同意議決案を作成し、利害関係者の意見集約や関係機関との協議を経て、最終案をKFTCの全員会議に上程する計画である。
(注1) 欧州委員会は、2020年10月に確約決定(Commitment Decision)、米国連邦取引委員会は、2021年11月に同意命令(Consent Order)で事件処理した。
英国
成長、投資、企業の信頼を促進する新たなCMA提案
2025年2月13日 英国競争・市場庁 公表
原文
【概要】
2月13日、英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、成長・投資を促進するための今後のCMAの取組の具体策について、サラ・カーデルCMAチーフ・エグゼクティブ(CEO)からのメッセージの形で公表したところ、概要以下のとおり。
1 強固で独立した競争政策によって、成長及び投資を促進するとともに、消費者の利益を維持する必要がある。
これは、昨年11月に私(サラ・カーデルCEO)が行ったスピーチ(注1)の中心であり、新議長(訳注:2025年1月に就任したダグ・ガー暫定議長)が初めて公表した声明(注2)でも共有した見解である。また、これは、政府が本日(2025年2月13日)発表する CMA戦略指針(draft Strategic Steer for the CMA)案(注3)にも明確に示されている。
この指針では、自由で公正な競争と強力な消費者保護が、イノベーション、生産性、投資をどのようにサポートできるかが示されている。これは CMA の業務の中核であり、英国の消費者及び企業に我々が日々提供する価値の基礎となる。
しかし、国内外の企業及び投資家が英国を優れたビジネス環境とみなす上で、CMAの業務遂行については、Pace(迅速性)、Predictability(予見可能性)、Proportionality(比例性)、Process(手続の適正性)から成る「4P」の側面が極めて重要である。
(注1)htps://www.gov.uk/government/speeches/driving-growth-how-the-cma-is-rising-to-the-challenge
(注2)https://competitionandmarkets.blog.gov.uk/2025/01/29/competition-that-drives-growth-and-investment-reflections-on-joining-the-cma/
(注3)https://www.gov.uk/government/consultations/draft-strategic-steer-to-the-competition-and-markets-authority/strategic-steer-to-the-competition-and-markets-authority
2 昨年11月のスピーチで、私は、これらの原則に基づき、合併プロセス(英国への対内投資を含む投資にとって特に重要な分野)から始めて、迅速かつ有意義な変化を起こすという私の決意を明らかにした。
私が本日お伝えするのは、急速な変化のために慎重に検討された一連の提案であるが、それが成功するためには、CMA の変革への取組だけでなく、企業やアドバイザーが我々の提案に建設的かつ協力的に取り組む意欲も必要である。
(1) Pace(迅速性): ほとんどの企業結合案件が(無条件又は条件付き)で承認されることを踏まえ、可能な限り審査に係る決定を速やかに行う。
具体的には、2025年6月までに、現在は平均で65営業日を要している事前通知期間(正式な審査が開始される前の協議期間)を40営業日以内に完了するという新たな業績目標(KPI)を設定する。また、初期審査(Phase 1)に要する期間に係る現在の目標(35営業日)を25営業日に短縮する。
これらの変更には、潜在的な懸念に対する早期の優先順位付け、情報収集への注力、公表文の短縮を伴う審査の大幅な合理化が必要である。当事会社の協力があれば、私はこれが実現可能であることに自信を有している。
(2) Predictability(予見可能性): 投資家の信頼を得るには予見可能性が重要である。英国の制度では、企業結合に係る事前届出が義務ではなく任意であり、当事者は自らの判断でCMAに届出を行う一方で、CMAは自ら審査を開始(call in)する権限を有している。国際基準に照らして非常に広い管轄権が英国法にはあり、特定の事案がCMAの審査対象となるか否かについて不確実性が生じ得る。現在、CMAは審査開始の判断に係る2つのテスト(実質的影響力及び供給シェア)を実施している。
どのような企業結合が問題となり得るのかについての企業側の予見可能性を強化するため、これらのテストをどのように解釈し適用するかについてのガイダンスを更新し、CMAの権限を(法的に可能な限り)明確化し、記述する。本ガイダンスの改定案を6月に公表し、意見募集を行う予定である。
(3) Proportionality(比例性): 競争上の懸念を引き起こす可能性のある企業結合について、可能な限り、企業結合を禁止するのではなく、効果的な是正措置を講じた上で承認することを目指す。また、CMAは、可能な限り迅速かつ効率的に最善の是正措置の結果に到達することをサポートする必要がある。是正措置に関するアプローチの見直しを3月に開始し(注4)、プロセスの改善だけでなく、異なる種類の是正措置のバランスをどのように適切に取るかについても検討する。
最近のVodafoneとThreeの事例のように、企業結合が競争促進的な投資上の利益をもたらす可能性についても考慮する。当事会社やそのアドバイザーが、誠意を持ってこれらの目的に取り組み、利益に関する強力な是正措置の提案と十分に裏付けられた主張のみを提出する限り、これは比例性の実現に役立つと確信している。
また、投資家の信頼にとって重要であると認識している世界的な企業結合の検討には、比例的なアプローチを採る。我々は、英国の消費者及び企業を保護する義務を常に果たすが、現在、(現行法の下で)英国に明確かつ直接的な影響を与える企業結合と、他の当局の行動によって英国の懸念が解決されるかどうかを注意深く見守ることがより適切である可能性のある企業結合とを、どの程度明確に区別できるかを慎重に検討している。
(注4)2025年3月12日、是正措置の在り方に関する意見募集が開始された(5月12日締切り)。https://connect.cma.gov.uk/review-of-merger-remedies-approach
(4) Process(手続の適正性): 全ての企業が、CMAに意見を考慮してもらえていると感じ、全ての調査において公平性と一貫した取扱いが確保されていると認識することは、投資家の信頼にとって極めて重要である。そのため、CMAは3月に企業結合審査に係る宣誓書(Charter)を公表(注5)する予定である。本宣誓書には、迅速性、予測可能性、比例性及びプロセスに関するCMAの確固たるコミットメントが明記されるとともに、この新たな手法の成功を確実にするために、CMA、企業等が果たすべき役割が示される。既に改定された詳細審査手続の実績も積み上げ、さらに今回の改定により、ダイレクト、オープンかつ建設的な関わり方を産業界及び投資家に示せると思う。
(注5)2025年3月12日、CMAは、CMAが企業結合審査中に企業サイドとどのように関わるか、
また企業に何を期待するかについて、明確な原則と包括的な期待を定めた企業結合審査に係る
宣誓書(Charter)を公表した。主に4Pについて記述。
https://www.gov.uk/government/publications/mergers-charter-how-to-work-with-the-cma-on-a-merger-investigation/mergers-charter
3 これらの提案を実現できれば、英国のアプローチは国際的に比較して望ましいものとなり、企業及び投資家の自信を促進し、英国の企業及び消費者のために有効な価値競争を守り続けることが可能となると確信している。これらの変更の一部を法的枠組みに組み込むこと、及び、4Pを定着させるための更なる法改正を行うことがあり得る。政府がこれを望む場合、CMAは引き続き政府と緊密に協力していく。
4 今後、CMAは、全業務にわたって4Pを適用し、企業及び投資家の信頼を得られる強固で独立した競争及び消費者保護制度を確立し、政府の成長戦略を支援することに尽力する。