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(令和元年6月17日)スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する独占禁止法上の考え方について

(令和元年6月17日)スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する独占禁止法上の考え方について

令和元年6月17日
公正取引委員会

1 経緯・背景

(1) 公正取引委員会・競争政策研究センター(CPRC)では,「人材と競争政策に関する検討会」(座長:泉水文雄・神戸大学大学院法学研究科教授)を開催し,平成30年2月15日に「人材と競争政策に関する検討会報告書」を公表した。それ以降,公正取引委員会では,人材の獲得を巡る競争が独占禁止法の適用対象となり得ることなどについて関係団体に対する周知活動を行うとともに,独占禁止法上問題となり得る具体的行為や慣行が存在するかどうかについて実態把握に努めている。
 こうした取組の過程において,スポーツ事業分野では,スポーツ統括団体(注1)が移籍制限ルール(注2)を定めている事例があることが認められた。
 このため,公正取引委員会では,平成30年12月21日,スポーツ事業分野における移籍制限ルールの実態について関係者からの情報提供を呼び掛けるとともに,スポーツ統括団体等からのヒアリング等を通じて,実態把握を行ってきた。

(注1) スポーツリーグの運営,競技会の主催等を行っている団体をいう。
(注2) チーム(注3)間における選手の移籍や転職について一定の制約や条件を課すルールをいう。移籍制限ルールには,移籍や転職自体は可能であっても,スポーツ統括団体が開催するスポーツリーグや競技会への出場を認めないなどにより,実質的に移籍や転職を制限する効果を有するものを含み,また,規程等によって明文化されずに,慣習的に行われている事実上のルールも含む。
 また,移籍制限ルールは,スポーツ統括団体の下部団体や地域団体が独自に定めている場合や,チーム(事業者)が共同して取り決めている場合も想定される。
(注3) チームが属する会社等を含む。

(2) この結果,スポーツ事業分野における移籍制限ルールについては,人材(選手)の獲得を巡る公正かつ自由な競争という観点からみた場合に,その合理性や必要性について十分に検討した上で設定されたとは言い難いものが多く存在することが認められた。また,スポーツ事業分野では,その活動全般について独占禁止法に対する意識や理解が必ずしも十分でないという実態にあることもうかがわれた。
 このため,公正取引委員会では,こうした状況を踏まえ,スポーツ事業分野における移籍制限ルールについて,別紙のとおり,独占禁止法上の考え方を取りまとめた。

2 スポーツ統括団体等における自主的な取組

 公正取引委員会では,独占禁止法違反行為の未然防止及び独占禁止法に対する意識や理解の向上に資する観点から,各スポーツ統括団体等において,現行又は検討中の移籍制限ルールについて自主的な見直しを行い,必要に応じて改定を行うなどの取組を期待する。
 公正取引委員会としては,スポーツ事業分野に限らず,様々な分野で行われている人材獲得競争等に関し,引き続き,独占禁止法上の考え方についての関係各方面への周知や,競争制限的な行為や慣行の実態把握に努めていくこととする。また,独占禁止法に違反する行為が認められた場合には厳正に対処することとする。

別紙 スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する独占禁止法上の考え方

 独占禁止法は,公正かつ自由な競争を維持・促進することにより,消費者利益の確保や経済の活性化を実現しようとするものである。そのことは,スポーツ事業分野についても同様であり,選手獲得におけるチームの自由な活動等が適切に確保されることによって,スポーツファンのみならず消費者全般の利益が達成されるということに留意する必要がある。

 その観点からみて,スポーツ統括団体(注1)等が定める移籍制限ルール(注2)については,独占禁止法上,以下のように考えることができる。

(注1) スポーツリーグの運営,競技会の主催等を行っている団体をいう。
(注2) チーム(注3)間における選手の移籍や転職について一定の制約や条件を課すルールをいう。移籍制限ルールには,移籍や転職自体は可能であっても,スポーツ統括団体が開催するスポーツリーグや競技会への出場を認めないなどにより,実質的に移籍や転職を制限する効果を有するものを含み,また,規程等によって明文化されずに,慣習的に行われている事実上のルールも含む。
 また,移籍制限ルールは,スポーツ統括団体の下部団体や地域団体が独自に定めている場合や,チームが共同して取り決めている場合も想定される。
(注3) チームが属する会社等を含む。

1 チームは,スポーツ活動を通じて経済的な活動(事業活動)を行っている側面があり,独占禁止法上の事業者として互いに競争している。

2 一般に,競争関係にある複数の事業者が,共同して,人材の移籍や転職を相互に制限・制約する旨を取り決めることは,原則として独占禁止法違反となる(注4)。また,事業者団体が当該取決めを設ける場合も同様である(注5)。

(注4) 同法第3条(不当な取引制限の禁止)。
(注5) 同法第8条第1号(事業者団体による競争の実質的制限の禁止)。なお,競争が実質的に制限されるに至らない場合であっても,構成事業者の機能又は活動を不当に制限する場合は,同条第4号に違反することとなる。

 スポーツ事業分野において移籍制限ルールが取り決められる場合は,チーム間の選手獲得競争が停止・抑制され得るとともに,その結果,選手を活用したスポーツ活動を通じた事業活動における競争も停止・抑制され,また,事業活動に必要な選手を確保できず新規参入が阻害されるといった弊害が生じ得ることとなる。

3 他方,スポーツ事業分野において移籍制限ルールを設ける目的には,主に以下の2点があるとされている。
 ① 選手の育成費用の回収可能性を確保することにより,選手育成インセンティブを向上させること
 ② チームの戦力を均衡させることにより,競技(スポーツリーグ,競技会等)としての魅力を維持・向上させること
 この点,スポーツ統括団体が(又はチームが共同して)定める移籍制限ルールは,上記①又は②の面で競争を促進する効果を有する場合もあり得る。このため,独占禁止法上,移籍制限ルールについては,前記2記載の弊害が生じるからといって直ちに違反と判断されるのではなく,それによって達成しようとする目的が競争を促進する観点からみても合理的か,その目的を達成するための手段として相当かという観点から,様々な要素を総合的に考慮し,移籍制限ルールの合理性・必要性が個別に判断されることとなる。
 これらの目的のそれぞれについて,考慮すべき要素及び具体的な着眼点を整理すれば,以下のとおりとなる。

4 スポーツ事業分野における移籍制限ルールは多種多様であり,独占禁止法上問題となるかどうかについては,具体的なルールの内容や実態に即して個別に判断されるものである。
 しかしながら,少なくとも,移籍や転職を無期限に制限・制約するルール(例:移籍を一切禁止するもの,現所属チームの了承がない限り移籍を無期限に認めないもの,移籍自体は可能であってもスポーツ統括団体が開催するスポーツリーグや競技会への出場を無期限に認めないもの)については,前記3記載の考慮要素に照らして,その合理性・必要性が十分に認められるものとは言い難いと考えられる。

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