文化審議会著作権分科会法制度小委員会著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(第2回)

日時:令和2年10月16日(金)

13:00~15:00

場所:AP虎ノ門J室

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    • (1)独占的ライセンスの対抗制度について
    • (2)独占的ライセンシーへの差止請求権の付与について
    • (3)その他
  3. 閉会

配布資料一覧

資料1
独占的ライセンスの対抗制度に関する検討事項の検討―独占的利用許諾構成について―(202.6KB)
資料2
独占的ライセンシーへの差止請求権を付与する制度の導入に関する検討事項の検討―独占的利用許諾構成について―(415.7KB)
参考資料1
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム委員名簿(282.2KB)
参考資料2
独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入に関する検討事項―独占的利用許諾構成について―(212.6KB)
参考資料3
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(第1回)における委員の意見概要(249.9KB)
参考資料4
令和元年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について(令和2年1月24日)の別紙2「著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム審議経過報告書」(令和2年1月22日)(687.4KB)
参考資料5-1
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する調査研究報告書(平成30年3月)(1.8MB)
参考資料5-2
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する調査研究資料編(平成30年3月)(7.3MB)
参考資料6
文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)(2.8MB)

議事内容

【龍村座長】定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制度小委員会「著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム」(第2回)を開催いたします。

本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。前回に引き続き,本日の会議につきましても,新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため,各委員の皆様には基本的にウェブ会議システムを利用して御参加いただいております。

委員の皆様におかれましては,ビデオをオンにしていただくとともに,御発言いただく際には,御自分でミュートの解除をしていただき御発言いただくか,事務局でミュートを解除いたしますので,ビデオの前で大きく挙手してください。

議事に入る前に,本日の会議の公開について確認いたします。予定されている議事の内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方にはインターネットを通じた生配信によって傍聴していただいているところですが,特に御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【龍村座長】ありがとうございます。では,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくこととします。

傍聴者される方々におかれましては,会議の録音・録画することは御遠慮いただきますよう,お願いいたします。

事務局に人事異動があったようですので,事務局からその紹介と,併せて配付資料の確認をお願いいたします。

【高藤著作権調査官】それでは,まず,人事異動の御紹介をさせていただきます。10月1日付で,文化庁次長として矢野和彦が着任しております。

【矢野文化庁次長】矢野です。どうぞよろしくお願いいたします。

【高藤著作権調査官】続きまして,配付資料の確認をさせていただきます。

議事次第を御覧ください。議事次第の下のほうに,配布資料一覧と書いておりますけれども,こちらに沿って配付資料の確認をさせていただきます。

まず,資料1としまして,「独占的ライセンスの大綱制度に関する検討事項の検討」と題する資料を御用意しております。また,資料2として,「独占的ライセンシーへの差止請求権を付与する制度の導入に関する検討事項の検討」と題する資料を御用意しております。そのほか,参考資料としまして,1から6の資料をそれぞれ御用意しております。

もし不足等ございましたら,お知らせいただければと存じます。

【龍村座長】それでは,議事に入りたいと思いますが,初めに議事の進め方について確認しておきたいと思います。

本日の議事は,1,独占的ライセンスの大綱制度について,2,独占的ライセンシーへの差止請求権の付与について,3,その他の3点となります。

では早速,1,独占的ライセンスの対抗制度について, に入りたいと思います。独占的ライセンスの対抗制度については,前回のワーキングチームでも御議論いただいたところですが,一部積み残しになっていた論点がございましたので,その部分について,資料1に基づき,御議論いただきたいと思います。

では,資料1に関して事務局より説明をお願いいたします。

【高藤著作権調査官】資料1の「独占的ライセンスの対抗制度に関する検討事項の検討」と題する資料を御覧ください。

こちらは前回のワーキングチームでお配りした資料4から積み残しになっていた部分の論点を抜粋してきたものになります。また,今回お出しするに際して一部修正しているところもございますので,それも併せて御説明させていただきます。

5ポツ,その他の付随的検討事項というところですけれども,著作権管理事業への影響について,論点として挙げさせていただいております。問題の所在ですけれども,独占的ライセンスの対抗制度が導入された場合における,独占性について対抗力を備えている独占的ライセンスが設定されている著作権等を著作権等管理事業者に対して管理委託することの可否,また,著作権等管理事業者における応諾義務の有無等についての考え方を整理したいということになります。

(2)の論点ですが,その四角の部分で,このように考えられるのではないかというところを事務局のほうで整理して書いております。大きく2つの場面が考えられると考えております。まず,マル1として,著作権者等と著作権等管理事業者間の管理委託契約締結前に独占的ライセンシーが独占性について対抗力を備えた場合,マル2として,著作権者等と著作権等管理事業者との間で管理委託契約を締結した後に,独占的ライセンシーが独占性についての対抗力を備えた場合。

まず,マル1に関しましては,ポツで書いていますけれども,独占的ライセンスの範囲では,著作権者等は著作権等管理事業者に対して,その著作権等の管理委託をすることができず,著作権等管理事業者への応諾義務も生じないことになるのかと考えております。また,ここで,注の1で書いていますけれども,ここで「管理委託をすることができず」の意味ですけれども,信託譲渡型の管理委託契約の場合につきましては,独占性が対抗されることによって信託譲渡される,著作権等に独占的ライセンスの負担がついたものとなると。したがって,その独占的ライセンスの範囲内では,著作権等管理事業者は第三者に対し,適法な利用許諾を行うための権限が認められないということになるものと考えております。

また,委任型の管理委託契約におきましては,独占的ライセンスの範囲において,著作権等管理事業者は,著作権者等から第三者に対し適法な利用許諾を行うための権限の設定を受けることができないということになると考えられます。なお,「ただし」と書いていますけれども,いずれの場合も管理委託契約自体は債権的に有効なものとして成立し得ると考えられるかと思っております。

また,マル2の方ですけれども,まず,マル2の1つ目のポツですが,独占性の対抗力が備わった時点で,既に著作権等管理事業者から利用許諾を受けていた利用者,これにつきましては,その利用権について,当然対抗制度が適用されると考えられますので,その利用権を独占的ライセンシーに対抗できると。そして,その利用を継続することができると考えられると思います。

また,2ページ目に行きまして,マル2の2ポツ目ですけれども,他方,独占性の対抗力が備わった後の話ですが,独占性の対抗力が備わった後につきましては,著作権等管理事業者は,その独占的ライセンスの範囲で利用許諾権限を失うと。したがいまして,第三者に対して,適法な利用許諾を行うことはできないと,応諾義務も生じないことになるのかと考えております。

また,マル2の3ポツ目ですけれども,「ただし」と書いております。管理委託契約が信託譲渡型による場合については,著作権等管理事業者は,独占性の対抗力具備の前に当該信託に係る著作権の移転について登録を備えていれば,当該信託に係る著作権の移転が独占的ライセンスの独占性に優先します。したがいまして,独占的ライセンスの範囲内においても,著作権等管理事業者は利用許諾権限を失わず,応諾義務を負ったままということになると考えられます。

以上が,事務局のほうで整理した内容になります。このような考え方で問題がないのか,その他何か留意すべき事項があるのかといったところについて,御意見をいただければと考えております。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局より御説明いただきました内容に関し,御意見,御質問等ございましたら,お願いいたします。

【奥邨委員】奥邨です。よろしいでしょうか。

【龍村座長】奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】2点あります。ここでまとめられておられること自体に細かなコメントがあるというよりも確認なんですけども,管理事業法の問題を少し確認したいんですけれども,1つはこういう独占的ライセンスをしているものであるとか,それに対抗力が備わっているものを管理事業者が管理を引き受けることは,管理事業法上は特に問題がないということでよろしいんでしょうか。

債権的には契約は有効であると,可能性があると思われると注記されているわけですけども,著作権法の観点,それから民法の観点はいいとして,管理事業法上何らかの問題が起こるとか,管理事業法上の問題はないのかというのが1つです。

それから2つ目は,応諾義務が生じないとなっているんですけども,ここの意味なんですが,管理事業法の16条に正当な理由がなければ,取り扱っている著作物の利用の許諾を拒んではならないと書いてあるんです。この場合の応諾義務が生じないというのは,正当な理由があることで拒否していいという整理になるのか,それともそもそもそういうものは取り扱っている著作物にならない,管理対象になっていないので義務が発生しないという話になるのか,どっちに処理するのかというのが,従来だったら管理事業法でこういうことを考える必要はなかったんでしょうけども,こういう制度ができる以上はどっちになるのかと。応諾義務が生じないと,結果は一緒なんですけど,どういう整理になるのかと,そこをお伺いしたいと思いました。

2点だけです。

【龍村座長】この点,では,事務局お願いいたします。

【高藤著作権調査官】まず,1点目の管理委託契約において独占的なライセンスの範囲で管理委託すること自体が,著作権等管理事業法との関係でどうなるのかという点ですけれども,こちらにつきましては,先ほど債権的には有効になり得ると申し上げましたけれども,著作権等管理事業法の解釈において,その契約の効力について何らか影響を及ぼす可能性はあるかと。ただ,この点については,現時点で何らか解釈が整理できているというものではございません。

2点目に関しましては,応諾義務のところですけれども,こちらも先ほどの著作権等管理委託契約の効力がどういう形になるのかというところに連動するとは思いますけれども,著作権等管理事業法16条においては,「取り扱っている著作物等の」となっていますので,独占的ライセンスが付与されている範囲では,この「取り扱っている著作物等」の範囲に含まれないという解釈もあり得るのかなとは考えております。

【奥邨委員】取りあえず,そういう問題意識があるということです。

【龍村座長】よろしいでしょうか。

【奥邨委員】大丈夫です。

【龍村座長】そのほかいかがでしょうか。

【龍村座長】大渕委員,お願いします。

【大渕座長代理】今,御説明いただきました論点の1ページから2ページにかけて,1と2はざっと見た感じ,抽象論としては普通に対抗関係の一般理論を当てはめれば,こうなるだろうということで特に異論はありません。ただ,このようなものは1個1個詰めていかないと,実例に当たると,何かとんでもないことが出てくる可能性もあり得るので,本当は表にしていただいて,1,2,3などと書いたほうが誤解は少ないとは思います。

抽象論で言うと,1ページの1で言いますと,上の3行でばーっと書いてあって,答えのほうが1つのポチで書いてあるのですが,独占的ライセンスの範囲では,これはおっしゃるとおりで独占的ライセンスが対抗力を具備していますから,その範囲では著作権者等は著作権等管理事業者に対し,著作権の管理委託をすることができないということで,これは分かります。無体物に有体物の例を持ってくるのは,あまり適当ではないと思いつつも,我々が慣れている有体物で言えば,いわゆる地上権とか賃借権などを除いた,俗にいう底地権のようなものだから,これは1つの考え方としては,地上権とか賃借権に当たるものはライセンシーに行っているけれども,その残りがここに書いてある独占的ライセンスの負担のついたものになるということで,言わば,上地権のほうは確定的に対抗力を具備していっているが,底地権は残っているから,それについては事業者のほうが受けとれるということだと思います。今のは有体物で言ったからそのような話になるのですが,無体物の場合には,上地権,底地権があるわけでもないので,独占的ライセンスの範囲が全範囲だと,底地権がなくなってしまうわけで,全範囲について独占的ライセンスをしてしまえば,全部が上地権になって底地権はなくなるので,具体的には,例えば独占的ライセンスが北海道限定の独占的ライセンスとなれば,北海道以外は残るということかもしれません。何か実例があったほうがイメージが湧きやすいかと思うので,独占的ライセンスの範囲ではというところは,どのようなものをお考えかというのを御説明いただくと,抽象的に考えるよりは,これが何を意味しているのかというところが随分よく分かってくるのではないかと思います。抽象的に独占的ライセンスの範囲はというのは,具体的な事例で言うとどのようなことになるのかというのを御説明いただければ,我々も,抽象論ではなく,きちんとした事例論として理解できるのではないかと思いますので,お願いいたします。

【龍村座長】御質問というか御確認ということですね。では,事務局,お願いいたします。

【高藤著作権調査官】具体例でどうなるのかというところですけども,今おっしゃっていただいた,例えば,北海道に限った独占的ライセンスということであれば,それ以外の地域における部分については,著作権等管理事業者に管理委託されることになるのかと思います。

こちらにつきましては取りまとめの際に,例えば先ほどおっしゃっていただいたように図で示すとか,あるいは実例を示すなどというところで分かりやすくなるようには検討したいと思います。

【龍村座長】よろしいでしょうか。そのほかいかがでしょうか。この点はよろしいですか。

では,先に進めていきたいと思います。続きまして,議事2の独占的ライセンシーへの差止請求権の付与についてに入りたいと思います。

事務局において,資料を用意していただいておりますので,資料2に基づいて議論を行いたいと思います。論点がたくさんございますので,少し区切って進めさせていただきたいと思います。まず,1の差止請求権付与の正当化根拠,1ページから3ページ部分になりますが,この点に関して,事務局より説明をお願いいたします。

【高藤著作権調査官】資料2の1ページ目を御覧ください。

資料2につきましては,独占的ライセンシーに対し,差止請求権を付与する制度に係る個別の検討事項を事務局のほうで整理したものになります。内容としては,これを1回で全部やるとなかなか時間も足りないかと思いますので,今回と次回にかけて御議論いただければよいかと考えております。

まず,1ポツの差止請求権付与の正当化根拠という検討事項の部分について御説明させていただきます。

(1)の問題の所在ですけれども,独占的利用許諾構成におきまして,独占的ライセンシーが独占的ライセンス契約に基づき有する権利につきましては,債権的な合意を基礎とする独占的利用権という点において,民法上の不動産賃借権に類すると考えられるかと思います。そこで,不動産賃借権に基づく妨害排除請求権を認める民法上の議論を手がかりとしまして,独占的ライセンスに基づく差止請求権を付与する制度導入の正当化根拠が考えられないかというところを整理したいと考えております。また,正当化根拠に応じて,差止請求権の要件も変わってくると思いますので,それについても検討をしたいと考えております。

(2)の従前の議論ですけれども,この点につきましては,同様の問題の立て方で調査研究において整理がされております。下の四角の部分ですけれども,まず,マル1からマル4で,不動産賃借権に基づく妨害排除請求の正当化根拠として議論されているものについて,4つほど見解が示されております。マル1が不動産賃借権特殊性による正当化で,不動産賃借権が生活の基盤だったり事業の基盤になるといった特殊性があるところから,妨害排除請求権を正当化する見解です。マル2につきましては,不動産賃借権について対抗要件を備えて対抗力を備えていれば妨害排除請求を認めるという見解です。マル3も似たような見解ですけれども,マル2との違いとしましては,不法占有者との関係では対抗要件を備えていなくても妨害排除請求できるという点でマル2との違いがある見解になります。マル4につきましては,対抗要件を備えていなくても対象不動産について占用をしていれば,それに基づいて妨害排除請求権を正当化できるのではないかといった見解になります。

この点,調査研究におきましては,まず,マル1の正当化根拠については,著作権の独占的ライセンスでは応用は難しいだろうと。著作権に係る独占的ライセンスについては,必ずしも不動産賃借権のように生活の基盤だったり事業の基盤になるわけではないというところで,マル1の正当化根拠を応用することは難しいとされています。一方で,マルy2からマル4の正当化根拠に関しましては,こちらは特段結論が何か示されているところではないですけれども,正当化根拠によって差止請求権の行使の要件が異なることになるので,実務において有効に機能するような制度となるかといった点も含めて,引き続き,検討が必要であるとまとめられているところです。

2ページ目のほうに行っていただいて,それぞれマル1からマル4の正当化根拠を著作権の独占的ライセンスについて応用した場合にどうなるのかといったところを調査研究の中から抜粋してきております。

マル1につきましては,先ほど申し上げたとおり,応用することは困難と。マル2に関しましては,独占的ライセンシーが対抗力を備えれば,対抗関係に立つ著作権の譲受人や二重独占的ライセンシー,さらには非独占的ライセンシーや不法利用者,それぞれに対し差止請求権が行使できると。一方で,マル3に関しましては,マル2では不法利用者に対しては対抗力を備えなければ差止めできないとなりますけれども,マル3の見解によれば,対抗力を備えなくても不法利用者に対しては差止めできるといった点でマル2との違いが出ると。マル4の占有による正当化につきましては,そもそも不動産賃借人が占有を取得したときには,目的物である不動産との間に緊密な事実上の関係が生じ,第三者もそのことを認識することができるようになるという点で,正当化ができるのではないかと言われております。これは有体物である不動産については,事実上,自分が利用していれば他人の利用も当然に排除されることを前提としたものです。一方で,無体物である著作物に関しましては,事実上,自分が利用していたとしても他人の利用が当然に排除されるわけではありません。したがいまして,占有の取得による正当化を応用するならば,独占的ライセンシーがその目的である著作物を事実上,自分で利用しているだけではなくて,他人の利用を排除しているということまで求められると考えられます。

このような状態にあると評価される場合には独占的ライセンシーは対抗力を備えていなくても,その著作物を違法に侵害する者に対して差止めができるとなるのだろうとまとめられております。

3ページ目,(3)の論点ですけれども,こちらの点線の四角のところで,差し当たり,このような整理ができないかというところをまとめております。

まず,マル1の不動産賃借権の特殊性につきましては,先ほどから申し上げているとおり,同様の特殊性というものは著作権の独占的ライセンスには認められないだろうということで,これを応用することはできないと考えております。ただ,もっとも,不動産賃借権とは別の著作権分野における特殊性というものが何らかあるのであれば,それによる正当化ということも検討の余地はあるのではないかと。この点につきましては,昨年度のワーキングチームでも,そのような知的財産権の特殊性であったり,無体物であるという特殊性で何らか説明ができないかは検討してもよいのではないかといった御意見もあったところです。

マル2とマル3につきましては,これは前回,御議論いただいた独占性についての対抗制度を導入するのであれば,理屈上はこれを応用することは考えられるだろうと。もっとも,マル2を応用した場合については,不法利用者に対して差止め請求を行う場合に対抗力を具備することが要件になりますので,この点についてどのように考えるか,対抗力を具備することを要件とした場合に,実務において有効に機能するような制度となるかといった点については検討が必要かと考えております。

不法利用者に対する差止め請求の要件がどうなるかといった点につきましては,前回のワーキングチームでも一部御意見が出ていたところなので,参考資料3のほうに前回のワーキングチームの意見の概要をまとめておりますので,そちらの3ポツの(2)の不法利用者についてという項目にも前回の御意見を掲載しておりますので,そちらも御参照いただきながら,御議論いただければいいかと思っております。

また,マル4の占有による正当化ですけれども,こちらにつきましては調査研究でも指摘されておりますが,無体物である著作物につきましては,事実上,自分が利用していたとしても他人の利用が当然に排除されるわけではないといったことから,有体物の場合とは異なると。したがいまして,有体物における占有と類似の事実状態として,自分で利用しているだけではなくて,他人の利用を排除しているという事実状態にあることを要件とすることで,マル4というものを正当化根拠として応用することは,理屈上は考えられるかとは思います。もっとも,マル4を応用すべきかという検討に当たっては,そのような事実状態であることが要件となりますので,それが妥当なのか,このような要件を設定した場合に実務において有効に機能する制度となるかといった観点からの検討が必要だろうと考えております。

以上になります。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局より説明いただきました内容に関し,御意見,御質問等がございましたら,お願いいたします。いかがでしょうか。栗田委員,お願いいたします。

【栗田委員】栗田です。ありがとうございます。2点ほど非常に素朴な疑問を申し上げたいと思います。

まず,占有による正当化に関わるところです。本権と区別した占有の保護という制度自体は有体物を前提としておりますので,独占的ライセンスについて仮に準占有のような状態を認めることができたとしても,有体物と同様に占有の保護のようなものを認めるべきかどうかは,少なくとも議論のあり得るところです。そのため,これを差止請求権の根拠とすることには疑問があります。

次に,既に決まっている議論の順序に関わってしまうのですが,不動産賃借権に基づく妨害排除請求という制度は,不動産賃借権に関わる社会的需要に応じて発展してきた法制度です。独占的ライセンスに基づく差止請求権について議論する際に,不動産賃借権をモデルにする必要がどこまであるのかがよく分かりません。現在,議論の順序としては,「債権的な合意を基礎とする独占的な利用権」を前提としつつ,これに差止請求権を付与するためにどのような理論構成が考えられるかを先に議論しています。しかし,独占的ライセンスについてどのような制度設計が望ましいかを検討し,これがある程度固まったところで,その法律構成を検討すべきではないかという気がしております。

例えば,特許法上の専用実施権が登録を効力発生要件としているために利用が少ないという認識を前提に,専用実施権のような制度は望ましくないという判断はあり得ます。また,改正前の独占的ライセンス契約についても独占性の対抗を認めてほしいという事業者の需要もあるように聞いております。これらの点について,どのような政策決定を行うのか,どのような制度設計が望ましいと考えるかによって,どのような法律構成によって差止請求権を正当化し,どのような制度的限界を想定するかも変わってくるように思います。ひいては,これらの問題への立場決定によっては,そもそも「債権的な合意を基礎とする独占的な利用権」ではなく,「物権的」という言葉がいいかどうか分かりませんが,専用実施権類似の,ある種の物権的な権利を創設することも視野に入ってくるのではないかと思います。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

議論を進めるに当たっての前提に関する御指摘と思いますが,事務局,お願いいたします。すみません。一旦,今の点について,事務局から今回の整理の背景なり,御説明を頂きたいと思います。

【高藤著作権調査官】事務局です。今,2点目に栗田先生から御指摘いただいたところですけれども,進め方のところですが,差止請求権を認めて欲しいという課題の,そもそも課題が出てきた経緯ですけれども,もともとは既存の債権的な既に存在する独占的ライセンスについて保護してほしいといった一定のニーズがあったところから,この課題は始まっておりますので,そういう意味では,まずは債権的な合意を基礎とする独占的ライセンスという前提で法律構成を考えて検討することが,まず求められているんだろうと考えております。

ただ,おっしゃるように,政策決定として,特許法における専用実施権のような権利を新たに創設して,そちらの保護をしてもらいたいという独占的ライセンシーについては,そちらの権利を設定してもらうという形で制度設計するという選択肢もあるかと。これが来年度,独占的利用許諾構成の後に検討を予定しております,出版権的構成ということになりますけれども,そちらの構成についても検討は進めたいと考えているところです。

【龍村座長】栗田委員,どうぞ。

【栗田委員】少しだけ。今おっしゃったように,既存の独占的ライセンス契約についても独占性の対抗を認めることを前提として「債権的な合意を基礎とする独占的な利用権」を議論しているのだとすると,既存の独占的ライセンス契約については独占性の対抗は認められない,又は認めるべきではないという結論に達した場合には,あえて「債権的な合意を基礎とする」制度を採用する必要ないことになるように思うのですが,それは所与の前提なのでしょうか。

【龍村座長】事務局,お願いいたします。

【高藤著作権調査官】事務局です。今,御指摘いただいた点につきましては,既存の独占的ライセンスを保護すべきかどうかという価値判断ですけれども,こちらは検討の順番が前後してしまって申し訳ないのですが,今回の資料2の後ろのほうで,11ページ目ですけれども,5ポツのその他の付随的検討事項の中で施行日前に設定された独占的ライセンスを保護の対象にすることの要否・可否というところで,既存の独占的ライセンスについてどうすべきかというところは,一つ論点として挙げられております。本来であれば,もしかしたら,これを最初に議論すべきだったのかもしれないですけど,検討としては予定しているところではございます。

以上です。

【龍村座長】いろいろ前後しておりますが,検討の視野には入っているということでございます。

【栗田委員】ありがとうございます。「債権的合意を基礎とする」制度を採用した場合であっても,必ずしも既存のライセンス契約について独占性の対抗を認めるにはならないと考えたため,発言させていただいた次第です。ありがとうございました。

【龍村座長】不動産賃借権との対比というのは,前回の調査研究報告がそういう角度から検討した経緯があって,それで正当化根拠のロジック作りが先に出ているところがございます。御了承いただきたいと思います。

【栗田委員】それは理解しております。ありがとうございます。

【龍村座長】先ほど手が上がりました大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】今の栗田委員が言われた点が私は少し気になっていまして,去年整理がついているのではないかと思いますので,ここで議論しているものが債権なのか物権なのか,あるいは,物権化された債権かというのは,またあとで議論すればよい話であります。これは債権だから物権だからというのはやらないで,これは私は最後のレベルの問題だと思うので,現在,これは債権的合意として議論していますが,後で考えてみたら,これは物権的性質かもしれません。ここのところは最後に決まってくる話なので,ここであまり債権を決め打ちにするという話はせずに,これはこのまま続けていただければと思っております。

それから,本来の正当化根拠について,これは先ほど座長が言われたところにも関係してくるのですが,どうしても調査研究がこのような形で議論されているので,不動産賃借権との対比は1つの重要なポイントだとは思うのですが,私としては,著作権というのは無体物性の点が極めて重要なので,あまりこれを前面に出すのは違和感があります。少し先走りますが,私としては,本当はここにあまり上がっていなくて,前から折に触れて申し上げているのですが,本当の正当化根拠というのは,これがもしかしたら,注6で座長が言われているところと結び付くのかもしれませんが,私としては,これは独占的ライセンスということなので,独占性ないし排他性というもののコロラリーに近いものかと思っております。排他的地位,独占的地位というのは,とりわけ占有というもので守られていない無体物の場合には,独占性をきちんと円満に享受するためには,差止請求権というか排除請求権がない限りは排他性が円満に保護されませんので,私としてはむしろ債権か物権かというよりは,本当にこれが独占的なライセンス,排他的ライセンスと呼べるものであれば,むしろそのコロラリーとして,原則としては差止請求権は本来,認められるべきものであって,特にそれを制限などしない限りは,要するに今のキーワードは,排他性のコロラリーだし,特にその点が強く出るのが注6に関係してくるのかもしれませんが,特に無体物なので,差止請求権がなければ排他性が無に帰するので,これはほぼ必然ではないかと思います。

ただ,後の論点との関係でできますが,それを言った上で,ここでせっかく言われている民法との対比の関係で言われている1,2,3,4でいうと,私としては,一番最初の1はあまりにも不動産賃借権の特殊性というのが前面に出ていますので,これは賃借人保護の社会的要請とか,我々がさんざん民法で勉強したような話かと思うのですが,それは著作権にはおよそ当てはまらないような話なので,1は簡単に落ちます。

それから,4のほうも占有,この議論は当然占有という事実上の支配が一番のコアになっているのですが,著作権の場合には占有はないのでこれも落ちます。1と4は最初から落ちるから関係なくて,あとは2か3かという話だと,先ほど私が言った排他性のコロラリーというのを推し進めていくとここに来るのかもしれません。私はこれで,不法占有者に対してまで,必ず対抗力がなくてはいけないという理由もないので自然に,民法との議論から導くのは必ずしも妥当ではないのですが参考にはなるので,そのような観点から見ると,自然に3のところに落ち着いて,3は恐らく民法でも不法占有者に対してまで対抗力を具備しなくてはいけないとは言っていないかと思うので,その話は同じように著作権に当てはまるから,もともと別の話であるけれども,参考にはなるのではないかと思っております。

取りあえず,以上です。

【龍村座長】ありがとうございます。水津委員,お願いいたします。

【水津委員】大渕先生に御質問させてください。民法では,対抗力を備えた債権は,排他性があるため,差止請求が認められるといわれることがあります。差止請求権は,排他性のコロラリーであるという説明は,このような理解に立たれているのでしょうか。

【龍村座長】大渕委員に対する御質問のようですので,では,大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】私が申し上げた排他性というのは,ライセンスが排他的だという意味であって,対抗力を備えて初めて排他とは言っておりませんので,趣旨が違います。私は排他的ライセンスというのは排他性が本質なので,差止請求権がないと画餅に帰すだろうと考えております。

これを肯定した暁に,それを行使させるのに対抗要件をどこまで具備するのかというのは立法政策の問題であって,先ほど言われたのは,対抗要件を具備したものだけが排他性という定義の仕方なのですが,私が申し上げたのはそちらの話ではありません。

【龍村座長】水津委員,お願いします。

【水津委員】民法では,排他性は,権利相互の優劣関係を決するときに用いられることが多いような気がします。この意味での排他性は,不法利用者に対しては,そもそも問題となりません。排他性という概念をどのような意味で用いるのかを確認しないと,議論が混乱するのではないかと思いました。

【龍村座長】大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】まさしく今の点は非常に重要だと思います。我々の感覚だと,以前民法の栗田先生もそのような趣旨で言われたのですが,排他的ライセンスというのは排他性であるという,そちらの話を今,言われたように,対抗要件具備で排他性が決まるのかというのは定義の仕方は両方あり得るので。先ほども著作権と普通に用いられている排他性でやっていますし,先ほど言われたのは民法のほうなので,ここのところは言葉を工夫するなりして,これは排他性という言葉を明確化するだけでも大きな論点だし,また,今後はそこに注意しながら議論を進めていけば,お互いの無用な行き違いがなく,インターフェースがそろった議論が可能になるのではないかと思います。

【龍村座長】水津委員,どうぞ。

【水津委員】ここでは,調査研究に示された差止請求権の正当化根拠の分析枠組みを前提とする必要はないというのは,私も同感です。もっとも,差止請求権の正当化根拠について,民法と著作権法とでは,これを異なって考えるべきであるというのであれば,その理由を丁寧に論証しなければなりません。権利の対象が有体物か,無体物かで違うというだけでは,その違いが,差止請求権の正当化根拠の違いにどのような形で結びつくのか,必ずしも明らかでない気がします。

【龍村座長】ありがとうございます。

3ページの注6の指摘も,大渕委員の御議論の方向性に近い指摘なのかとも思いますが,その辺りはどうなんですかね。注6だと知的財産権の特殊性という観点から言っているわけですけれども,この辺りも御意見があれば,いかがでしょうか。

大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】私は対象物が有体か無体かというのはあまりに大きな違いなので,もちろん違うから違うとだけ言うつもりはないのですが,最低限言えるのは,即当てはまることはないことは間違いがないので,有体の議論が即当てはまるという議論は止めるべきというだけです。それはもちろん,それが注6に,そのお気持ちが出ているのではないかと思いますので,あまりに中身が違うから無体物を把握する特殊性は無視できない点なので,そのような観点から民法から直ちに導くというのはおかしいだろうと思っております。

【龍村座長】ありがとうございます。

正当化根拠論で,ほかに御意見ございますか。今,先に上野委員,手が上がりましたか。水津委員,お願いします。

【水津委員】先ほど,栗田先生は,差止請求権の理論構成を議論するより前に,どのような制度設計が望まれているのかを検討すべきであるとおっしゃったように思います。しかし,独占的ライセンスの対抗制度を検討した後,直ちに差止請求権の理論構成を検討するということは,一定の合理性がある気がします。独占的ライセンスの対抗制度と差止請求権の理論構成とは,密接な関係にあるからです。例えば,差止請求権の正当化根拠のうちの③は,独占的ライセンスの対抗制度によって独占性の対抗が認められるにもかかわらず,差止めが認められないとするのはおかしいのではないか,という考え方を基礎に据えています。私は,この考え方に立っています。

【龍村座長】ありがとうございます。

【大渕座長代理】今の関連で。

【龍村座長】大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】今のお聞きして,一見違うけれども,水津委員とは実は目指している方向が近いのかという気がいたしました。私は,議論が2段階あって,抽象的な意味での正当化根拠としては,排他的ライセンスということで,設定していながら排他性が円満に保護できないようなものというのはいけないからコロラリーだと,それが恐らく抽象的な正当化根拠なのですが,それに加えて,今,言われたように,そのような抽象的な話ではなくて,もっと絞った第2段階というか,これを排他性と見るかどうかは別として,独占性の対抗まで肯定した暁に差止めを認めないと,全部の独占性の対抗は肯定できるという前提なのに差止めが否定されるというのは,先ほどの抽象的な議論だけではなくて,より強い議論でそれは独占性の対抗を即差止肯定というところに結び付くという点ではおっしゃるとおりだと思います。だから,議論は2段階から成っているものと思います。

【龍村座長】ありがとうございます。

今の点,そのほか補足はございますでしょうか。正当化根拠論,いろいろな角度で考えられるかと,あるいは,いろいろな次元で考えられるのかもしれませんが,おおよそ今,出た御議論を一応想定して進めたいと思います。よろしいでしょうか。正当化根拠の議論で補足はよろしいでしょうか。ありがとうございました。

では,続きまして2に進みたいと思います。2,著作権者等の意志への配慮の要否及び方法,4ページから6ページになりますが,この点に関して,事務局より説明をお願いいたします。

【高藤著作権調査官】4ページ目を御覧ください。2ポツ,著作権者等の意思への配慮の要否及び方法ですけれども,まず,(1)の問題の所在ですが,独占的ライセンスに基づく差止請求権を認める場合,独占性ライセンシーは,著作権者等とは独立して差止請求権を行使できることになるとは思いますけれども,その行使というのは,必ずしも著作権者等の意思に沿うものとは限らないかと考えております。

そこで,独占的ライセンシーが独占的ライセンスに基づく差止請求権を行使するに当たって,著作権者等の承諾であったり,著作権者等の意思に反しないことを要件とする必要があるのかと。また,仮に要件と検討すべきではないと考えた場合でも,例えば,事前通知義務を課すとか,そういったその他の著作権者等の意思に配慮した規定を設けることが考えられるかといった点について,御意見をいただければと考えております。

4ページ目の(2)ですけれども,従前の議論というところで,まず,調査研究におきまして関係者のヒアリングを行っておりますので,その中で主立った御意見を御紹介します。

下の四角の部分ですけれども,まず,1つ目の丸と2つ目の丸は,どちらかというとライセンサー側,権利者側に立つ権利者の団体からの御意見かと。1つ目の丸にもありますように,基本的には権利者の了承の下ということであれば,著作権者としても差止めを認めることについて了解しやすいのではないかといった御意見。また,2つ目の丸では,著作権者の承諾を訴訟提起の条件とする制度であれば構わないといった御意見がありました。

また,その下,4ページ目から5ページ目にかかって3つほど丸がありますけれども,まず,4ページ目の一番下の丸ですが,こちらにつきましては,どちらかというとライセンシー側に立つような団体からの御意見です。権利行使の際に権利者の承諾を得る仕組みとするのは負担が大きいという御意見をいただいています。

また,5ページ目の上の丸ですけれども,出版社としては,権利者との関係が最も重要であるので,権利行使の際には確認をするはずであり,意思に反して権利行使をすることはないと考えられるといった御意見をいただいています。御意見をいただいた日本書籍出版協会様につきましては,昨年度のワーキングチームのヒアリングでも御意見をいただいておりまして,実務上,こういう形で権利者の意思を確認しながら,例えば,出版権に基づく差止めを行ったりしていると伺っておりますけれども,法律上,これを要件とすることについては負担が大きいといった御意見をいただいているところです。

また,その下の丸ですけれども,これはまた別の観点からですけれども,仮に制度上,独占的ライセンシーが差止請求をすることができるようになったとしても,その結果,プロダクションとの契約が切られてしまうとなれば,結局は差止めをしないことになるといった点で,仮に独立して承諾なく差止めできるとしたとしても,それによって権利者側との契約が解除されることになるのが懸念されるといった御意見なのかと受け止めております。

5ページ目,真ん中の四角ですけれども,こちらは調査研究におきまして,この点についてどう考えるかといった点がまとめられております。四角の下のほうですけれども,結論としましては,差止請求権の行使に当たって独占的ライセンサーの意思に反しないことといった要件は不要ではないかといった結論になっていますけれども,理由としましては,独占的ライセンサーは独占的ライセンシーに対し,その目的である著作物を独占的ライセンシーの独占的な利用に適した状態に置く義務を負っているのではないかと。この義務から派生するものとして,独占的ライセンシーがその目的である著作物を利用することができない場合において,独占的ライセンシー自身に認められた差止請求権を行使する時は,独占的ライセンサーはその請求権の行使を忍容する義務を定型的に負っているのではないかと。そうすると,独占的ライセンスに基づく差止請求権の行使に当たっては,独占的ライセンサーの意思に反しないことといった要件は不要ではないかといった結論となっております。

また,5ページ目の下の部分ですけれども,こちらは昨年度のワーキングチームにおいて,関係者のヒアリングを行った際の御意見を抜粋してきております。まず,日本書籍出版協会様につきましては,先ほど申し上げたとおり,実務上は著作権者,権利者側への確認が行われているけれども,6ページ目,下線で引いていますけれども,著作権者等の承諾を独占的ライセンスに基づく差止請求権等の要件とすることは制度として使いにくくなるということで,妥当とは思われないといった御意見をいただいております。

また,モバイル・コンテンツ・フォーラム様からは,また別の観点ですけれども,ライセンサーが一定期間の間に差止めを行わない場合については,ライセンシーが独占性を守るために必要な限度で差止めをできる制度が望ましいといった御意見をいただいております。これは著作権者等の承諾を要件としてほしいという御意見ではなくて,むしろ,ライセンサーが何らかの理由で差止めすることを拒否したり,差止めしないといった態度をとった場合に,独占的ライセンシーが独自に差止めできるようにしてほしいといった御意見なのかと受け止めております。

また,日本映像ソフト協会様からは,海外に権利者がいるような場合に迅速な権利行使ができないことになるので,独占的ライセンシーは,不法利用者に対しては著作権者の承諾なく差止めできるようにしてほしいといった御意見をいただいております。

以上を踏まえまして,(3)の論点ですけれども,1つ目のポツにありますとおり,独占的ライセンスに基づく差止請求権の行使に当たって,著作権者等の承諾を要件とすることや著作権者等の意思に反しないことを要件とすべきではないと考えてよいのか。また,仮に要件としないとした場合でも,何らか事前通知義務を課すとか,そういったことが考えられるかといった点について御意見をいただければと考えております。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局より説明いただきました内容に関し,御意見,御質問がございましたら,お願いいたします。今村委員,お願いいたします。

【今村委員】栗田委員のほうが先だったんですけど。

【栗田委員】どちらでも構わないです。当たっちゃったので,今村先生,お先に……。

【龍村座長】今村委員,どうぞ。

【今村委員】そうしたら,私のほうから。6ページの論点の前提として,独占的利用許諾構成に関する議論をしているわけですけれども,著作権者がライセンサーとして独占的にライセンスを設定した場合に,著作権者には差止請求権が残るという前提で議論していること,あるいは,そういう制度設計をすることが前提なのか,それとも,そこはライセンシーだけに差止請求が生じると,多分そうではないんだと思うんですけども,この議論を見ていく限り,それはどちらが前提として考えたらよろしいでしょうか。著作権者の意思の問題を考える上で必要だと思うので,確認させていただければと思います。

【龍村座長】では,事務局,お願いします。

【高藤著作権調査官】事務局の考え方としましては,著作権者自身にも著作権に基づく差止請求権は認められるという前提で,この論点をお出ししたところではございます。

【龍村座長】よろしいでしょうか。

【今村委員】分かりました。

【龍村座長】では,栗田委員,お願いいたします。

【栗田委員】栗田です。私も単なる確認なのですが,「著作権者等」と書かれていますが,これは「著作者」ではなく「著作権者」と理解してよいのでしょうか。ヒアリング調査結果を見ていますと,「著作権者」というよりも「著作者」の意思を尊重すべきだと後主張になっているようにも読める部分があります。そのため,ここで議論になっているのが,例えば,著作権の譲受人などの「著作権者」であることを確認させていただきたいと思います。よろしくお願いします。

【龍村座長】では,事務局,お願いいたします。

【高藤著作権調査官】この論点で考えておりますのは,「著作権者等」と書いていますけれども,基本的には著作権者を想定しておりまして,「等」と書いておりますのは,著作隣接権者も含まれるだろうと思っておりますので「等」とつけているところです。著作権者と著作者では,また保護すべき利益というものも違ってくるかと思いますので,そこは分けて議論が必要なのかと思っています。

【龍村座長】よろしいでしょうか。栗田委員。

【栗田委員】ありがとうございます。続けて,意見を申し上げてもよろしいでしょうか。

【龍村座長】どうぞ。

【栗田委員】「著作者」ではなく「著作権者等の利益」を考えるのであれば,著作権者等は,独占的ライセンス契約を締結する時点で,独占的ライセンシーによる差止請求権の行使について利害の判断を行っているものと考えられますから,改めて,制度上その意思を尊重する必要性は低いように思います。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございます。大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】今村委員が言われたところにつきまして,特許の世界では高分子リガンド事件最判という非常に有名な最判があって,それは専用実施権を設定した後でも,特許権者には差止めができるということなので,先ほどは確認のためには言われたかと思いますが,当然,専用実施権とどちらが強いのか分かりませんが,できるという前提で,恐らくそれは残る前提で,独占的ライセンシーのほうの差止めを勝手にやっていいかという話だと思うのですが,私はこれは2点強調していて,その間ですごく悩むところではあるのですが,1点目が先ほど申し上げました独占性のコロラリーです。ここで言っている独占性というのは対抗要件具備性という意味ではなくて,第一段階での独占性なのですが,独占性のコロラリーとして差止めが認められるべきということになれば,要するに,独占的ライセンスを設定しているのだから,その人にとっては当然差止めができるであろうと行くのですが,それだけで済まない大きな問題があります。私としては,もともと独占的ライセンスというのは,主役はクリエーター,著作者で,それの意思に基づいて言わば,ここだと人格権は関係ありませんから,ライセンサーの著作権にぶら下がった形で独占的ライセンスがついているだけなので,どちらが主かと言えば,クリエーターというか著作権者のほうになるのです。

そのために,これを見ると,著作権者のほうを強調する著作権側の意見と,それから,独占的ライセンシーさんは自分のほうで自由にやりたいということで,先鋭な対立を見せているのですが,私はこの点は,下のほうというか下流でやるから無理があるので,設定のときに,これはある意味,いろいろな形で,どのような趣旨で独占的ライセンスを設定するかというところで,恐らく2つに分けられて,ここのところで決まってくるのかという気がしています。要するに,あなたには独占的ライセンスを差し上げますから,私の意思に関係なく御自由におやりくださいという趣旨で,自分の権利の一部を譲与することもあれば,最後は自分の意思を聞いてくださいということもあるので,それは恐らく両方あり得るから,それで最初にどちらかに決めれば,後からもう文句は言うなと。だから下流でやるからこのような鮮鋭な対立になってしまうので,設定のときにどちらの趣旨かを決めれば,諦めて全部,オールフリーにする趣旨でやればそれだし,そうでなくて,やってもいいが意思を聞いてからにしてくださいと,だから上流のほうでうまくそこのところを決めない限りは,この問題は下流だけやってもしようがないのではないかと思っております。

【龍村座長】栗田委員,お願いいたします。

【栗田委員】今の大渕先生の御意見に関してです。まず,デフォルトルールとして,特約等なしに独占的ライセンス契約を締結した場合に,独占的ライセンシーが単独で著作権者等の意思を確認することなく差止請求権を行使できるのかを考えなければならないと思います。

その上で,大渕先生のご指摘のように,著作権者等の意思を確認し,同意がなければ差止請求権を行使しないという契約を締結した場合において,独占的ライセンシーは,著作権者等の意思を確認しなければそもそも差止請求権を行使できなくなるのか,差止請求権は行使できるが契約違反として債務不履行等の責任を問われる,つまり,債権的拘束のみを受けるのかを議論することが必要ではないかと思います。大渕先生がどのような具体的な制度をイメージしておられるのかを確認させて頂ければと思います。

【龍村座長】大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】今,言われたデフォルトという点に関しまして,平成23年改正の準備段階のときも両方あって,あれは結局没になりましたが,どちらをデフォルトにするという方向性もあり得るということで考えていました。それはどちらもあり得るということだし,2番目のほうも設定の趣旨によるのではないかと思います。要するに,債権的制約だけ加えて,あとは損害賠償で縛るというだけなのか,そもそもあなたにはそれだけの権限をあげないかというのも,全てきちんと意識した上で,契約で決めるしかないし,そこのところのデフォルトをどちらに転がすかというのは大きな立法政策だと思います。

一番,お好みに沿うようにしたら,原則は無条件で行くから,それが嫌だったら反対の意思を表示,今般の放送の同時配信の推定規定みたいですけど,それは恐らく最後の決め方の問題であります。デフォルトをどちらに転がすかは別として,当事者が納得できるように,意思が反映できる形で大元ができるようにしていくことが鮮鋭な対立を防ぐために必要です。それでどちらかに決まってしまえば,諦めがつきます。最初から,仮にデフォルトをそちらのオール自由のほうに転がしたとしたら,反対の意思表示をしていなければ諦めてくださいとなって,もう諦めもつくので,その辺りを踏まえた上での,今まであまり上流のほうに意識が向いていなくて下流ばかりいっているので,それよりはデフォルトつきかどうかは別として,上流のほうに問題のポイントを移したほうが,みんながスタートで諦めがつく,文句の出ないような制度になるのではないかということであります。

【龍村座長】では,前田委員,お願いします。

【前田委員】不法利用者に対する差止請求権の行使のことが,何となく意識に置かれている場合が多いような印象を受けるのですけれども,ここで議論している場面として,二重ライセンスやライセンスと譲渡が競合し,そして,独占的ライセンシーのほうが対抗要件を具備した場合の,独占的ライセンシーが差止請求権を行使できる場合に,著作権者の同意が必要かという場面があると思うのです。

不法利用者に対する権利行使の際に著作権者の承諾を求めるという考え方はあり得るかもしれないのですが,二重ライセンスだとか譲渡とライセンスの競合の場合に,著作権者等の意思に反しないことを要件とするというのは,制度としてはあり得ないのではないか。つまり,二重ライセンスをした,あるいはライセンスと競合する譲渡をした本人である著作権者の同意がなければ,独占的ライセンシーが差止請求権を行使できないという制度はそもそもおかしいのじゃないかと思います。

そうすると,先ほど栗田先生がおっしゃったように,もし当事者間で著作権者の意思確認が必要だという契約をするのだったら,その契約は無効とまでは言えないと思いますので,独占的ライセンシーではその契約に反して差止請求権を行使することは物権的には可能なのだろうけれども,それは著作権者との契約違反の問題が生じることになるのではないかと思います。

それから,栗田先生が著作者か著作権者かという点を提起された背景には,もしかしたら,著作権者の同意は必要ではないかもしれないけど,それとは別に著作者の意思を尊重するという制度はあり得るかもしれないということがあり,そのことを前提として栗田先生がおっしゃったのかもしれないと私は想像したのですけれども,原則として,著作者は原始的な著作権者でありますし,著作者イコール著作権者ではあることが基本的に多いという前提からすると,著作者の意思を尊重するという制度も難しいのではないかと思います。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございます。

奥邨委員より先ほど手が挙がりましたが,では,奥邨委員,先にお願いいたします。

【奥邨委員】私は今の前田先生の御意見にそのまま賛成です。この制度で差止請求権を行使する場合に,著作権者の意思を確認するということは不要にすべきだと思います。

まず,制度上複雑になりますし,さらに,先ほど栗田委員もおっしゃったように,そもそも独占ライセンスを出さなければいいわけであって,独占ライセンスを出すときに,こういう独占ライセンスと割り込んでいくのは非常に複雑になると思いますし,実態にも合わないだろうと思います。反対であれば出さないということをすればいい。

それで,あと,さらに先ほど前田委員がおっしゃった著作者の意思の尊重ですけども,著作権を譲らなければいいという選択肢が残りますので,極端に言えば,その辺は考慮の余地があると思いますし,どうしても問題があれば,当事者間の問題として約束をすれば,当事者間の約束の問題として処理するということで,ほかの制度と考えても別段バランスが取れないわけではないように思います。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございます。

栗田委員,手が挙がりました。では,先に,栗田委員お願いします。

【栗田委員】いえいえ。今,奥邨先生にほとんどおっしゃっていただいたのですが,私が著作者と著作権者の違いについて質問させていただいたのは,恐らく「著作者」の意思は問題としないという前提で論点が提示されており,それはなぜかというと,著作者はもし自分の意思を尊重してほしいのであれば,先ほど奥邨先生からご指摘があったように,著作権を譲渡しなければいいだろうと。そのように考えると,同様に,著作権者等ももし差止請求権の行使に際して自己の意思を尊重してほしいのであれば,そもそも独占的ライセンス契約をそのような形で締結しなければよかったのだといえそうです。そうだとすれば,改めて,後から著作権者等の意思を差止請求権の行使に際して尊重するような制度を設計する必要はないだろう。そういう趣旨で,著作者と著作権者の違いについて確認申し上げたわけです。したがいまして,私の意見としましては,最初に申し上げましたとおり,少なくともデフォルトルールとしては,著作権者等の意思の確認は不要とすべきだと考えております。

また,デフォルトルールの重要性についてですけれども,契約解釈の問題がどうしても残ろうかと思います。特に既存の独占的ライセンス契約についても改正法を適用するという立場決定──私はこの立場に賛成しているわけでも反対しているわけでもないですが──仮にそういう立場決定を行った場合には,また,仮にそうでなかったとしても,どのような独占的ライセンス契約を締結したのかが契約条項の解釈として問題になる局面は少なくなかろうと思われます。そのため,デフォルトルールをどのように定めるかはかなり重要であって,慎重に検討していただいたほうがよかろうかと思います。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございます。大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】最初に著作者の点につきまして,私が先ほど申し上げたのは,あくまでここに書いてあるとおりの著作権者の意思であります。よく考えると,著作権者が差止めをするときに著作者の意思を確認する必要は,自分が譲渡を受けて有効に著作権者になっていれば,大元の著作者人格権と違って著作財産権ですから,別に著作者の意思を確認する必要はないのに,独占的ライセンスになったら,突然著作者が出てくるのもおかしな話なので,あくまでこれは著作者の話ではなくて著作権者の話だと思っております。

それで,前田委員が言われたところは分かるので,あれは濫用形態というのも変ですがど,自分で二重譲渡で決まっているのにというのは,もうそれで恐らく対抗制度というのは,意思とかは気にせずに,二重ライセンス同士のものでは先に対抗要件を具備した人で,もう決め打ちにするという前提になっています。ここで意思を気にしているのは,そのような話ではなくて,不法な利用者に対するものですが,例えば,独占的ライセンシーの面から見れば,けしからんからなぎ倒したいのだけれども,作家さん本人としては,かわいそうだからやってほしくないと,そのようなところをどこまで保護するかという話であります。今まで念頭に置いていたのはそのような話なので,前田委員が言われたとおりで,二重ライセンスとかそのようなものはここで言っている意思の確認とは関係ない,対抗要件で全てをなぎ倒しましょうという話なので,関係ないのではないかと思います。

独占的ライセンスを出さなければよいというのは全くそうなのですが,何か一定の制約を加えたいという中間的な場合には,そもそも排他的ライセンスが出せなくなってしまいます。選択肢が100とゼロだけだと,中間の50があれば出してもよいのに,50がないから独占的ライセンスを出さないということにつながり,恐らく両当事者にマイナスになります。制度が複雑になりすぎるのはよくないのですが,私としては,50なら50なりにライセンスの出し方を工夫して,両者の意思がきちんと盛り込めるような形を否定しないことが大事だと思っております。

【龍村座長】ありがとうございます。奥邨委員,では,お願いいたします。

【奥邨委員】今おっしゃられた50をというのはよく分かるんですが,それを法制度でやる必要はなくて,当事者間の契約でやっていただければいいかと私は思います。

特に漫画家さんとかがかわいそうだからというのを制度の中で,そこまで汲み取って制度をあらかじめ作る必要のある問題かという気はします。それは漫画かと出版社の間で,もしくは,著作者と何との間で個別に,どのように権利行使をしてほしいということは,当事者間の約束としてやってもらえばいい話であって,非常に私はマイナーな部分だと思いますけども,マイナーな部分で制度全体を非常に複雑にするというのは,後々,使い始めたときに,当事者間はどういうライセンスを与えると,独占ライセンス与える,最初に与えていたのかどうかと,そこが延々,例えば不法利用者がそこを徹底的についたあれでも差止めを争うことができるとなると,せっかく作った制度が問題になるので,気持ちの部分というのは当事者間でいろいろと話し合うことができる部分だし,出版社と漫画家の強さであったりとか,いろいろなところで調整できると思うので,そこは当事者間に任せたほうが,私はむしろ柔軟になるのではないかという気がいたします。

刑事告訴とか刑事罰どうこうだと,もう少し緩く見てやってみたいな話も分かるんですけども,あくまで,ここはよく皆さんおっしゃるように,差止めだから,悪いことを止めさせるだけなんだからということであれば,むしろそっちでも,そこまで漫画家さんが恨まれると,別に漫画家さんが出るわけじゃなくて,明らかに出版社がやるわけですから,むしろ漫画家さんは後ろで止めてやれよと言ったら格好はつくわけなので,どちらかというと,あまりそこは制度の中に盛り込むほどの配慮が必要かというのは疑問を持つところであります。

以上です。

【大渕座長代理】よろしいでしょうか。

【龍村座長】では,大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】今の点につきまして,現行法でもライセンスの与え方というのは設定契約でいかようにでも決定できます。先ほどの契約でやればよいというのはまさしく設定契約の中身ですから,今度は立法で,全部そのようなものは封じて一律100しか出せないということをしない限りは,もともと専用実施権にしろ,何にしろ設定契約で内容を定めるという面がありますので,そこを封じるのはかえって難しいという感じがいたします。

そこで混乱が起きないようにデフォルトでどうするというのはありますが,そこを全部封じて,現在だったら可能な中間的なものを全部なしにするというのは行きすぎかと思います。お聞きしていると現行法でも中間ができるように出すしかないというのは,現行の中でもいろいろな形で当事者が納得すれば,もともとは権利が著作権しかなくて,ライセンシーのほうに譲与するわけですから,譲与の範囲というのは契約でいかようにも決められるので,現行法でも複雑さが嫌だというのは封じることはできません。そこのところは誤解なきようにお願いいたします。

【龍村座長】ありがとうございます。では,奥邨委員,お願いします。

【奥邨委員】私が誤解しているのかもしれないんですが,よく分からないんですが,現行法でも差止めができるということ,現行法でもできるという趣旨がよく分からないのと,あと,今,議論になっているのは,最初のときに,あなたは勝手に差止めをできないという独占ライセンスを出すか,あなたが勝手に差止めをしてもいいという独占ライセンスをすると,その選択肢を認めるという議論なのかと思っていたんですが,私はそういう制度設計にする必要はなくて,独占ライセンスを認めるということであれば,もう自動的に勝手に差止請求ができるという制度であってよくて,ただ,当事者間の契約の問題として,債権債務の問題として,勝手にやったら損害賠償を払わなきゃいけないとか,そういうのはありだと思うんですけども,差止請求するときに私の契約では,私は差止請求を勝手にやっていいと認められていますということまで裁判所に言わないと,差止請求ができないという制度にするのは少しやり過ぎだと思ったと,複雑だと思ったということなので,前提が理解できていないのであれば,議論が間違っているということになりますが,そういう理解で私は発言いたしました。

【龍村座長】ありがとうございます。

【龍村座長】大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】私は現行法でも差止めはできると思っているのですが,私のは少数説ですから,そのようなレベルでお聞きいただければと思います。

それから,契約というのは,私としては設定は自由だろうと,あまりやり過ぎると,細かいのはいかがかというのは,必ず現行法でも与えるしかなくて,あとは契約違反を追及するだけで,これは損害賠償などにも関わってくると思いますが,与えるしかないということはないのではないかと思います。ただ,御懸念の点は分からなくはなくて,それが現行法ではできるけれども,今後すっきりしたいから,例えば1つ有力そうなのは,与えるのならデフォルトにして,あとは債権的合意で縛るだけにしてくださいとか,いろいろ悩んだ上で,そちらのほうがよいから,放送の同時配信の議論に似てきますが,推定規定のような感じかどうかは別として与えるけれどもというのは分かるのですが,現行でも私は与え方いかんだから,そこのところを現行法で縛るのは難しいのではないかと思っています。

ただ,今後,そのようなものがあまり好ましくないから,デフォルトでもっと自由自在に差止めしたほうがよいと立法政策決定で決めるのは,もちろん十分あり得るかと思っています。

【龍村座長】ありがとうございます。澤田委員,どうぞ。

【澤田委員】私自身の意見としては,制度としては著作権者の意思への配慮等は不要ということで,栗田先生,前田先生,奥邨先生のおっしゃっているところと同じです。

1点,確認なんですけれども,独占ライセンスが与えられているかどうかは契約内容全体から判断されるものだと思っておりまして,例えば,第三者にライセンスをしないという条項が規定されている一方で,ライセンシーは差止請求権を勝手に行使できない,あるいは全く行使することができないという条項が規定されている契約があった場合に,独占ライセンスが与えられていると認定されるという理解でよいのか確認させていただければと思います現在の議論ですと,第三者にライセンスをしないというのが独占ライセンスの内容であるため,仮に,差止請求権という独占性の実効性確保手段が契約で禁止・制限されていたとしても,独占ライセンス自体は与えられていると認定される,つまり,差止請求権が行使できないという合意がなされていることをもって,独占ライセンスではないという認定がされることはないと,理解しています。何かこの点について御意見があれば,いただければと思います。

以上です。

【龍村座長】では,事務局,お願いします。

【高藤著作権調査官】今,澤田委員から御指摘いただいた点ですけれども,事務局としましては,昨年度のワーキングチームでも整理しましたとおり,ここで想定している独占的ライセンスというのは,他者に重複したライセンスを出さないといった合意がなされている独占的ライセンスを想定しておりまして,差止請求権を行使させないとか,そういった合意について,何か独占的ライセンスの範囲に影響を及ぼすことは想定しておりません。

もちろん,今,御議論いただいている論点で,著作権者の明示的な承諾がなければ差止請求権が付与されないといった制度を取る場合であれば,そういった形で保護対象の独占的ライセンスから除外される可能性はあると思いますけれども,今,御議論いただいたところを伺っておりますと,独占的ライセンスを付与した以上は,基本的には独占的ライセンシーのほうで,差止請求権は著作権者の承諾なく行使できると。ただ,著作権者のほうで何か配慮してほしいということであるのであれば,独占的ライセンス契約の中で,その旨を定めて,債権的にその部分を手当てするといった形のご意見が大勢なのかなとは,御意見を伺って思ったところです。

【龍村座長】大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】先ほど申し上げた点が重要かと思っていまして,対抗要件具備性とは区別された独占性のコロラリーとして差し止められるということで,恐らく皆さんもそれが漠然と念頭に置かれていて,今までの発想はそうではなくて,独占的ライセンスというのは単にライセンスを出しませんというだけであって,私はおかしいと思うのですが,独占的ライセンスといった瞬間,それに加えて,差止めがない限りは独占性が享受できませんので,差止めのないものは想定されていないのだろうと思います。

そのような意味では,勝手にできるのですが,私が申し上げたいのは,先ほどは言い方がややミスリーディングだったかもしれませんが,御本人としては何かの制約を掛けたいというのがある場合には,そこのところは最低限,契約的なものにしかすぎないにせよ,何か配慮してあげないと,きっと御不満が出るかと思います。私としては,そのような意味では,現実的対応としては,知らないままに勝手にやることはなくて通知ぐらいしてくださいというのは入れてあげて,何らかの形で,債権でもいいですから,別に法律に書くしかないのでしょうが,勝手にやると債務不履行になるとか,そこまで本当にクリエーターのほうが強い気持ちがあるかどうかですが,ある場合には,それがある程度反映できる制度にしないときっと,私の理論から言うと,独占性のコロラリーゆえに,当然差止め肯定だから,むしろ自由自在にやってよいといくのですが,それで突っ走るとクリエーターには不満が残るので,そこにはできるだけ先ほどの範囲では配慮してあげたいということは,お願いできればと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。

では,時間の関係でこの点はよろしいでしょうか。上野委員ございますか。どうぞ。

【上野委員】非常に活発な議論が続いて,なかなか口を挟めなかったんですけれど,この論点については,著作権者の承諾を要件としないということに私も賛成です。他方,事務局の資料では,そうした要件とは別に,何らかの義務を負わせるかどうかということも問題提起されていまして,この点については先ほどの議論ではあまり御意見がありませんでしたけども,私自身は契約に委ねればよいのではないかと思っております。その必要があれば契約の中で取り決められることが期待されますので,あえて法律上の義務を定める必要はないのかなと感じた次第です。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございます。では,次に進ませていただいてよろしいでしょうか。

続きまして,3,民法第605条の4の規定との整合性,資料6ページ,ないし9ページになりますが,この点に関し,事務局より説明をお願いいたします。

【高藤著作権調査官】資料2の6ページ目,3ポツのところですけれども,民法605条の4の規定との整合性について,(1)の問題の所在ですが,独占的利用許諾構成におきましては,独占的ライセンシーが独占的ライセンス契約に基づき有する権利というものは,先ほども申し上げたとおり,債権的な合意を基礎とする独占的な利用権であるという点において,不動産賃借権に類するところとなると思いますけれども,不動産賃借権に基づく妨害排除請求権につきましては,民法上,以下の6ページ目の下の部分,点線の四角で囲ってある部分に記載のとおり規定がされております。

その中では,605条の4の柱書にありますように,不動産の賃借人は,605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において,各号に定める請求をすることができるという形で,対抗要件を備えた不動産賃借人に,妨害排除請求を認めるような書きぶりになっております。

また,各号を見ますと,1号で妨害の停止の請求,2号で返還請求というものが掲げられておりますけれども,妨害の予防請求につきましては規定されていないと。したがいまして,不動産賃借権に基づく妨害排除請求権に関する605条の4の規定に倣うとすれば,これらの請求が認められないのではないかと。具体的には,7ページ目のところの上のほうで,アルファ,ベータと書いていますけれども,まず,対抗力を備えていない独占的ライセンシーの不法利用者に対する差止め請求,それから,ベータのところですけども,侵害の予防請求,これを認めることというのが民法605条の4の規定と齟齬するのではないかといったところが問題となっております。

7ページ目,(2)従前の議論というところですけれども,まず,調査研究におきまして,民法605条の4との関係について整理されておりますので,それを御紹介いたします。

まず,1つ目の四角の部分の第1と書いてあるところですけれども,民法605条の4の読み方として,アルファの対抗力を備えていない不動産賃借人が不法占拠者に対して妨害排除請求できるかといったところ,またベータとして妨害の予防請求ができるかといったところについては,いずれもできないといった形で限定的に解釈する読み方が1つあるだろうと。一方で,「これに対し」という部分ですけれども,アルファ,ベータ,いずれについても今後の判例,学説による法形成に委ねられた問題だと,今後の解釈に委ねられているんだという読み方ができるのではないかといったところで,2つの読み方が指摘されているところです。

これにつきまして,7ページ目の下の四角ですけれども,改正民法の影響というところで,具体的な民法の規定ぶりとの関係でどう考えられるかといったところが調査研究でまとめられております。

四角の部分ですけれども,独占的ライセンシーの権利というものを不動産賃借権と同じような性質のものと考えるのであれば,基本的には民法605条の4の規定と同じような規定ぶりになるだろうと。そうした場合に,アルファ,ベータと書いてある部分について,いずれも認められるかというのは,先ほどの読み方によって結論が変わってくるだろうといったところがまとめられております。

8ページ目の下線部のところですけれども,予防請求のところについては,これについては無体物である著作物の特殊性から独占的ライセンスに基づく差止請求権についてのみ,侵害予防請求を付け加えることを正当化すること,これができるのであれば,予防請求が認められるのではないかということが示唆されているところでございます。

したがいまして,以上のような議論を踏まえまして,(3)の論点のところですけれども,こちらは差し当たり,事務局のほうでこのように考えられないかといったところをまとめております。大きく2つの問題に分けて記載しております。

まず,8ページの下の1つ目のポツですけれども,独占的ライセンスに基づく差止請求権において,アルファ,対抗力を備えていない独占的ライセンシーの不法利用者に対する差止請求と,ベータ,侵害の予防請求を認めるべきか,といった点についてですけれども,1つ目の矢印で記載しましたとおり,アルファにつきましては,独占的ライセンスに基づく差止請求権の正当化根拠と連動するんだろうと考えております。

したがいまして,先ほど御議論いただいた中で,マル3の対抗制度による正当化というものがありましたけれども,こちらを採用する場合には対抗力を備えていない独占的ライセンシーの不法利用者に対する差止請求権を認めるべきということになるんだろうと思っております。これに対して,マル2の対抗力による正当化というもの,対抗力を備えなければ差止めできないという考え方を取るのであれば,対抗要件を備えなければ,不法利用者に対して差止めできないといった結論になるのだろうと考えております。

一方で,ベータのほうですけれども,予防請求に関しましては,不動産賃借権の侵害行為と独占的ライセンスの侵害行為の性質の違いというものを指摘できるだろうと考えておりまして,不動産賃借権の侵害行為につきましては,通常は対象不動産の占有という一定程度,継続的な行為によって行われると思いますけれども,これに対して,独占的ライセンスの独占性を侵害する行為というものは,著作権の支分権対象行為,すなわち,複製や翻案といった継続性のない行為,上映や演奏といった一定程度の継続性はあるけれども,比較的短時間で終了するような行為というものが多いだろうと。

9ページ目ですけれども,そのため,独占的ライセンスに基づく差止請求権におきましては,不動産賃借権の場合と比べて,侵害停止を求める場面というよりも侵害予防を求める場面が非常に多いだろうと。したがいまして,侵害予防請求を行う場面というものが差止請求の主たる場面として想定されることからすると,侵害予防請求というものを認める必要があるのではないかと。

以上を踏まえて,9ページ目のポツのところですけれども,仮にアルファ,ベータ,いずれも認めるべきと考えた場合,民法605条の4との整合性についてどう考えるかというところですけれども,まず,アルファのほうにつきましては,民法605条の4の立法時の議論におきまして,不動産賃借人による不法占拠者に対する妨害排除請求において,対抗要件の具備が要件とされないという考え方について,これを採用できるか否かについては解釈に委ねられるのだということが議事録の中で確認されております。

したがいまして,こういう考え方を必ずしも排斥しているわけではないのだろうと。そうすると,著作権等に係る独占的ライセンスに基づく差止請求権において,対抗力を備えていない独占的ライセンシーが,不法利用者に対して差止請求を行うことを認めるとしたとしても,民法605条の4の規定における考え方と整合しないというわけではないと考えられるかと思っております。

また,ベータ,侵害の予防請求のところですけれども,こちらは民法605条の4の立法時の議論においては,賃借権に基づく妨害予防請求権については,これを認める判例がないと。また,債権である賃借権に基づいて物件的な請求権を認められるのは,あくまで例外的なものだということが理由で,妨害予防請求権までは認めないと指摘されているところです。

しかしながら,今回の議論との関係で言いますと,判例がないという点につきましては,そもそも独占的ライセンシーの差止請求権というものは解釈によっても従前認められていなかったところでありますので,侵害の予防請求を独占的ライセンシーに認めてよいか否かという点について,判例がないという点が何らかこの判断に示唆を与えるものではなく,これが立法措置により独占的ライセンシーに侵害予防請求を認めるか否かの判断には影響しないのではないかと。

また,賃借権が債権であることという点が理由として挙げられていますけれども,これは民法においても債権であることから論理必然的に妨害予防請求権を否定するという趣旨ではないのかと。また,さらに先ほど述べましたように,不動産賃借権の侵害行為と独占的ライセンスの侵害行為には一定の違いがあると思いますので,独占的ライセンスの侵害行為において分かるように,侵害の予防請求を類型的に認める必要性が高いような場合にまで,侵害予防請求を認めることを否定する趣旨でもないのかと考えております。

したがいまして,アルファ,ベータ,いずれも認めるという前提で制度設計をしたとしても,民法605条の4の規定における考え方とは必ずしも齟齬しないものと考えております。

以上の考え方について,御意見をいただければと思っております。

最後に米印のところになお書きで書いていますけれども,調査研究でも議論をされているところでありますけれども,アルファ,ベータ,いずれも認める前提で制度設計をするといった場合でも,民法605条の4の規定ぶりとは異なる規定ぶりで規定することが可能かといった点については,別途,法制的な観点からの検討が必要だろうとは考えております。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,ただいま事務局より説明いただきました内容に関しまして,御意見,御質問等ございましたら,お願いいたします。いかがでしょうか。

大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】今まで申し上げているところで結論は分かりますが,要するに,これはもともとアルファ,ベータ両方とも肯定すべきだと思いますし,いずれについても,民法と抵触するとも思いませんので,アルファのほうは特に要らないかと思いますが,ベータのほうについても,これを見ると判例がないからいろいろ,議論は民法の改正の時にあったかと思いますが,大元の差止請求自体はなくても認めているなどというところで大きく違っています。先ほど申し上げたように,有体物と無体物という極めて大きな違いがあって,それにも関係して,特に著作権で言えば,予防請求権が落ちた瞬間にほぼ画餅に帰してしまいます。民法の場合なら,予防の必要性が,有体物の場合はさほどないからあまり入っていなかったかと思います。コアな部分だけ立法して,あとは判例学説に委ねた感じですが,著作権の場合には,むしろ予防こそが中核になるので,そこが落ちてしまったら,排他権としても差止請求権としても無になってしまいます。ここにあるとおり,有意な差がもともとあるので民法の規定に合わせる必要はないと思います。

もう一つ,蛇足的に申し上げると,よく考えると,ドイツの場合には物権的請求権が民法上ありますが,日本の場合は物権的請求権は,民法上,なくても認めているぐらいなので,そのような意味ではもともと物権的請求権がない民法と,それから差止請求権が法定上明確に書かれている著作権法と違っていても,別に民法に合わせて規定を落とせということはありません。有体物と無体物の違いなど本質的な違いがありますので,そのような意味で言うと,一番上のところでも民法と著作権法と規定が違っていて,有意な差を説明できるので,ここだけ気にして民法に合わせる必要もないし,さっとこれを見る感じでは,物すごくはっきりと区別できて,こちらのほうで予防についても認めても何ら民法605条の4と不整合を起こすことはないから,安心してこれは進められるのではないかと思います。

【龍村座長】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。よろしいですか。では,この点につきましては,ありがとうございました。先に進みたいと思います。

続いて,4,完全独占ライセンスと不完全独占的ライセンスを区別すべきか,資料9ページないし10ページに関して,事務局より説明をお願いいたします。

【高藤著作権調査官】資料2の10ページ目の4ポツのところですけれども,完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスを区別すべきか,といった点ですけれども,(1)の問題の所在に書いていますとおり,独占的ライセンスに基づく差止請求権が認められるとしても,完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスとで差止請求権が認められる範囲に違いがあるかについて確認したいと考えております。

完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスの違いですけれども,注18に書いておりますけれども,完全独占的ライセンスについては,ライセンサーが当該ライセンス契約で付与したライセンスの範囲と重複するライセンスを他の者には付与しないという内容の合意に加えて,ライセンサー自身も当該ライセンスの範囲では著作物を利用しないという合意がなされているものを指します。

一方で,不完全独占的ライセンスについては,ライセンサーが当該ライセンス契約で付与したライセンスの範囲と重複するライセンスを他の者には付与しないという合意はなされているけれども,ライセンサー自身が使わないといったことまでは合意されていないといったライセンスを想定しております。

10ページ目の(2)の従前の議論のところですけれども,独占的ライセンスに基づく差止請求権につきまして,完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスを区別すべきか,といった点については,四角に書いておりますとおり,まず第一に,不完全独占的ライセンスでは,完全独占的ライセンスと異なり,著作権者自身の利用は禁じられないと。したがいまして,不完全独占的ライセンシーは完全独占的ライセンシーとは異なり,その対抗力を備えたとしても著作権を譲り受けた者に対して差止請求をすることはできないと。

第二に,独占的ライセンシーと非独占的ライセンシーに対しては,不完全独占的ライセンシーも完全独占的ライセンシーと同じように対抗力を備えた場合には,差止請求をすることができると。

第三に,不完全独占的ライセンシーも完全独占的ライセンシーと同じように,不法利用者に対して差止請求をすることができると見るべきであるとまとめられております。

したがいまして,10ページ目の一番下,「つまり」のところですけれども,完全独占的ライセンシーと不完全独占的ライセンシーでは,著作権の譲受人に対して差止請求をすることができるかどうかという点を除いて,差止請求権が認められる範囲に違いはないのではないかという整理がされております。

そこで,11ページ目,(3)の論点のところですけれども,完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスでは,調査研究においてまとめられていますとおり,著作権の譲受人に対して差止請求をすることができるかどうかを除いて,差止請求権が認められる範囲に違いはないと考えてよいのかといった点について,御意見をいただければと考えております。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。10ページから11ページでした。

それでは,事務局より説明いただきました内容に関し,御意見,御質問等ございましたら,お願いいたします。澤田委員,お願いいたします。

【澤田委員】ありがとうございます。今ご説明いただいた整理は,完全独占ライセンスと不完全独占ライセンスと2つのメニューを用意した場合に,その違いはどうなるかという点についての整理で,要するに不完全独占ライセンスは対著作権者の部分については,穴が空いているということだと思いますが,そういうメニューを用意する場合には,書いていただいた整理でよろしいかと思います。

ただ,そもそも不完全独占ライセンスというメニューを用意する必要があるのかという点については少し疑問を持っております。制度としては,完全独占ライセンスのみをメニューとして用意しておいて,不完全独占ライセンスと同じことを実現したい場合には,独占的ライセンシーから著作権者に対して利用権を付与してライセンスバックするという形で対応するという整理でもよいのではないか,と思っております。この場合と不完全独占ライセンスというメニューを用意する場合の違いとしては,ライセンスに基づく利用権は,ライセンサーに無断で譲渡することができませんので,譲受人に利用権を譲渡するには独占的ライセンシーの承諾が必要となり,この承諾をしない限り独占的ライセンシーは譲受人に対して差止請求権を行使できることになるという点があります。この点については,不完全独占ライセンスというメニューを用意する場合と同様の状態,つまり,著作権を持っている者には独占ライセンシーは差止請求権を行使できないという状態を実現したいということであれば,あらかじめ独占的ライセンス契約において,著作権の移転とともに行われる利用権の譲渡について包括的に承諾させるなどの手当ては可能だと思います。そのため,個人的には,具体的な制度設計に当たって,必ずしも不完全独占ライセンスというメニューを用意する必要はないのではないかと思っております。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

【龍村座長】大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】まず,差がないかと,本体自体はおっしゃるとおり単純な話で,要するに,完全と不完全というのは完全性のところで,自分も利用できなくなるかという部分が違うだけだから,それが反映されて,そこの部分が効いてくるのがこの差なので,これは書かれたとおりでいいかと思います。今,言われた点については今までこれのイメージが,出版権を想定すると完全のほうかもしれませんけど,今までの定義はあまり完全とは言ってこずに,要するに排他的ライセンスで,他にライセンスを出さないかどうかというところだけに注目していました。その図式から言うと,まさしく独占的ライセンスというのが今まで我々がずっと議論してきたもので,ライセンスは出すけれども,ライセンサーは他に出してはいけませんという,まさしく独占性,排他性のついたライセンスで,完全独占性は,それにプラス完全です。先ほどの御意見は実体に鑑みてか,大原則は完全独占的ライセンスだけを作って,それが嫌な人はライセンスバックすればよいというのは,ニーズから言えばそうかもしれませんが,今までの議論があまりそのような形でしてこなかったこともあり,よく考えると,出版権とか,専用実施権というのは完全独占的ライセンスに対応するものなのですが,今までここで議論してきたのは独占的ライセンスで,それにプラスして完全までくっつけたものがこれなので,今までの発想はワンメニューしか提供しないというよりは,完全のことは後から考えて,独占的ライセンスというメニューを1つ要求しようかと思ってずっと来ているので,にわかに完全1個と言われると,調べてみたらよいのかもしれませんが,突然そう言われても,メニューを2つ用意しているというよりは,今までは独占的ライセンスがあったら,それに付款をつけたらこうなるんでしょうということなので,そこのところはもう少し議論が必要かと思います。

【龍村座長】ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。奥邨委員,お願いいたします。

【奥邨委員】分かりました。今の御意見と関係するのかもしれないんですが,私が理解できていないだけなのかもしれないんですが,この書き方を前提とすると,完全独占的ライセンシーは,譲受人に対して差止請求ができるということでよろしいんでしょうか。「不完全は」と書いてあるんですけども,とすると,裏返すと完全独占的ライセンシーであれば,譲受人に対して差止請求ができるということでよろしいんでしょうか。

今,大渕委員がおっしゃったように,独占ライセンスという中身を他人に出さないということだけだと整理をしてきたということだとすると,著作権者が云々というところは,これは譲受人のほうはライセンスを出す,出さないの問題ではなくなるんですけど,どういう整理になるのかと。完全の場合に独占ライセンシーが差止請求をできるとするならば,どういう整理で説明をするのかというのがよく分からなくて,できるのかできないのか,それで,できるとするならば     ということなので,それは,ほかのことは   はできないのかと,私の中で十分理解できていませんで,ここで仮に整理するとした場合,独占のほうはどうするんだろうというのは,少し思ったんですけど,そこはどのように……。

【龍村座長】ありがとうございます。では,今の点は事務局からお答えいたします。

【高藤著作権調査官】調査研究のほうでは不完全独占的ライセンシーは完全独占的ライセンシーとは異なりと書いて,対抗力を備えたとしても譲受人に対しては差止めできないと書いておりまして,裏返すと,完全独占的ライセンシーについては,著作権の譲受人に対して差止請求権ができるということと理解はしております。

事務局としましても,完全独占的ライセンシーについては,著作権の譲受人に対しても差止めできるという理解の前提で,この論点をお出ししていたところではございます。

【龍村座長】よろしいでしょうか。では,水津委員,お願いいたします。

【水津委員】奥邨先生の御疑問は,前回議論した独占性の意味と関わっているように思います。独占性について,これを他人の利用を排除するという意味で広く理解するならば,対抗力を備えた完全独占的ライセンシーは,著作権等の譲受人に対しても,差止請求をすることができることとなりそうです。いずれにせよ,独占性の意味をどのように理解するのかによるのではないかと思います。

【龍村座長】ありがとうございます。奥邨委員,よろしいですか。

では,この点につきましてはよろしいでしょうか。ありがとうございます。

それでは,進行についてですけれども,時間が大分押しまして残り時間が少なくなりました。落ち着いて議論するために,以降の論点は次回に回したいと思います。

そうしますと,本日のまとめたところで,何か御意見があれば伺いたいと思います。水津委員,どうぞ。

【水津委員】民法605条の4の規定について,補足してもよろしいでしょうか。

【龍村座長】水津委員,どうぞ。

【水津委員】民法でも,学説では,不法占拠者に対しては,不動産賃貸借の対抗要件を備えていなくても,妨害排除や返還を請求することができると考えるほうが,一般的な気がします。また,物権的請求権や占有訴権と異なり,妨害排除と返還を認めるものの,妨害予防は認めないということを正当化するのは,難しいように思います。不動産賃借権が債権であるということは,理由にならないでしょう。しかし,これまでの判例法理を踏まえるなどの観点から,民法605条の4の規定は,現在の文言になっているものと理解することができます。つまり,民法の観点からも,同条の規定の仕方は,不十分ないし不適切なものと考えられます。

そのため,著作権法と民法とは異なるから,著作権法では,違った規定を設けるといわれると,民法でも,違った規定を設けて欲しかったといいたくなります。他方,それにもかかわらず,民法では,民法605条の4の規定の仕方が選択されています。そうであるとすると,著作権法において,民法のような規定の仕方を選択する理由があるかどうかという問題についても,議論をしたほうがよいのではないかと思いました。

【龍村座長】ありがとうございます。その他,よろしいでしょうか。

【龍村座長】大渕委員,どうぞ。

【大渕座長代理】今の点につきまして,悩みを言っていただきましてありがとうございました。恐らく民法のほうでは悩んだ上で,条文上は規定しないけれども,解釈適用で委ねるということかと思います。民法はそれで一応,仕切りがついたかと思うのですが,著作権のほうで,先ほど言ったような予防が解釈適用に委ねられるということになると,関係者に対する不安感や混乱が大変なことになります。そこのところは,民法では解釈適用に委ねるのでもよかったからそうなったのでしょうが,著作権のほうはそういうわけにはいかないのではないかと思います。著作権法は民法と比べると比較的新しい法律でもあり,条文どおり解釈するという意識が強いものですから,条文から「予防」が落ちると必ず予防請求は提供できないという議論が出てきます。解釈適用に委ねるという民法型の処理は,民法には当てはまったかと思うのですが,新しい著作権法というか,制定法主義が強い著作権法ではそれは困りますので,そこのところは,先ほどから出ていますように,両法の実質の違いを十分御理解いただいた上で,中身だけではなくて規定の上でもきちんと著作権法上,混乱のないような規定になるように,強く希望したいと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。では,よろしいでしょうか。本日はこのくらいとさせていただきたいと思います。

最後に,事務局から連絡事項がございましたら,お願いいたします。

【高藤著作権調査官】本日は活発な御議論ありがとうございました。次回のワーキングチームにつきましては,既に日程調整させていただいておりますけれども,11月13日金曜日,13時からの開催を予定しております。

次回も基本的にはウェブ開催を想定しておりますが,また,詳細につきましては確定次第,御連絡いたします。

【龍村座長】それでは,本日はこれで第2回ワーキングチームを終わらせていただきます。本日はありがとうございました。

――了――

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