文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第2回)

日時:令和2年12月4日(金)

13:00~15:00

場所:AP虎ノ門 D室

議事

1開会

2議事

  • (1)図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)について
  • (2)その他

3閉会

配布資料

資料
図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する報告書
(令和2年11月13日 図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム)
(1.23MB)
参考資料1
文化審議会関係法令等(260KB)
参考資料2
第20期文化審議会著作権分科会法制度小委員会委員名簿(135.6KB)
参考資料3
ワーキングチームの設置について(令和2年7月29日 文化審議会著作権分科会法制度小委員会決定)(90.5KB)

議事内容

【茶園主査】では,時間になりましたので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第2回)を開催いたします。本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

本日は,新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため,基本的に委員の皆様には,Web会議システムを利用して御参加いただいております。

また,議事(1)に関しましては,図書館ワーキングチームの委員の皆様にも陪席いただいております。

皆様におかれましては,ビデオをオンにしていただくとともに,御発言いただく際には,自分でミュートを解除して御発言いただくか,あるいは事務局でミュートを解除いたしますので,ビデオの前で大きく手を挙げていただきますよう,お願いいたします。

議事に入る前に,本日の会議の公開につきまして確認いたします。予定されている議事の内容を参照いたしますと,特段,非公開とするには及ばないと思いますので,既に傍聴者の方には入場いただいているところですけれども,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【茶園主査】ありがとうございます。では,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。

傍聴される方々におかれましては,会議の内容を録音・録画することは御遠慮くださいますようにお願いいたします。

では,まず事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】それでは,お手元の議事次第に記載の配付資料の一覧を御覧いただきたいと思います。本日お配りしている資料は1点のみでございます。11月13日にワーキングチームで取りまとめいただいた報告書をそのままお配りしております。付属資料を含めて全体で35ページまでございますので,不備などございましたらお伝えいただきたいと思います。また,参考資料として,関係法令,委員名簿,ワーキングチームの設置紙をお配りしているところでございます。

【茶園主査】よろしいでしょうか。それでは,議事に入りますけれども,初めに,議事の進め方について確認しておきたいと思います。

本日の議事は,(1)図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)について,(2)その他の2点となります。

では,早速議事に入りたいと思います。

まず議事の1番目,議事(1)図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)についてです。

去る11月13日に,図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチームにおきまして,図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク化)に関する報告書が取りまとめられました。

まず,本ワーキングチームの座長であります上野委員から,その概要を御報告いただいた上で,事務局から補足説明していただきたいと思います。

では,よろしくお願いいたします。

【上野委員】上野でございます。図書館関係の権利制限規定の見直しに関しまして,ワーキングチームでの検討を行いましたので,その状況を御報告させていただきます。

このワーキングチームは,新型コロナウイルス感染症の流行に伴う図書館の休館等によりまして,インターネットを通じた図書館資料へのアクセスに関するニーズが顕在化したことを踏まえまして,図書館関係の権利制限規定の見直しについて,集中的に議論を進めてきた次第でございます。

8月下旬以降,非常に短期間ではございましたけれども,幅広い関係者の方からのヒアリングを行いまして,計5回にわたる議論を経て,11月13日にワーキングとしての報告書が取りまとめられております。

報告書は御覧のとおりでございますけれども,権利者の利益保護について十分に配慮しつつ,国民の情報アクセスを充実させる観点から,1つ目に,入手困難資料へのアクセスの容易化,すなわち現状ですと31条3項の関係でございますけれども,2つ目に,図書館資料の送信サービスの実施,すなわち現状では31条1項1号の関係でございますけれども,この2点の課題につきまして,対応の方向性や具体的な制度設計等をお示ししたものになっております。

具体的な内容につきましては,事務局から追加的に御説明をお願いしたいと存じます。

【大野著作権課長補佐】それでは,お手元の資料に基づきまして,報告書の内容について御説明を差し上げたいと思います。

まず1ページ目,第1章におきましては,問題の所在と検討の経緯について記載しております。皆様,御案内のとおりかと思いますけれども,図書館関係の権利制限については,従来からデジタル・ネットワーク対応が不十分という御指摘もあったところ,今般の新型コロナの流行を受けまして,インターネットを通じた資料へのアクセスのニーズがより顕在化しております。

これを踏まえて,知財計画2020におきましても,この課題が短期的に結論を得るべきものとして明記されたことから,早急に対応を進める必要がございます。こうしたことから先ほど上野委員から御紹介のあったとおり,ワーキングチームで検討を重ねていただいて,この報告書がまとまったという経緯でございます。

内容については,2ページ目以降でございます。第2章,検討結果ということで,2つの課題に分けて検討結果を記載しております。

第1節では,入手困難資料へのアクセスの容易化(法第31条第3項関係)についての検討結果を記載しております。

まず1ポツでは,現行制度と課題を整理しております。(1)現行規定にございますとおり,この31条3項におきましては,国会図書館でデジタル化された「絶版等資料」を国会図書館から他の図書館等に送信し,その図書館等の館内での閲覧などが可能になっております。

これを受けまして,(2)運用実態にございますとおり,国会図書館では,「図書館向けデジタル化資料送信サービス」という名称で,約149万点の資料が1,200あまりの承認図書館で閲覧することができるようになっております。また,その一部分の複写サービスも実施されているところでございます。

さらにこの運用に関しましては,関係者間の協議会において合意事項が定められておりまして,将来の電子出版市場への影響,権利者の利益保護にも配慮した形のルールが定められてございます。

その例として3ページに送信対象資料の範囲や除外手続等の概要を記載しております。

まずマル1にありますように,送信対象とする資料は,流通在庫がなく,かつ商業的に電子配信されていないなど,一般に購入が困難である資料とすることとされております。オンデマンド出版,電子書籍として流通している資料は入手可能として送信対象としないことになっております。

その上で,マル2にありますように,まず,様々ある資料の中から,「図書・雑誌・博士論文」を送信対象候補としつつ,その中でも,漫画,商業雑誌,出版されている博士論文などは,取扱いを留保・除外する,すなわち送信しないという扱いが決まっております。

さらに,こうして送信対象候補とされた資料の中から実際に送信する資料を絞り込むために,国会図書館による入手可能性調査,事前除外手続,事後除外手続という3段階の手続を経て,実際に送信する資料が決まっております。事前除外,事後除外の手続におきまして,出版社等から除外の申出があった場合には,この(ア)から(エ)までに掲げる事項のどれかに該当すれば除外を行うという取扱いがなされているところでございます。

次に,(3)課題・要望でございます。現行制度上,データの送信先が図書館等に限定されておりますので,各家庭などからの閲覧ができないという課題がございます。このため2つ目の段落に記載のように,感染症対策等のために図書館等が休館している,病気や障害等によって図書館まで足を運べない,そもそも近隣図書館がない,こうした理由で物理的に図書館等へのアクセスができない場合には資料自体が見られないという課題が生じているところでございます。こうしたことから,国会図書館に対しては,デジタル化資料のインターネット公開等を求める要望も寄せられていると聞いております。

続きまして,4ページに参りまして,「図書館休館対策プロジェクト」というものがございます。注釈2に記載しておりますが,今般の新型コロナの流行を受けまして,研究活動が困難になっているという問題意識の下,若手研究者の方々の有志で形成された組織でございます。このプロジェクトが研究者等を対象にした緊急アンケートを実施されておりまして,その中では75.7%が国会図書館のデジタル化資料の公開範囲拡大を望むと回答するなど,ニーズが極めて高い状況にあることが報告されております。

こうした状況を踏まえまして,国会図書館のほか,日本図書館協会,国公私立大学図書館協力委員会などからも制度改正の要望がなされているということでございます。 これを受けて,2ポツの対応の方向性でございますが,3行目辺りから記載のとおり,権利者の利益を不当に害しないことを前提に,国会図書館が一定の条件の下で,絶版等資料のデータを各家庭等にインターネット送信を可能とすることとしております。

なお,次の段落に記載のとおり,平成24年当時の議論におきましても,最終的には各家庭等での閲覧を可能とすることが目標にされておりましたので,今回の内容はその流れに沿ったものだということも記載しております。

続いて,5ページ目以降が,3ポツ,制度設計等という部分でございます。

まず(1)では,補償金の取扱い含めた全体の方向性について記載しております。ワーキングチームでは,送信先を各家庭等に拡大することに伴って補償金を課すかどうか,また,補償金を課すとすれば,送信対象資料の範囲を拡大することや,データのダウンロードを認めることなど,現状よりも利便性を高められるのではないかという問題意識の下,議論がなされてきたところでございます。

結論としましては,マル2に記載しておりますけれども,送信対象資料の範囲などについては,現行の厳格な運用を尊重しつつ,送信先を各家庭等に拡大し,補償金制度は導入しないということで認識が一致しております。現状の運用は固く守った上で,補償金制度は導入せずに進めるという扱いになっております。

他方で,次の段落にありますように,将来的には,サービスの利便性を高めながら,併せて補償金制度を導入するという方向を目指すべきという御意見も複数示されておりますので,そういった可能性については,継続的に議論を行うことが望まれる旨を付記しております。

次の6ページから7ページにかけましては,ワーキングチームで補償金の要否を考える際に,念頭に置いていただいた視点を記載しておりますが,時間の関係で説明は割愛させていただきます。

次に,7ページの(2)では「絶版等資料」の扱いについて記載しております。

まずマル1では,用語・呼称をどうするかという点について記載しております。法律の定義上は,この「絶版等資料」というのは,「絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料」と定義されております。絶版はあくまで例示にすぎず,実際に権利制限の対象になるかどうかは,一般に入手することが困難かどうかで決まってくるという仕組みになっております。このため「絶版等資料」という呼称が何か実際的な問題を引き起こしているわけではありません。

ただし,絶版という概念は,関係者によって捉え方に差があるということもありますし,最近ですと,紙の書籍が販売されているかどうかにかかわらず,電子出版,オンデマンド出版などで流通しているということもありまして,絶版という用語をあまり強調する用語を用いると,誤解・混乱が生じることも想定されます。このため,この報告書では,権利制限の対象となる資料について,便宜上,「入手困難資料」と呼称することにしまして,内実と用語がずれないように取扱いを整理しております。なお,法律上の定義まで改めるどうかどうかにつきましては,内容面の取扱いを踏まえて検討する必要があるとされております。

続いて,8ページに参りまして,この入手困難資料の内容・外延をどのようにしていくかという点でございます。

まずローマ数字1では,現行規定の解釈・運用等について記載しております。先ほど申し上げましたとおり,権利制限の対象になるかどうかというのは,現に「一般に入手することが困難」かどうかで決まってくることになっております。このため,少し具体化しますと,(ア)から(オ)まで記載しているような取扱いになります。

(ア)では,紙の書籍が絶版であったとしても,電子出版などで円滑な流通が確保されている場合には権利制限の対象にならないこと,一方で,(イ)では,絶版でなくても,在庫がなくて,電子出版やオンデマンド出版もされていないなどの場合には権利制限の対象となり得るということを記載しております。また,(ウ)のように,そもそも絶版という概念が存在しない種類の資料や,最初からごく小部数しか発行されていないような資料についても,現に一般に入手困難であれば権利制限の対象になります。また,(エ)のように,将来的に再版等の構想があったとしても,それが現実化していない場合には権利制限の対象になります。他方で,(オ)に記載のように,単に値段が高くて購入が困難であることや,入手のための手続に一定の時間がかかるといったことは,権利制限の対象となるかどうかに影響を与えないということでございます。

この点,2段落目では,現行の国会図書館における運用について言及しております。先ほど紹介したように,留保・除外として一定の資料を類型的に除外するという取扱いがされておりますけれども,これは法律の解釈というよりは当事者間における運用の配慮として,権利者の利益保護の観点から独自に定められたルールであると考えられる旨を記載しております。

これを踏まえまして,今後,家庭等に送信するに当たって,資料をどのように取り扱っていくかという点に関して,下の段落に関係者の意見を記載しております。図書館関係者からは,現状の図書館送信よりも送信対象の範囲が縮小することには反対するなどの意見が示されております。他方,出版社・権利者団体からは,各家庭等まで送信できるようにするということになると影響が大きいため,現行の運用を維持,尊重,さらに厳格化すべきといった御意見をいただいているところでございます。

これを受けて,実際の対応方針を9ページ目のローマ数字2のところで記載しております。

まずマル1のように,送信先が広がることに伴って,権利者への影響が一定程度大きくなること,また,マル2の記載のように,今回の見直しの主眼は,現状で図書館等に行けば閲覧できるけれども,各家庭等からは閲覧できないという課題に対応することにあることを踏まえると,少なくとも各家庭等まで送信する資料については,現行の運用よりも対象範囲を広げることには慎重である必要があるだろうということでございます。この点,法令において一定の担保を行うことも含めて検討を行う必要があるとされております。

他方で,各家庭等まで送るのではなくて,図書館等に送る資料につきましては,現行の運用を厳格に維持するか否かについて,別途検討を行う余地もあるとされております。すなわち,各家庭等まで送る資料と図書館等に送る資料には差があってもいいという考え方が記載がされております。

いずれにしましても,こうした具体的な運用につきましては,現在と同じように,国会図書館と出版社・権利者等を中心に議論が行われるべきであるとしております。ただ,本件は,国民全体の情報アクセス,権利者全体の利益にも関わる事柄であることから,協議の場には,当事者だけではなく,関係府省,研究者・弁護士など,中立的な第三者も参画するのが望ましいということも記載がされております。

次に,中古本市場との関係につきましても,ワーキングチームでは議論をいただいております。これは新刊本が入手できなくても,中古本がインターネット上で入手できるという場合も増えてきておりまして,このことと,入手困難資料の定義がどのような関係にあるかという論点でございます。

結論としては,権利制限の対象とする入手困難資料に該当するかどうかを判断するに当たって,中古本の流通状況は考慮せず,新刊本が入手困難であれば権利制限の対象として良いということで認識が一致しております。その理由は(ア)から(ウ)に記載のとおりでございます。

まず(ア)は,当事者間の合意に基づく現行の運用においても,中古本の流通状況は考慮されていないこと,逆に言いますと,今回,中古本が流通している場合に,権利制限から除外するということになると,多くの資料が送信できなくなり,サービスが低下するということでございまして,国会図書館からも懸念が示されております。

次に,10ページの(イ)に記載のとおり,中古本の流通によって権利者に対価が還元されることはないため,権利者の利益保護の観点からの考慮は求められない,すなわち,権利制限を行う許容性が高いだろうということがございます。また,(ウ)に記載のとおり,中古本については,新刊本と比較すると,同じレベルの入手容易性が確保されているとは言いがたいため,権利制限を行う必要性も認められるだろうということでございます。

以上から,法律上は,中古本が流通しているかにかかわらず,権利制限の対象にするという整理になっておりますが,なお書きで記載のとおり,運用の議論に当たっては,古書店の有する社会的役割等に鑑み,中古本市場との関係を考慮することは妨げないという旨も確認的に記載されております。

次に,(3)送信の形態でございます。まずマル1,閲覧者の範囲・手続に関しましては,特定の属性を有する人だけが閲覧できるという仕組みは望ましくない一方で,権利者の利益保護の観点から,ID・パスワードなどによる管理を行う必要があるということで認識が一致しております。その場合には,事前に利用者に利用規約などへの同意を求めて,不正な利用を防止することが想定されるところでございます。

次に,マル2が複製の可否でございます。これはストリーミングだけを認めるのか,プリントアウト,ダウンロードまで認めるかという論点でございます。この点,ワーキングでは様々御意見がありましたが,マル1のように,ストリーミングだけでは利便性の観点から問題があること,また,マル2のように,紙媒体でのプリントアウトであれば,データの不正拡散等の懸念も少ないため,利便性確保のために認めていくべきであること,この点について認識が一致しております。

他方で,プリントアウトを認める際の分量につきましては,全部のプリントアウトを認めるべきという御意見のほか,一部分に限定すべきという御意見もございました。また,11ページにありますように,データのダウンロードにつきましても,分量を限定したり,コピーガードをかけるなどによって可能とすることが望ましいという御意見もあったところでございます。

なお,現行規定上,絶版等資料,入手困難資料については,一部分のコピーが図書館で受け取れるという仕組みになっておりますが,仮に今回,全部のプリントアウト認める場合には,図書館等でのコピーサービスについてもバランスととって全部複製を可能とすべきであるということも記載されております。

いずれにしましても,具体的な送信の形態などにつきましては,国会図書館におけるシステム上の実行性などを踏まえながら対応を進める必要があることなどから,法律に直接書き込むというよりは,政省令,ガイドラインなどで具体的な取扱いを定めることが望ましいとされております。

次に,(4)が受信者側での複製の取扱いでございます。何らか複製が可能な形態で送信を行うことになりますと,必然的に受信者が手元で複製するという行為が伴うことになります。この点,私的使用など,現行の権利制限でカバーされる部分もありますけれども,営業目的での複製など,カバーできない部分もあるところ,自ら閲覧するために複製する限りにおいては,権利者の利益を不当に害することもないため,別途,権利制限の対象に含めるべきということになっております。

それから,(5)が公の伝達権の制限についてでございます。現状でも,国会図書館から図書館等に送信がされ,そこで公の伝達が行われておりますけれども,現行規定上は明示的な規定が置かれておりません。これは,現行の規定ぶりから当然に公の伝達も可能であると解されているという整理でございます。

ただ,今回,図書館等以外にも送信先が拡大することに伴って,公の伝達のニーズも高まることが想定されますし,また,規定ぶりも現行とは異なることとなり,解釈では対応し切れないことが想定されますので,別途,明示的に公の伝達権の制限を設けるべきとされております。

その際,12ページにありますように,図書館等以外の場における公の伝達も幅広く認めることとしつつ,非営利・無料で行うなどの要件を課すべきということになっております。

それから,(6)が,大学図書館・公共図書館等が保有する資料の扱いでございます。国会図書館が保有していない貴重な入手困難資料を大学図書館・公共図書館等が保有している場合もありますところ,これを一旦,国会図書館に提供した上で,国会図書館を通じてさらに全国的に展開していくという形で,国会図書館をハブとして,資料の全国的な共有を図っていくことが望ましいということを記載している部分になります。法的に可能かどうかという点については,既に平成29年の分科会報告書で整理がされておりますので,それを改めて確認するなどの記載を行っております。

なお,一番下の段落に記載しておりますけれども,美術館・博物館等の所蔵資料につきましては,国会図書館がハブとして機能することには限界もありますので,将来的には,他の機関をハブとすることについても検討が必要という記載もなされているところでございます。

以上が入手困難資料についてでございまして,13ページからが,第2節,図書館資料の送信サービスについての記載でございます。

まず1ポツでは,現行制度と課題を記載しております。(1)現行規定は,御案内のとおりでございますが,国会図書館やその他の図書館等におきましては,著作物の一部分を1人につき一部複製して提供することが可能になっております。これに基づきまして,(2)運用実態に記載のとおり,国会図書館や公共図書館,大学図書館においては,幅広く複写サービスが実施されているという実態がございます。また,(3)課題・要望でございますけれども,現行法上は可能な行為が複製と複製物の提供に限定されておりますので,ファクス,メールなどによる公衆送信ができないという課題がございます。遠隔地から資料を入手しようとしますと,現行法上でも郵送で送ってもらうことは可能ですけれども,時間的な制約があるなど,デジタル・ネットワークを活用した利用者のニーズに十分に応えられていないという面があると考えられるところでございます。

この点,14ページでございますけれども,先ほど御紹介した「図書館休館対策プロジェクト」の緊急アンケートにおきましても,回答者の73%が来館を伴わない文献の貸出しサービスの実施を望むなど,このニーズも極めて高い状況にあることが報告されております。こうした状況を踏まえまして,国立国会図書館のほか,日本図書館協会,国公私立大学図書館協力委員会,全国美術館会議,日本博物館協会などからも制度改正の御意見をいただいているところでございます。

これを受けた対応方針は2ポツで記載されております。まず,デジタル・ネットワークを活用して簡便に資料を入手できるようにするということは,コロナ禍のような予測困難な事態に対応し,時間的・地理的制約を超えた国民の「知のアクセス」を向上させ,また,研究環境のデジタル化などの観点から非常に重要であるため,可能な限り多様なニーズに応えられる仕組みを構築することが望まれるとしております。

ただし,入手困難以外の市場で流通している資料について,電子媒体等での送信がされるということになりますと,正規の市場,権利者の利益に大きな影響を与え得ることとなります。

このため,権利者の利益保護の観点から厳格な要件を設定すること,また,補償金請求権を付与すること,この2点を前提にした上で,ファクス,メールなどの送信を可能とするということになっております。その際には,きめ細かな制度設計等を行う一方で,図書館等において過度な事務負担が生じないスムーズな運用を可能にすることも重要であるとされております。

次に,15ページ目以降で,3ポツ,制度設計等について記載がされております。

まず(1)では,正規の電子出版等をはじめとする市場との関係についての整理がされております。

冒頭に記載のとおり,近年では,様々な形態での電子配信サービスが提供されておりまして,今回,図書館でのメール送信などを可能にしますと,そういった市場への影響が懸念されるところでございます。

特に2段落目にありますように,電子配信サービスにおきましては,書籍をチャプターごとなど部分単位で販売することや,過去の雑誌に掲載された記事を1記事単位で販売することも行われておりますので,現行規定の「著作物の一部分」や「発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物の全部」という要件に基づいて送信したとしても,権利者の利益を不当に害する場合が生じ得るところでございます。

また,次の段落にありますように,利便性の高い電子媒体等での送信ということになりますと,紙の出版市場等に対しても,現行の複写サービスよりも大きな影響が及び得ると考えられるところでございます。この点,ワーキングチームでヒアリングを行った出版社・権利者団体の多くからは,正規市場との競合について強い懸念が示されておりまして,一定の資料は送信対象から除外してほしいという御意見も出されております。

これを踏まえて,大きな方針としては,正規の市場を阻害することのないように,法令上,明確な担保を行うということになっております。

そのための具体的な担保措置についてはマル2に記載しております。諸外国では10%を上限とするなど,定量的な定めを設けている例もありますけれども,権利者の利益を不当に害するかどうかというのは,分量だけではなくて,送信される著作物の種類,性質,正規のサービスの実態などを総合的に勘案して判断されるものであることから,ただし書を設けまして,実態に即したきめ細かな判断を可能とするほうが望ましいとされております。

ただ,漠然としたただし書ということになりますと,明確性・予測可能性が低下するとともに,不適切な利用を招くおそれもあることから,ガイドラインを設ける必要があるとされております。そのガイドラインの作成に当たりましては,文化庁の関与の下,幅広い関係者及び中立的な第三者を交えて,具体的な解釈・運用を示す必要があるとされております。

また,その次の段落に記載のとおり,今回は,ただし書という形で歯止めを行うことにしておりますが,これは単なる一般的な安全弁にとどまらず,今回の送信サービスの実施を可能とするための前提である「正規市場との競合回避」という極めて重要な役割を果たすものであるということを十分に認識しながら,対応を行うことが重要だということも記載がされております。

次に,一部分要件の取扱いについてでございます。今回,ただし書を設けることに伴って,一部分要件をどのように考えていくかという論点でございます。ワーキングチームでは様々な御議論がございましたが,結論としては,マル1のように,明確性と柔軟性のバランス,権利者の利益保護等の観点から,直ちに一部分要件を削除することや大幅な要件変更を行うことは適当でないこと,他方で,マル2のように,現行の要件のままでは不合理な事態が生じる場合があり,一定の手当てを行う必要があることについて認識が共有されております。

不合理な事態の例としては,注釈の36に記載しております。例えば,発行後相当期間を経過している書籍に掲載された,例えば論文集の1論文ですとか,百科事典の1項目,こういったものであっても,さらに,その一部分しか利用できないという事態が生じているという御指摘がございます。こうしたことを踏まえまして,改善の方向性につきましては,本文の「これらを踏まえ」という段落の2行目辺りから記載しておりますが,「著作物の一部分」という大きな骨格は維持しながら,現行,例外が認められている「発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物」,これと同様に,権利者の利益を不当に害しないと考えられる場合には,全部の送信が認められるということを追加で規定することが考えられるとしております。

その際のイメージが注釈の37番でございます。現行規定上は,著作物の一部分という規定をしつつ,括弧書きで,こういう場合には全部の複製が可能となっているところ,その括弧書きの例外のところに,「その他○○で定める著作物」という形で追加をいたしまして,これに基づき,政省令等で特例を柔軟に追加していくことが考えられるということでございます。

17ページに行っていただきまして,「いずれにしても」と記載されておりますとおり,この一部分要件というのは現行の複写サービスにも関わるものでございますので,見直しに当たっては,複製と公衆送信と両方について,あわせて検討・措置を行う必要があるとされております。

次に,(2)が送信の形態・データの流出防止措置でございます。

まずマル1,送信の形態については,利用者のニーズや各図書館等におけるシステム・コスト面でも実現可能性などが様々であるということもございますので,柔軟な対応ができるように,ファクス,メール,ID・パスワードで管理されたサーバーへのアップロードなど,多様な形態を認めることが望ましいとされております。

なお,先ほどの入手困難資料のところでもありましたけれども,受信者が自身の手元で自ら閲覧するために複製するという行為については,権利制限の対象に含めることとすべきとされております。

次に,マル2がデータの流出防止措置でございます。今回の送信のために作成・送信されたデータが目的外で流出・拡散することが懸念されるため,,(ア)のように,図書館等においてデータの流出防止のために適切な管理を行うことと,(イ)のように,データを受信した利用者による不正な拡散を防止すること,この両面から措置を行う必要があるとされております。

具体的には,(ア)の図書館側の対応としては,データの流出防止に必要な人的・物的管理体制を構築すること,作成したデータが不要となった場合には速やかに破棄すること,(イ)の利用者側の拡散防止としては,図書館が利用者に対して著作権法の規定やデータの利用条件等を明示すること,技術的な防止措置を講じることなどが考えられるとされております。

いずれにしましても,18ページに記載のとおり,こうした具体的な措置の内容等につきましては,法律ではなく,政省令,ガイドラインなどで定めるのが望ましいとされております。

続いて,(3)が主体となる図書館等の範囲でございます。31条1項に規定する図書館等であっても,その全てで,今回の送信サービスを実施するというニーズがあるわけではありませんし,また,図書館等によって,管理体制や技術・システム,財政面等には違いがあり,全ての図書館等で今回の送信サービスを適切に運用できる担保があるとは言いがたいものと考えられるところでございます。

一方で,次の段落にありますように,特定の種別の図書館等だけを対象にするというのも適切ではないと考えられますことから,対応としては,一定の運用上の基準を設定しまして,31条1項の図書館等のうち,その基準を満たしたところは,送信サービスも併せて実施できることにすることが適当とされております。

その際の運営上の基準としては,先ほどのデータの流出防止に加えまして,補償金制度を運用する際に必要となる送信実績の記録などの事務を適切に実施できる人的・物的管理体制が構築されていることや,送信サービスを担当する職員に対して適切な研修等を実施していることなどが考えられ,こういった基準については,政省令やガイドラインで定めることが適当ということになっております。

それから(4)が補償金請求権の付与についてでございます。ただいま御説明した(1)から(3)の措置によって,一定の権利者保護が図られるわけですけれども,それでも権利者には相当程度の不利益が及ぶこととなるため,その補償のために補償金請求権を付与することが適当という考え方が記載されております。

続いて,19ページからがこの補償金の制度設計等についてでございます。

まずローマ数字1では,対象範囲について記載がされております。これは,現在無償で可能になっている「複製」まで補償金をかけるかどうかという論点でございますけれども,そこまですると,図書館利用者の利便性が低下し,国民の情報アクセスなどへの支障も懸念されますことから,補償金をかけるのは,今回新たに権利制限する「公衆送信」の部分のみという結論になっております。

なお,その際,例えば国の広報資料とか入手困難資料など,資料の性質に応じて補償金の対象から除外する著作物を設けることも考えられるとされております。

次に,ローマ数字2が補償金の徴収・分配スキームでございます。こちらは,図書館等における手続コストの軽減,権利行使の実効性確保の両面から,文化庁が指定する指定管理団体が一元的に徴収・分配を行うのが適当とされております。

その際,適切に補償金を各権利者に分配するためには,権利者側で権利情報の集約・データベースの構築等に努めるとともに,図書館等では,送信実績を正確に把握管理することが重要であるという旨も記載がされております。

ローマ数字の3は,補償金額の決定方法でございます。今回のサービスは,図書館等が行う公益性の高いものでありまして,補償金額は国民全体に関わる重要な事柄であることから,文化庁長官による認可制とすることが適当とされております。

認可制とする場合の手続といたしましては,指定管理団体が,図書館等関係者からの意見聴取を行った上で案を作成し,文化庁に申請する,それを受けて,文化庁が文化審議会に諮った上で認可の可否を判断する,こういった授業目的公衆送信補償金と同様の仕組みになると考えられるところでございます。

それから,ローマ数字4が補償金額の料金体系・水準でございます。今回の送信サービスは,(ア)に記載のように,私的録音録画補償金や授業目的公衆送信補償金とは異なりまして,図書館等において個々の送信実績を正確に把握・管理することが可能であるという特性がございます。また,(イ)に記載のように,図書館資料を本来的な用途での利用に供する行為であり,権利者に与える影響が大きいということもございます。これを踏まえまして,料金体系は包括的なものではなく,個別の送信ごとに補償金を徴収する料金体系にするとともに,補償金額の水準は,権利者の逸失利益を補填できるだけの水準とすることが適当とされております。

その際,補償金額の設定の仕方につきまして,過度に複雑化しないよう注意しつつ,著作物の種類・性質,送信する分量,利用者の属性などに応じたきめ細かな設定を行うことも考えられるとされております。

いずれにしても,この具体的な金額につきましては,法令で規定するということではなくて,先ほど申し上げたように,指定管理団体が案をつくって,文化庁長官が認可するという枠組みになると考えられるところでございます。

続いて,ローマ数字の5が補償金の受領者でございます。今回の送信サービスにおきましては,著作権者のみならず,出版権者にも大きな影響を及ぼし得るため,著作権者と出版権者の双方を補償金の受領者として位置づけることが適当とされております。

ここでいう出版権者というのは,いわゆる電子出版権を有する者,公衆送信によって権利が制限される者を意味しており,登録がされているかどうかは問わないということが付記されております。

他方で,次の段落に記載のように,今回の送信サービスによって,電子出版権ではなく紙の出版権を設定されている出版権者や,出版権が設定されていない出版社にも実質的には大きな不利益が及び得ることになりますので,そうした出版社の利益保護も図る必要があるということが記載されております。

ただ,こうした点について,直接法律で規定するということは困難であると考えられますことから,著作者と出版社がそれぞれ適正な利益を得られるように,関係者間で合理的なルールづくりを行うこととすべきというふうに整理がされております。

続いて,21ページに参りまして,ローマ数字6,支払い主体・実質的な負担者でございます。

まず法律上の支払い主体は,著作物の利用主体(送信主体)である「図書館等の設置者」とすることとされております。その場合でも,実質的には,サービス利用者に補償金の負担が転嫁される場合も多いと考えられますところ,公立図書館の無料公開の原則との関係が問題になり得るところでございます。この点,(ア)に記載のように,あくまで今回の送信サービスの付加的なサービスであり,図書館資料の閲覧・貸出という基本サービスは無料が維持されること,また,現行の複写,郵送サービスでも印刷代・郵送代は負担がされているところ,今回の補償金もそれと同様に実費というふうにも捉えられますことから,特段の問題は生じないだろうと整理がされております。

それから,(5)がその他の論点でございまして,まずマル1,サービス利用者の登録につきましては,不適切な行為を防止する観点から,あらかじめ図書館等において利用条件などを明示した上で,それに同意したものを登録し,登録した者を対象として送信サービスを実施すべきであるとされております。

それから,マル2,脱法行為の防止につきましては,権利者団体から,複数回に分けて申請して全文を取得するといった脱法行為の懸念も示されておりますので,同一の者から同一の資料についての送信の請求があったという場合には,図書館等が慎重に精査を行うべきとされております。

それから,マル3,契約上の義務との関係でございます。図書館等が直接契約に基づいて,様々なデータの提供を受けている場合に,その際の契約で,公衆送信不可などの利用条件等が定められている場合があります。こうした場合には,基本的に,「契約上の義務」として,その利用条件等には従う必要があるという考え方が整理されております。

最後に,22ページでございますが,第3章として,全体のまとめを記載しております。

まず1段落目のとおり,第2章に記載された検討結果に基づいて,政府において早急に法整備等の対応がなされることを期待するという旨が記載されております。他方で,2段落目にあるように,図書館関係の権利制限に関しましては,ここで結論が出たもののほか,まだ多岐にわたる課題が残されておりますので,引き続き幅広い関係者の意見を丁寧に聞きながら検討を継続する必要があるとされております。

特に3段落目では,小・中・高の学校図書館を31条の対象となる「図書館等」に追加するか否かについて言及がされております。昨今,アクティブラーニングなど,授業の形態が変化する中で,学校図書館におけるニーズも高まっているものと考えられますところ,ワーキングチームの議論においては,学校図書館を 図書館等」として追加すべきという御意見が大勢でございました。

一方で,この点に関しては,関係団体間で若干認識の齟齬もあると聞いておりまして,現在,関係団体間で意見の調整・協議が行われるところでございます。このため,政府において,その協議の状況を見ながら,学校図書館に期待される役割等を十分に勘案の上,早急に適切な対応がなされることを期待するという形で整理がされているところでございます。

本文は以上でございまして,23ページ目以降では,付属資料として,参照条文や委員の名簿,審議経過などをおつけしております。少し長くなりましたが,事務局からは以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

今,説明いただきましたワーキングチーム報告書につきましては,本日,御意見をいただいて,内容について御了解いただきました場合には,本小委員会における中間まとめとして取りまとめの上,パブリックコメントを実施することを予定しております。

それでは,報告書の内容等につきまして,御質問,御意見等がございましたらお願いいたします。何かございますでしょうか。

法制度小委員会に参加されている委員の皆様の中には,この図書館ワーキングチームのチーム委員も務めていただいた方もおられますが,そうでない方はもちろん,チーム委員であった方でも御質問,御意見等がございましたらお願いいたします。

では,今村委員。

【今村委員】非常に短期間の間に,精密に報告書をまとめていただいて,何か特に気になる点もなく,この案でいいというふうに考えてはいるんですけれども,1点だけ,17ページ目の送信の形態についてなんですが,受信者側の複製について,利便性ということを考えるとなるべく利用がしやすい形で送信していただいたほうが,調査研究といっても,単に読むだけではなくて,データとして利用するというようなことも現在では多々あると思います。その点に関しては,脚注の40で,技術的防止措置を講じるとか,そういった点も意見があったということで,慎重に検討された部分であるということはよく分かります。

ただ,せっかく調査研究で取り寄せたのに,使い勝手が悪いものが取り寄せられても,この改正で拡大した意味が少し損なわれます。実際の運用面で調整していく部分であるとは思うのですけれども,利便性と権利者の保護というものを支払う対価との関係で考慮するということで,何か適当な調整をしていくということも必要ではないかと思いました。一律に技術的防止手段を講じるという形で,使い勝手が悪くなるようにはしないほうが望ましいかなというふうには思います。

ただ,これは実際にどういう形で運用するかによる問題なので,その点の意見だけ述べさせていただきたいと思います。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

ほかに何かございますでしょうか。では,奥邨委員,お願いします。

【奥邨委員】ありがとうございます。デジタルトランスフォーメーションが進んでいく中で,紙でしかできないというのはやはり時代の流れに合わないことだろうと思います。したがって,紙でできることがネットでも同じようにできていく,シームレスにできていくということは極めて重要なことだと思っています。世の中全体が今そういうふうに進んでいるわけですから,報告書は,それにふさわしい流れだろうと思います。

その一方で,デジタルだからこそのプラスアルファの部分があって,それが権利者の方にマイナスの大影響を与えるということであれば,その部分について補償金でバランスを取っていくというのも正しい流れかと思いますし,これは例の35条の改正で試みた方向性とも一致して,むしろこれからどんどんといろんなところで考えていくべき基本的な流れだと思って,すばらしい報告書だと思います。

1点質問と,1点コメントなんですけれども,報告書の前半では,送信対象先を「家庭等」,各家庭という言い方になっているんですね。。一方で,後半では,「利用者」ということになっているんですが,書き分けていることに意味があるのか。前半は,多分,元々が図書館に対して送信していたのが,図書館以外という意味で,「家庭等」とお使いになっているということなのか。そえとも,家庭ということに強い意味があるのか。ただ,あまり家庭というところに縛りをし過ぎると本当は意味がないので,むしろ,図書館以外というおつもりで使っておられるんだと思いますけれども,前半と後半で言葉遣いが違っております。その辺が何か特に意図がないということであれば,全体に平仄を合わせたほうがよいのではないかなと思います。

それからあと,これはさらに先のことになりますけれども,最後のコメントとしまして,やはり非常に利害調整は難しいところもあるし,いろいろと議論していただくところもあるんですけれども,一方で,世の中の流れというのもございますので,速やかな法律の改正と,その後の施行に向けて,いろいろと調整が要ると思いますけれども,できるだけ早い段階で施行されることが望ましいのではないかなと思います。

私からは以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。では,1点目の送信先の質問について。

【大野著作権課長補佐】1点目は,奥邨委員におっしゃっていただいたとおりでございまして,「各家庭等」という表現は,図書館以外の場にも幅広く送れるようにするという趣旨で記載しているものであって,何か特定の場所に限定する趣旨ではございません。このため,中間まとめにする段階で,表現全体を見直して,平仄を取っていきたいと思っております。

また,2点目の早期に施行すべきという問題意識も,事務局として共有しております。他方では色んな準備も必要になるという事情もありますので,そうした準備を円滑に進めながら,可能な限り早い施行を目指していきたいと考えております。

【茶園主査】ありがとうございました。

ほかに何かございますでしょうか。まず井奈波委員。その後に,大渕委員,お願いします。では,井奈波委員。

【井奈波委員】この問題は,図書館から送信を可能にするということで,出版ビジネスとの競合するのではないかということが非常に懸念されるところです。

そういう意味で,例えば3ページ目の入手困難な資料について,どのように制度設計していくか,20ページ目にあります補償金についてどのように制度設計していくかが重要だと思いますが,例えば入手困難資料の点に関して,3ページ目の(エ)の点では,経済的利益以外の正当な理由により送信利用の停止の要請があった場合に該当する場合には,オプトアウトを認めるということなんですけれども,そのオプトアウトとして認める範囲が狭いのではないかという感触を持ちました。

例えば,EUのデジタル単一市場指令でも同様な制度の設計があり,その中でオプトアウトできるということは定められていると思いますが,特にそういった限定はされていなかったのではないかと思います。

また,出版の場合に初版が出版されて,再版されずにそのまま絶版となっている図書も多いと思いますので,出版社の投下資本の回収ということを考えると,例えば初版から一定期間は入手困難な資料にしないというような扱いも必要なのではないかと考えました。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。今の御質問の最初のものは,この3ページでしたら,経済的利益以外の正当な理由によって,送信利用の停止の要請があった場合となっていますけれども,それよりも広い範囲でオプトアウトを認めるべきではないかと,そういう御趣旨でしょうか。

【井奈波委員】そうですね。人権侵害とか個人情報保護等という理由だけだとすると,ほとんどこれは認められないという印象を持ちました。

【茶園主査】はい。何かありますか。

【大野著作権課長補佐】この3ページに記載している内容は,法令上の取扱いというよりは,関係者間の議論に基づき,法律上は送信できるけれども,権利者・著作者への配慮として送信しない場面を運用上定めたものだという認識でございます。そういう意味で,出版社や権利者,著作者の意向も踏まえながら,関係者間でうまく整理がされた事項だと理解しておりまして,仮にこれで望ましくないという場面があるのであれば,さらに当事者で御議論いただいた上で,改めて運用を決めていくことが重要ではないかと思っております。

【茶園主査】よろしいでしょうか。では,大渕委員,お願いします。

【大渕委員】非常に詳細におまとめいただきまして,本当にありがとうございます。これは著作権法の永遠の課題なのですが,先ほど今村委員が言われたような,我々ユーザーの利便性の向上と権利者の権利保護という永遠の課題の一つの現われが今回のものだと思っています。その観点から言うと,10ページから11ページにある利用困難資料の送信はできる一方で,プリントアウトがどこまでできるのかというところについてはプリントアウトでは嫌だという人もいるので両論併記になっていますが,一つのバランスとしては,プリントアウトは認めることが考えられます。私としては,利便性の観点から言うと,せっかくプリントアウトできるのに,一部しかできないということだと,また研究などにとってマイナスになりますので,ここは大いに踏み切って,プリントアウトに留めたのだから,もう全部でよいのではないかと思います。

私の感覚では,会議のときの(ア)のほうが大勢でしたが,若干名,異議を唱える方がいらっしゃったので,両論併記になっていますが,私としては,ワーキングチームのほぼ総意としては(ア)まで認めるということであった,また,ぎりぎりのバランスで,紙へのプリントアウトに留めるのであれば,研究,その他の利用から,やはり全部でよいのではないかと思います。両論併記されているのは,今後,実際にどう運用に落とし込んでいくかということだと思います。あの場の雰囲気を,(ア)まで認めてよいという方向で実現していただくと,利用者の方は,この改正が実現してよかったと感じられるでしょうし,中途半端に(イ)で留めると,我々WTメンバーとしてはここまで頑張ったにもかかわらず,利用者の方からは,せっかくプリントアウトが可能なのに半分までしかできないのは,あまりよい改正ではなかったというマイナスのイメージを抱かれてしまいます。ここは(ア)にしたからといって,権利者にとって,それ程マイナスが大きいとも思えないので,せっかくプリントアウトできるのであれば,使い物になるような形でプリントアウトできるようにしてさしあげるのがよいのではないかと思います。

後ろのほうの,絶版資料ではなくて一般の資料についても,先ほど今村委員が言われた濫用防止は,我々ユーザーの態度にもよっています。送信を受けて,それを濫用するような人が出てきてしまうと,それを止めるために,いろいろDRMをかけなくてはいけなくなります。先ほどと同じことになりますが,せっかくこうやるのであれば,利用者が利用できてよかったという気持ちになれるようなものにしていく必要があります。ただ,一部でも濫用する人がいたら,そのような一部の心なき利用者のために善良な人までも結局,DRMをかけなくてはいけなくなりますので,その辺りは法律だけの問題ではなくて,せっかく自由を得たのであれば濫用しないようにしていただくという方策が必要であります。

もう一つ重要なのは,後半の補償金であります。これは非常に重要な補償金の役割であり,今までは補償金がついていない状態であれば,どんなに頑張っても一部分しか複製できなかったのですが,きちんとした金額を払えば,そのような不便さに煩わされることなく,全部の送信が得られるということになります。補償金というものは今まであまり日本では活用できていなかったのですが,まさしく我々利用者と権利者の両方がWin-Winに立てるような著作権法をつくっていく上では,補償金をうまく使いこなせるのかということが非常に重要な点であります。恐らく多くの人は,多少のお金を払ってでもよいサービスを受けたいと考えている中で,現状の,ただではあるが,そうよくないサービスしか受けられない1階と,多少のお金を払ってでもよいサービスを受けられる2階をうまく組み合わせたような新制度を使えるように,どなたかも言われたとおり,せっかくここまでできたのですから,細かい議論よりは,早くパブコメ等の手続を通して,きちんと法律としてつくって,かつ,実際にエンフォースしてみたら,ああ,できてよかったと思えるようなものを早く実現することが重要ですので,議論も重要なのですが,できる限り,先に進めるというところを今後重視すべきだと思っております。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ほかに何かございますでしょうか。では,前田委員。

【前田委員】ありがとうございます。今,大渕先生がおっしゃった10ページの(イ)のところなんですけれども,一部分の問題については,後に出てくる一部分要件の見直しが行われるということを前提といたしますと,プリントアウトを一部分に限定するということもあり得る選択肢の一つになるのではないかと思います。

それから,大渕先生がおっしゃった補償金の役割のお話の点についてでございますけれども,補償金があったとしても,現実に権利者側が行っているビジネスと衝突するような利用については,ただし書で許されないと理解する必要があるのではないかと思います。補償金があるから,もう何でもいいんだということにはならないのではないかと思います。

以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

では,大渕委員。

【大渕委員】前田委員がおっしゃった2番目の点につきまして,私は何度もワーキングで言うのを繰り返すのも何だと思うので,補償金の話に行く前に,まずピン留めということを申し上げました。今のところ,ただし書となっているバッティングにつきまして,立法技術の話として,ただし書というと,最後の安全弁ということで,各条項にありますが,私はむしろここでは単なるただし書ではなくて,バッティングしないことというのがむしろ積極要件だと思っているぐらいであり,そのような意味では,前田先生とは問題意識は共通しています。補償金で賄えるのは,一番最初のところで,ピン留めが済んだ後の話であります。そのような意味では,後半のほうは,ライセンス市場とバッティングしないとか,流出防止といった主要な柱の一番最後に補償金が来ています。補償金なら済むという話ではないと思っていますが,ピン留めとか流出防止の後は,今まではなかなか広げられなかったのですが,補償金をつけることによって一気に広がっているということですので,そのような意味では,前田先生のお考えとは,プリントアウトのところでは対立しているものの,後半部分は同じだと思います。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。はい。どうもありがとうございました。

活発な御議論をいただきまして,どうもありがとうございました。いただきました御意見につきましては,恐らく内容面で修正等が必要なところはないのだと思いますが,表現に関しまして,若干の修正を必要とするところがあったかと思います。そこで,若干の修正をした上で,本小委員会における中間まとめを作成したいと思っております。その修正につきましては,主査である私に御一任いただくことでよろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【茶園主査】ありがとうございます。それでは,先ほど大渕委員がおっしゃいましたように,速やかに修正して,中間まとめとして取りまとめた上で,事務局においてパブリックコメントを実施していただくことといたします。どうもありがとうございました。

議事としてはこれだけですけども,全体を通して何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。

では,他に特段ございませんでしたら,本日はこれぐらいにしたいと思います。

最後に,事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】本日も活発に御意見をいただきまして,ありがとうございました。

次回の法制度小委員会につきましては,パブリックコメントの結果がまとまった段階で改めて開催させていただきますので,引き続きよろしくお願いいたします。

【茶園主査】どうもありがとうございました。活発な御議論をいただきまして,どうもありがとうございました。

それでは,以上をもちまして,文化審議会著作権分科会法制度小委員会第2回を終了とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

── 了 ──

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