英国
CMA、英国デジタル新法に基づくグーグルの検索サービス等の調査を開始
2025年1月14日 英国競争・市場庁 公表
1 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、1月14日、同年1月1日に施行された「2024年デジタル市場・競争・消費者法」(Digital Markets, Competition and Consumers Act、以下「DMCCA」という。)に基づき、同法の規制対象となる事業者の指定に係る初の調査を開始した。この調査では、検索及び検索広告サービスにおけるグーグルの地位及び、それが消費者や企業(広告主、ニュース・パブリッシャー、検索エンジンなど)にどのような影響を与えるかを評価する。
2 DMCCAに基づいて、CMAは、特定のデジタル領域(particular digital activity)に関して戦略的市場地位(Strategic Market Status、以下「SMS」という。)を持つ事業者を指定することができる。SMSの指定要件は、以下のとおり。
・ 英国に関連するデジタル活動において、実質的かつ定着した市場力を有すること。
・ 戦略的に重要な地位を有すること。
・ 世界売上高が250億ポンド以上、又は英国の売上高が10億ポンド以上であること。
一旦SMSの指定が行われると、CMAは当該指定事業者に対して行動要件(conduct requirements)を課すか、英国の消費者・企業にとって望ましい結果をもたらすような競争促進的介入(pro-competition interventions)を導入することができる。
今回の調査では、英国のグーグルが検索及び検索広告分野においてSMSを有しているかの評価を行い、同時に、最終的な指定決定の際に行動要件を課すべきかどうかの検討を行う。
3 グーグルの革新的なサービスは、英国において大きな利益を生み出してきた。同社の検索サービスは、何百万人もの人々や企業がインターネットにアクセスし利用するためのゲートウェイ(入り口)となっている。英国では、グーグルが一般検索の90%以上の利用シェアを占めており、また、20万社以上の広告主がグーグルの検索広告を利用している。検索は経済成長にとって不可欠であり、検索は、企業同士、投資家、顧客とのつながりを促進する。また、イノベーションを促進するための新しいAI製品やサービスを開発するのに役立つ膨大なデータを生み出している。
4 検索が消費者、企業、経済にとって重要なデジタルサービスであることを考えると、同分野の競争が健全に機能することが極めて重要である。効果的な競争は、消費者がより多くの選択肢を享受し、新しく革新的なサービスを利用でき、自分のデータを管理できることを保証する。検索サービスは、ニュースにアクセスする手段としても重要である。効果的な競争は、人々が幅広いコンテンツにアクセスできること、また、パブリッシャーが自社のコンテンツの使用に対して公正に扱われることを保証する助けとなる可能性がある。効果的な競争が存在することにより、企業にとっては検索広告のコストが抑制される可能性があり、これは年間1世帯あたり約500ポンドに相当し、ひいては経済全体の価格を引き下げることにつながる。効果的で競争力のある市場は、例えば、新しいAIスタートアップ企業がグーグルやその他の既存のプレイヤーと対等に競争できるようにすることを含め、従来の検索サービスの代替を創出する形で企業が革新することを可能にする。
5 今回の調査の主な視点は、以下の点を含む。
(1) 検索分野における競争の弱さと参入・イノベーションの障壁: 同分野において競争がどのように機能しているか、またグーグルがその地位を利用して他者のイノベーションを妨げているかどうか。参入障壁によって競合他社の市場参入が妨げられているかどうか。特にグーグルが、新しいAIサービスやインターフェース(「回答エンジン(answer engines)」を含む。)の開発について、グーグルの検索サービスにかかる競争圧力を制限する形で進め得る状況なのかどうか。
(2) 市場力の利用の可能性とオープンな市場の確保: グーグルが市場での地位を利用して自社のサービス(例:ショッピングや旅行に特化した検索サービス)を優遇しているかどうか。
(3) 搾取的行為の可能性: 消費者の同意を得ずに大量のデータを収集・使用しているかどうか、またパブリッシャーのコンテンツを公正な条件(支払条件を含む)で使用しているかどうか。
6 今後、グーグルに課され得る行動要件には、例えばグーグルが収集したデータを他の企業に提供することや、パブリッシャーが、グーグルのAIサービス等の中で自社データがどのように使用されるかについてよりコントロールできるようにすることが含まれる可能性がある。
CMAは、本調査を9か月以内に完了する必要があり、適切かつ透明性のあるアプローチを採用する。今後は、広告主、ニュース・パブリッシャー、消費者団体を含む幅広い利害関係者の関与に重点を置く。また、決定を下す前(法定期限は2025年10月13日)にグーグルからも証拠を収集する予定である。本件の意見募集の期限は2月3日。
7 サラ・カーデル・チーフエグゼクティブは、次のように述べた。
「英国中の何百万人もの人々や企業がグーグルの検索・広告サービスに依存しており、検索の90%がグーグルのプラットフォームで行われ、20万以上の英国企業がグーグルに広告を出している。だからこそ、これらのサービスが人々や企業に良い結果をもたらし、特にAIが検索サービスを変革する可能性がある中で、公平な競争の場を確保することが非常に重要である。
人々が検索サービスにおける選択肢とイノベーションの恩恵を十分に受け、公正な取引(例えば、データの収集・保存方法など)を受けられるようにすることが我々の仕事である。そして事業者にとっては、ライバルとなる検索エンジンであれ、広告主であれ、報道機関であれ、大小を問わず全ての企業が成功するために公平な競争の場を確保したい。」
CMA、英国デジタル新法に基づくモバイル分野(アップルとグーグル)の調査を開始
2025年1月23日 英国競争・市場庁 公表
原文
【概要】
1 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、1月23日、DMCCAに基づき、特定のデジタル領域(areas of digital activity)における戦略的市場地位(SMS)の指定に関する第二弾の調査を開始した。今回の調査では、モバイルデバイスで動作するOS、アプリストア、ブラウザを含む「モバイルエコシステム分野」におけるアップル及びグーグルの地位について並行して評価する。調査では、モバイルデバイスを使用する人々や、これらのデバイス向けのアプリ等の革新的なサービスやコンテンツを開発している何千もの企業への影響を調査する。
2 現在、英国の16歳以上のほぼ全員(94%)、つまり約5600万人の英国の消費者がスマートフォンを所有しており、平均的な英国のユーザーは1日当たり約3時間をモバイルデバイスの使用に費やしている。また、英国では、約15,000の企業がモバイルデバイスで使用されるアプリの開発に携わっており、アプリ開発による英国の総収益は約280億ポンドと推定される。多くの企業が、デジタルウォレットのようなモバイル機器や、モバイル機器と連動するヘッドフォンやスマートウォッチのようなコネクテッドデバイスの技術開発を進めようとしている。したがって、英国経済全体で成長、投資、イノベーションの機会を最大限に生み出すには、これらの市場が大小を問わず全ての企業にとってうまく機能することが重要である。
3 英国で販売されているほぼ全てのモバイルデバイスには、iOS(アップル)又はAndroid(グーグル)がプリインストールされており、アップル及びグーグルの自社アプリストア(「App Store」と「Play Store」)及びブラウザは、他の製品やサービスと比較して、プラットフォーム上で排他的又は先導的な地位(exclusive or leading positions)を占める。これは、アップルとグーグルが、モバイルデバイス上で提供されるコンテンツ、サービス、技術開発において多大な影響力を及ぼすことができることを意味する。
4 モバイルエコシステムが人々、企業、経済にとって重要であることを踏まえると、競争がうまく機能することが極めて重要である。効果的な競争によって、アップルやグーグルが課す契約条件に関して、消費者や企業が公正に扱われることにつながる。また、効果的な競争によって、企業がイノベーションを起こし、様々なコンテンツ、サービス、技術開発をモバイル端末で消費者に提供するための開かれた機会を確保することができる。これには、AI製品やサービス、デジタルウォレットを通じて提供される非接触型決済、モバイルブラウザを通じてアクセスする新しいタイプのアプリ(スーパーアプリやウェブアプリなど)が含まれる可能性がある。これはひいては、モバイルエコシステムに依存する経済の一部において、持続的な成長機会を支える可能性がある。
5 今回の調査の視点は次のとおり。
(1) アップルとグーグルのモバイルエコシステム間の競争、及びエコシステム内での競争の程度: アップル及びグーグルのモバイルエコシステムにおいて競争がどのように機能しているか。競合他社がアップルとグーグルのプラットフォーム上で競合サービス等を提供することを妨げているものは何であるのか。
(2) アップルとグーグルの市場支配力を他の活動に利用(leveraging)する可能性: アップル又はグーグルが、OS、アプリ配信、ブラウザにおける地位を利用して、iOSやAndroidデバイスにプリインストールされ、より目立つ位置に配置されていることで、自社アプリやサービスを優遇しているかどうか。
(3) 潜在的な搾取行為: アップル又はグーグルが、自社アプリストアにおいてアプリ開発者がアプリを配布する条件として、不公平な利用規約への同意を求めているかどうか。モバイルデバイス上で、消費者がアプリを能動的に選択することを困難にするような「選択アーキテクチャ(choice architecture)」がユーザーに対して表示されているかどうか。
6 今後、アップルやグーグルに課され得る行動要件には、例えば、他社アプリにモバイルデバイス上で動作するために必要となる主要機能へのアクセスを開放することや、ユーザーがアップルやグーグルの自社アプリストア以外で、より簡単にアプリをダウンロードしアプリ内コンテンツの支払を行えるようにすることが含まれる可能性がある。
7 CMAは、本調査について、適切かつ透明性のあるアプローチを採用する。今後は、デバイスメーカー、ソフトウェア開発者、ユーザーグループなどを含む幅広い利害関係者との関与に重点を置く。また、決定を下す前(法定期限は2025年10月22日)にアップルとグーグルからも証拠を収集する予定である。本件の意見募集の期限は2月12日。
8 サラ・カーデル・チーフエグゼクティブは、次のように述べた。
「モバイルエコシステムの競争が激化すれば、アプリストア、ブラウザ、OSなど、何百万人もの人々が利用する様々なサービスにおいて、新たなイノベーションと新たな機会が促進される可能性がある。よい競争が促進されれば、事業者はアップルやグーグルのプラットフォームで新しい革新的な製品やサービスを提供できるようになり、英国の経済成長を後押しするだろう。」