一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか?
「就活」における「業界研究」の視点
西田法律事務所・西田法務研究所代表
弁護士 西 田 章
2018年度の司法試験が終わりました。これに合格した受験生には、司法修習(72期)に進む権利が与えられます。実務修習を受ければ、「裁判官」、「検察官」、そして、「(一般民事系)弁護士」の仕事のイメージを掴んで、自己に適性があるかどうかを考える機会があります。ただ、「企業法務」の道を進もうとした場合には、漫然と修習開始を待っているわけにはいきません。
司法修習生(予定者)が企業法務の業界研究をするために役立つ情報を提供することはできないだろうか?
この問題意識を、以下の5つの法律事務所の採用担当パートナーに投げかけてみたところ、すべての事務所から取材に協力してもらうことができました。
島田法律事務所 (5月7日(月)取材)
桃尾・松尾・難波法律事務所 (5月9日(水)取材)
中村・角田・松本法律事務所 (5月11日(金)取材)
潮見坂綜合法律事務所 (5月11日(金)取材)
阿部・井窪・片山法律事務所 (5月17日(木)取材)
この5つの事務所は、「一流企業が、日本法のリーガルサービスにおいて最も信頼している法律事務所はどこか?」と考えたときに、インタビュアーを務めさせていただいた私が、真っ先に思い浮かべた先です。一弁護士としての主観的な表現を用いさせていただくと、「もしも、自分が、昨年の予備試験を1桁順位で通過したプラチナ・チケットを携えて、72期の修習生の就活に参加したとしたならば、第一志望で応募する先」と言い換えることもできます。
20年前の司法修習生時代に、私は、「弁護士になるならば、渉外系事務所に行くべきか? それとも、大学院で専攻した倒産法に強い事務所に進むべきか?」を迷っていました。そこで、どうしても相談してみたいと願ったのが、倒産法実務で最も尊敬を集めていた故三宅省三先生でした。文献を通じて一方的に敬意を抱いていただけですが、思い切って事務所に連絡したら、三宅先生は親切にも修習生である私の訪問を受け入れてくださいました。そして、私が「渉外事務所から内定を頂いて迷っている」と状況を説明したところ、三宅先生から頂いたアドバイスが「その事務所はクライアント筋が良いから、間違いはないよ」というものでした。
当時の私は、「自己の専門法分野を何に定めるべきか?」に目を奪われていたので、「クライアント筋」という言葉の意味がわかりませんでした。修習生時代の私は、「法律家としての成長」の手段に「座学」をイメージしていたのです。何法の勉強をするか。どの法分野の論文をたくさん読むべきか。座学を通じて得られた「知識」が弁護士としての価値を高めてくれるものと誤解していました。ただ、言葉の意味もわからないままに助言に従い、渉外事務所に入所しました。
依頼者が弁護士を測る基準が「経験」であることに気付いたのは、実務に出てからのことでした。座学で得た「知識」を前提としても、弁護士は「実際の事件」を通じたオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)でしか成長することはできません。
そして、「新人弁護士時代に、どのような依頼者から、どのような相談を受け、それをどのように処理しながら修行を積んでいくか」が、企業法務の弁護士としての基礎固めに影響するものだと強く感じています。20年前に頂いた三宅先生のアドバイスの根底にもこの発想があったに違いないと解釈しています。
そこで、今回のインタビューでは、5つの事務所が、どのような依頼者を抱えており、どのような事件を受けているのか、そして、どのようなチームと指導体制で仕事を進めているのかを中心にお話をお伺いしてきました(それに加えて、オン・ザ・ジョブ・トレーニング以外の研修方法、パートナー昇進基準や雇用条件の概略もお尋ねしています)。
幸いにも、5事務所の採用担当パートナーからは、各人の具体的経験や職業倫理を踏まえた臨場感あるお話をお伺いすることができました。ホームページやパンフレットに書かれた事務所の公式見解に留まらない魅力を伝えられる記事ができたと思っています(5月25日(金)以降、順次商事法務ポータルにて掲載予定)。
企業法務の道を進むことに興味を抱いている司法試験受験生、司法修習生、それに若手弁護士に読んでいただけることを願っています。
(にしだ・あきら)
✉ akira@nishida.me
1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。
1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。
2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。
著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)