◆SH3107◆「株主総会運営に係るQ&A」のポイントと実務に与える示唆 渡辺邦広(2020/04/18)

「株主総会運営に係るQ&A」のポイントと実務に与える示唆

森・濱田松本法律事務所
弁護士 渡 辺 邦 広

1.はじめに

 新型コロナウイルスの影響拡大により、株主総会の開催方法について悩ましさが増している。本年4月7日には、内閣総理大臣により、同年5月6日までの間につき、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象として、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」)32条1項に基づく緊急事態宣言がなされ、同月16日には、緊急事態宣言が全国に拡大された。緊急事態宣言の下での具体的な措置としての要請や指示は、都道府県知事によってなされることになり、都道府県知事には一定の要件の下で、施設管理者やイベントの主催者に対して、施設の使用やイベントの開催の制限等を要請ないし指示することができることとされている(特措法24条、45条)。例えば、同月10日に公表された東京都における緊急事態措置等においては、床面積が1,000㎡を超えるホテル(集会の用に供する部分に限る)等について特措法に基づく休止要請がされるとともに、床面積が1,000㎡以下のホテル(集会の用に供する部分に限る)等についても、特措法によらない協力依頼がされており[1]、大規模な総会会場の利用が困難になる状況が生じている。そして、このような会場の使用制限とは別に、感染拡大防止自体の観点から、総会の規模を縮小すべきという考え方もあり得るし、また、仮に例年と同じ会場であっても、株主間の間隔を空けることにより、入場できる株主の人数を減少させる必要性もあるものと考えられる。このように、本年の株主総会においては、例年と同様の数の株主の入場を認めることは困難な状況(あるいは、例年と同様の数の株主の入場を認めるべきではないというべき事情)が存する。

 2020年4月2日に経済産業省と法務省が連名で公表し、同月14日に更新がされた「株主総会運営に係るQ&A」(以下「本Q&A」という。)[2]は、そのような状況に悩む株主総会の運営の指針となるものであり、実務に重要な影響を与えるものであると考えられる[3]。以下では、各Qの順に、その内容と実務への示唆を検討する。

 なお、本Q&Aは、株主総会の招集又は決議の方法に関するものといえるが、会社法上、株主総会の招集又は決議が法令に違反し、又は、著しく不公正なときには、株主総会の決議に取消事由が存することになる(会社法831条1項1号)。もっとも、招集の手続が法令に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる(いわゆる裁量棄却)ものとされている(同条2項)。

 我が国において、最終的な法令の解釈権限を有しているのは裁判所であるが、本Q&Aは、新型コロナウイルス対策が社会全体の喫緊の課題となった状況を受け、関係省庁において会社法上適法と考えられる措置を公表したものであることからすれば、以下で述べるように運用において留意をすべき点はあるものの、本Q&Aに正しく沿った措置が「著しく不公正」と評価されることは考え難いと言ってよいものと思われる。他方、例えば、平時であれば違法とされる株主の入場人数の制限が、本Q&Aに沿った形で行われた場合に違法でなくなるのかという点は、理論的には難しい問題になるように思われる。とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大を招くような状況を強制することが会社法の趣旨とは考えられないし、また、公衆衛生という「公共の福祉」の前に株主権という私権が制約される(民法1条1項)という考え方も採り得るように思われる[4]。いずれにせよ、本Q&Aに正しく沿った対応が、仮に形式的に法令に違反すると評価されることがあったとしても、裁判所において裁量棄却により救済されることは十分に期待してよいものと思われる。

 なお、本稿中意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者が現在所属している又は過去に所属した団体の見解を示すものではない。

2.Q1(出席自粛の呼びかけ)について(斜体字は更新部分)

Q1.  株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかけることは可能ですか。

(A) 可能です。
 会場を設定しつつ、感染拡大防止策の一環として、株主に来場を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置と考えます。
 なお、その際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいと考えます。

 株主総会に出席して議決権を行使する権利は株主の重要な権利であり、本来は、事実上であっても、その行使を妨げるような行為を会社が行うことは相当でない。平時であれば、株主に総会の出席を控えるよう呼びかけることは、その態様によっては、招集の手続が違法とは言わないまでも著しく不公正であるとして、総会決議の取消事由に該当する可能性のある行為である(会社法831条1項1号)。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止が社会全体の喫緊の課題となっている現状においては、いわゆる3密(密閉、密集、密接)の状態を避け、株主自身の健康を守るとともに、社会的な感染拡大を防止することが社会的に相当な行為であることは疑いがないところであるが、上記の悩ましさもあり、本年3月総会においては、「本株主総会へのご出席を検討されている株主様におかれましては、当日までの健康状態にご留意いただき、くれぐれもご無理をなさいませぬようお願いいたします。ご高齢の方や基礎疾患のある方、妊娠されている方、小さなお子様をお連れの方、体調にご不安のある方におかれましては、 株主総会へのご出席を見合わせることもご検討ください。」といったような形で、一律に出席を控えることを呼びかけるのではなく、慎重な検討を株主に促すというトーンにとどめる会社が多かったように思われる。

 Q1は、そのような慎重な検討を促すというトーンにとどまらず、より端的に「株主に来場を控えるよう呼びかけること」を可能とする点において、意義を有する。このQ1によれば、例えば、「新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、可能な限り書面(又はインターネット等)による事前の議決権行使をご選択いたただき、株主総会の会場での出席はお控えいただけますようお願いいたします。」といったような呼びかけを行うことも可能であり、前記1で述べたように、それによって招集の手続が違法又は著しく不公正になるものではないと解することができると考えられる。

 なお、Q1では、「招集通知等において」とされているが、招集通知や会社のホームページでの呼びかけに加えて、総会の会場においても、可能な限り入場は控えてもらうよう呼びかけることも許容されていると解してよいであろう。また、株主総会招集の取締役会で別段の定めをしていない限り、議決権行使書面の提出期限は、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時となるが(会社法施行規則69条)、総会の会場で、議決権行使書面を持参して入場を求めたものの入場を制限された株主については、株主総会の採決時までの間であれば、その場で議決権行使書面に記入をしてもらって議決権行使を認める取扱いも、許容されると考えられる[5]

 また、Q1については、本年4月14日の更新に際して、「出席」を「来場」に修正する変更がされているが、おそらく、これは、いわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会[6]を開催する場合を念頭に、Q1で意図しているのは、会場への来場を控えるよう呼びかけることであり、インターネットにより総会に出席又は参加することを控えるよう呼びかけることではないことを明確化する趣旨ではないかと推測される。もちろん、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点からは、インターネットにより総会に出席又は参加することを制限する理由はなく、ハイブリッド型バーチャル株主総会を開催する会社においては、インターネットによる総会への出席又は参加は推奨されてしかるべきと考えられる。このように、一部の株主の会場への入場を拒絶することとなる場合、ハイブリッド型バーチャル株主総会は、そういった株主への配慮の観点から採り得る合理的な選択肢の一つである。もっとも、設備の面からして、全ての上場会社が直ちにハイブリッド型バーチャル株主総会を開催することは困難と考えられることや、ハイブリッド型バーチャル株主総会におけるバーチャル出席やバーチャル参加は、会場での出席に法的に完全に代替するものとして設計されているわけではないことからすれば[7]、Q1を含む本Q&Aの措置を採る必要条件として、ハイブリッド型バーチャル株主総会を開催することが求められていると考えるべきではないであろう。

3.Q2(入場人数の制限)について(斜体字は更新部分)

Q2.  会場に入場できる株主の人数を制限することや会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催することは可能ですか。

(A) 可能です。
 Q1のように株主に来場を控えるよう呼びかけることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。

現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えます。この場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を認めることなどにより、決議の成立に必要な要件を満たすことができます。

 平時であれば、会場は、出席を希望する株主全員が入場できるようにしなければならず、この点の読みを誤って入場を希望する株主が会場に入場することができない事態を招けば、招集の手続又は決議の方法の違法になり得る[8]

 もっとも、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点からは、会場内の株主席の間隔を空け、いわゆるソーシャル・ディスタンスを確保することは合理的かつやむを得ない対応であり、例年と同じ会場であっても、入場できる株主数は自ずと減少するはずである[9]。また、例年の会場が使用困難となり、より手狭な会場となってしまったため、入場できる株主数が減少せざるを得ないケースも考えられる。現在の状況下において、そのような事態はまさにやむを得ないところであり、前記1で述べたように、それにより株主総会の招集の手続又は決議の方法が違法になったり著しく不公正になるものではないと解すべきである。Q2は、そのような解釈を裏打ちするものとしての意義を有すると考えられる。

 さらに、会場の株主席の間隔を空けたとしても、一時的な入退場を含む移動の機会等に株主が接近することは避けがたく、また、入場者数が増えるほどその中に(無症状の)感染者が含まれる可能性も増えていくと考えられるため、上記のような現実的な会場のキャパシティの観点からやむを得ない入場者数の制限を超えて、より積極的に入場者の絶対数を抑制することも不合理ではないと考えられる。Q2が、「例年より会場の規模を縮小すること」も可能としているのは、そのような趣旨に理解される。すなわち、例えば、例年通り、300名入場が可能なホテルの会場が確保できていて、当日までに突発的な事態がなければ当該会場を使用できる予定であり、株主席の間の距離を適切に確保しても、100名の入場は認められる状況であっても、積極的に会場の規模を縮小し、入場株主の人数を制限することも認めるものと考えられる。このような方法も、前記1で述べたように、それにより株主総会の招集の手続又は決議の方法が違法になったり著しく不公正になるものではないと解すべきである。

 また、そのような積極的な人数制限を行う場合には、何人まで人数を制限することができるかという点も問題になるが、会場のキャパシティから計算できる議論ではなく、法的に何人という絶対的な基準は見出し難い。この点は純粋な法理論というよりも、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からの検討がなされるべきであるが、例えば、我が国では、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が2020年4月1日に公表した「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(以下「4月1日付専門家会議提言」という。)[10]においては、「感染拡大警戒地域」(直近1週間の新規感染者数やリンクなしの感染者数が、その1週間前と比較して大幅な増加が確認されているが、オーバーシュートと呼べるほどの状況には至っていない等の地域)について、「地域レベルであっても、10 名以上が集まる集会・イベントへの参加を避ける」というメッセージの発信が期待されるとされ、また、「感染確認地域」(直近1週間の新規感染者数やリンクなしの感染者数が、その1週間前と比較して一定程度の増加幅に収まっており、帰国者・接触者外来の受診者数についてもあまり増加していない状況にある地域)について、想定できる対応として、「屋内で50 名以上が集まる集会・イベントへの参加は控えること」が挙げられている。株主総会においては、役員その他の総会運営者だけでも10名にはなることが多いと考えられるので、前者の10名という人数感をそのまま株主総会に当てはめることは容易ではないように思われるし、また、報道によれば、少なくとも東京や大阪は「感染拡大警戒地域」に該当すると考えられているようなので[11]、そのような地域で後者の50名という人数感をそのまま当てはめることは合理的ではないように思われるが、入場を認める株主数を決定する際の考慮要素の一つとして、このような数字も参照することは許容されてよいのではないだろうか。

 なお、Q2においても、「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において」という留保が付されている点には注意を要する。緊急事態宣言が発せられる直前に公表されたQ2において「現下の状況において」とされていることからすれば、緊急事態宣言が発せられている、あるいは、そうでなくとも関係の地方自治体等から集会の自粛が広く要請されている状況であれば、積極的に入場株主数を制限する措置を採ることも許容されると考えてよいと考えられるが、どこまでの措置を採るかは、株主総会を開催する時点の社会情勢にも応じた判断がされるべきである。

 また、この点に関連して、Q2が、「その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能」(傍点筆者)としている点について、会社が積極的に「株主の入場を一切認めない」とすることを直ちに許容していると解してよいかについても慎重な検討を要する。傍点を付した部分を踏まえ、Q2全体の趣旨を合理的に解釈すれば、当該引用部分は、その前に記載されている「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合」に「合理的な範囲内において」採る措置、例えば、来場を控えてもらうよう求める呼びかけ(Q1参照)、会場の縮小(Q2参照)や、発熱や咳などの症状を有する株主の入場拒絶(Q4参照)などの措置を行った「結果として」、誰も会場に株主が出席していなかったとしても、翻って上記の措置が違法になるものではないという趣旨に理解するのが適切と考えられる。もちろん、具体的にどのような措置をとることまで認められるかは、その時点の状況に応じて、どこまでが「合理的な範囲内」の措置と考えられるか次第であり、今後の状況によっては、「株主の入場を一切認めない」ことが合理的な措置となる可能性もあると考えられるが、その点は状況に応じた慎重な判断が求められると考えられる。

4.Q3(事前登録制)について

Q3.  Q2に関連し、株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは可能ですか。

(A) 可能です。
 Q2の場合における会場の規模の縮小や、入場できる株主の人数の制限に当たり、株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる等の措置をとることも、可能と考えます。

 なお、事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えます。

 Q1・Q2が本年3月総会においても各社が検討していた対応を裏打ちないし進めたものであると考えられるのに対し、Q3の事前登録制は新規性のある対応策のように思われる。新型コロナウイルスをめぐる状況により、当日入場を希望する株主を全員入場させることができなくてもやむを得ないという判断になれば、どのような基準で入場を認める株主を決定するかについては、恣意的でなく合理的な方法であればよいと考えられるので、一つの方法として事前登録制を用いることも考えられるということであろう。

 確かに、事前登録制を採用していれば、その事前登録をしていない株主が来場する可能性は低下するので、結果として、当日入場を拒絶しなければならない場面は少なくなるように思われるし、また、当日会場に入場を求めて集まる株主の人数も抑制でき、新型コロナウイルスの感染拡大防止に資する面があるように思われる。もっとも、Q3において、「全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべき」と述べられているように、事前登録制をどのように設計するかについては慎重な検討を有する。以下、考えられる設計のポイントについて、いくつか検討を加える。

① 事前登録(応募)の方法

 事前登録(応募)の方法としては、ハガキによる応募、インターネットでの応募又はその併用が考えられる。誰もがインターネットを使いこなせるわけではないというデジタル・デバイドの問題を考慮すると、ハガキによる応募も株主の選択肢としては含めた方がよいと思われるが、ハガキを用意することに伴うコストや、新型コロナウイルスの影響によりテレワークが推奨されている中、ハガキを受け取って作業をする従業員の数には限界がある可能性等を考慮すると、ハガキによる応募を選択肢として用意することが必須とまで言うのは相当ではないだろう。

② 応募をした株主の中から、予め入場を認める株主の選抜を行うか否か

 Q3においては、「株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる」とあるだけで、事前登録をした株主の中から出席を認める株主を予め選抜しておくかどうかについては明言されていない。そのため、会場の収容人数との関係での予めの選抜は行わず、いわば出席の希望調査としての「事前登録」を求めることとし、その「事前登録」を行った上で当日来場した株主を「優先的に入場させる」ことも考えられる(以下、便宜的に「希望調査型事前登録」という。)。

 もっとも、そのような希望調査型事前登録では、結局「事前登録」をした株主であっても入場できない可能性があるため、当日の受付で「事前登録」をした株主の入場を拒絶しなければならない場面も増えると想定され、また、会場に入場を求めて来場する株主の数を抑制することにより感染拡大を防止するという効果は低下するので、そもそも「事前登録」を求める意義が限定的になるように思われる。

 そのため、恣意的でない合理的な方法であれば、応募をした株主の中から、当日入場を認める株主を予め選抜することも認められてよいものと考えられる(以下、便宜的に「選抜型事前登録」という。)。そのような選抜型事前登録の方法としては、先着順方式と抽選方式が考えられる。どちらも恣意的な取扱いではない以上採りうる方策と考えられるものの、会社(証券代行)が発送した招集通知が株主の手元に届くタイミングについては地域差があることを考えると、株主総会の会日の一定期間前を締め切り日として応募を受け付けた上で、抽選方式の方がやや合理性は高いように思われる(特にハガキによる応募を受け付ける場合、返送されるハガキが会社側に届くのにかかる時間にも地域差があることを考えると、やはり抽選方式の方がやや合理性は高いと思われる)。

 また、選抜型事前登録の場合、本来応募をした株主全員に対して、当選の有無を通知することが望ましいとも思われるが、この点は周知の問題にすぎないため、登録方法について周知をする招集通知における説明等において当選した株主にのみ通知をすることを明確にしておいた上で、当選した株主にのみ通知をする取扱いも許容されると考えられる。

③ 当日来場者の扱い

 事前登録(選抜型事前登録の場合は、当選。以下この③において同じ。)をせずに当日来場した株主をどのように扱えばよいか。

 希望調査型事前登録の場合には、事前登録をした株主も必ずしも入場できるわけではないので、どのように「事前登録をした株主を優先的に入場させる」(傍点筆者)かが問題となるが、例えば、開会の5分前までは事前登録をした株主のみを入場させ(その間に、会場の収容人数に達すれば、それ以降は入場を拒絶することになる)、開会の5分前以降は事前登録をしているかどうかを問わず会場の収容人数に達するまで入場を認めるという取扱いが考えられる。

 また、選抜型事前登録の場合には、当選をした株主を入場させることが原則となると考えられるが、Q3では「事前登録をした株主を優先的に入場させる」(傍点筆者)とされているので、当選をしていない株主も、可能な範囲では入場を認めるべきと考えられる。具体的には、この場合も、例えば、開会の5分前までは当選をした株主のみを入場させ、開会の5分前以降は当選をしているかどうかを問わず会場の収容人数に達するまで入場を認めるという取扱いが考えられる(この場合、当選した株主であっても、座席が確保されているのは開会の5分前までである旨を招集通知等に明記しておくことが重要と考えられる)。そうすると、希望調査型事前登録との差異は大きくないようにも思われるが、当選をしなかった株主は入場できない可能性が高いと事前に分かることになり、受付で入場を拒絶しなければならないケースは相当程度抑制できるように思われる。

 また、希望調査型事前登録及び選抜型事前登録のいずれにおいても、事前登録をした株主用の優先席のほかに、一定数の自由席を用意しておいて、自由席には、事前登録をしていない株主も入場を認めることも考えられる。

④ その他の留意点

 Q3においても「全ての株主に平等に登録の機会を提供する」とされているとおり、株主平等原則(会社法109条1項)の観点から、特定の株主(例えば、大株主や社員株主)のみ優遇するような形で事前登録制を運用することは許されない点に留意が必要である。総会運営上、当日の動議の処理等の関係で大株主又はその代理人の出席が必要ということであっても、他の株主と同様の立場で、希望調査型事前登録であれば、事前登録をした上で、当日受付開始早々に来場して入場を試みたり、選抜事前登録であれば、予め自由席も設けた上で、事前登録を行い、当選しなかった場合には、当日受付開始早々に自由席への入場を試みたりするなどの対応が考えられる。

 また、上記のとおり、希望調査型事前登録と選抜型事前登録を比較すると、後者の方が受付で入場を拒絶しなければならないケースは抑制しやすいと思われるものの、今日の状況下では、招集通知発送後、さらには当選者に当選した旨通知した後に、予定していた会場が閉鎖される等により、会場の変更を余儀なくされる可能性もある。その場合、選抜型事前登録であっても、実質的に、当日の対応は希望調査型事前登録に近くならざるを得ない(そして、その可能性があることを招集通知等に記載しておくことが必要となる)面もあるように思われる。

 また、Q3に「登録方法について十分に周知し」とあるように、事前登録制の内容については、前記のいずれの点についても、株主に分かりやすく招集通知等で記載をする必要がある。そのように考えていくと、事前登録制については、やや大掛かりな取り組みとなる反面で、それほどスムーズな総会運営にはつながらないという見方もあり得るかもしれない。もっとも、例年の出席株主数が多数に及ぶ会社においては、選抜型事前登録を行うことによって、まず例年と同規模の株主が来場してしまう可能性を低減する意義はあるように思われるので、各社において自社の状況を踏まえた検討が必要になるものと思われる。

5.Q4(症状を有する株主の入場拒絶等)について

Q4. 発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは可能ですか。

(A) 可能です。
 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主入場を制限することや退場を命じることも、可能と考えます。

 株主総会においては、議長が、株主総会の秩序を維持し議事を整理する権限や、株主総会の秩序を乱す者を退場させる権限を有する(会社法315条)。また、株主総会の開会前(議長の就任前)は、会社(代表取締役)の権限として、議事が妨害されることのないよう株主の入場に当たって必要な措置を採ることは許容されると解される[12]

 これを前提に、従前より、新型インフルエンザ流行への対応として、体温測定等により、ある株主に感染の顕著な症状がある場合には、入場を控えるよう要請し、要請に応じない場合には一定の区画内に着席することを求め、それにさえ応じない場合には、他の株主が平穏に議事に参加できるよう、その者の入場を拒み、又は退場を命じることができると解してよいのでないだろうかとする見解があった[13]。Q4は、そういった解釈を裏打ちする意義を有するものと考えられる。

 また、上記の見解等を踏まえ、本年3月総会の時点では、株主の総会への出席権の重要性に鑑みて、発熱や咳などの症状を有する株主についても、いきなり入場を断ったり退場を命じるのではなく、別室(第二会場)への入場又は移動を案内し、それに従わない場合に入場を断ったり退場を命じるという対応方針を採る会社が多かったように思われる。

 もっとも、上記の見解が議論の対象としていた新型インフルエンザの流行と比しても、新型コロナウイルスをめぐる今日の状況はより緊迫感を増していることは明らかである。会社によっては、そのような別室を用意できない場合もあるであろうし、また、今日の状況では、そのような症状を有する株主が集まる部屋を用意すること自体、感染拡大防止の観点から望ましくないという考え方も十分あり得ると思われる。そのため、発熱や咳などの症状を有する株主については、端的に入場を断ることや退場を命じることも認められるものと解されるところ、Q4は、別室への案内等をすべきとはしていないことに鑑みても、当該解釈を裏打ちする意味も有するものと考えられる。

6.Q5(株主総会の時間短縮等)について

Q5. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は可能ですか。

(A) 可能です。
 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、株主総会の運営等に際し合理的な措置を講じることも、可能と考えます。

 具体的には、株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます。

 感染拡大防止の観点からは、株主が会場に滞在する時間を短縮することは合理的な対応である。そのため、Q5においては、「例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます」とされている。

 交流会は、任意のイベントにすぎないので、これを中止することが適法であるのは当然であるが、株主総会の議事の時間の短縮については、法的に許容される限界を検討する必要がある。その法的に許容される限界について、Q5は具体的な内容を述べるものではなく、また、株主総会の議事シナリオは、各社各様であるので、細かい言い回しの見直しも含め、短縮の方策は各社において検討する必要があると考えられるが、以下、検討のポイントをいくつか述べる。

 株主総会は、大まかに、①開会から総会の目的事項である報告事項の報告、決議事項の上程・説明まで、②質疑応答、③決議事項の採決から閉会までに分けることができる。

 このうち上記①の報告事項の報告及び決議事項の上程・説明については、法的に最小限の説明としては、招集通知及びウェブ開示事項がある場合にはウェブ開示に記載のとおり、と説明をするのでも足りると解されている[14]。そのため、本年は、ナレーションを含む口頭説明をする対象は、例年よりも相当程度絞った(例えば、連結業績の概況や対処すべき課題など、全社的かつ株主の関心が高いと考えられる項目に絞ることが考えられる)上で、そのほかの事項について、広く招集通知及びウェブ開示を参照するよう求める対応が考えられる。

 また、上記②の質疑応答について、打ち切りのタイミングは株主が議題を合理的に判断するために必要な質問が十分行われたか否かという観点から決することが必要であると解されている[15]。とりわけ決議事項の質疑打ち切りについては、決議取消のリスクが直接的に存在し、また、議案の内容に関する修正動議も考えられるため、質疑の流れに応じてその場で判断をする必要があるが、本年の状況では、例年の審議時間よりも短い時間で質疑を打ち切ったとしても、適法と認められる場合が多いであろう。また、質疑応答の進め方については、いわゆる個別審議方式(個別の目的事項ごとに質疑を受け付ける方式)と一括審議方式(全ての目的事項をまとめて質疑を受け付ける方式)があるが、個別審議方式については、目的事項ごとの質疑打ち切りが必要となり、全体の時間をコントロールしにくい面があるため、この機会に一括審議方式に移行することも考えられる。さらに、質疑応答の開始前に質問の時間や個数を制限することも考えられるが、上記のとおり、とりわけ決議事項の質疑打ち切りについては、質疑の流れに応じてその場で判断をする必要があるため、事前に時間や個数を完全に制限してしまうことについてはやや慎重に考えた方がよいものと考えられる(時間や個数を示す場合には、目安として示し、質疑の流れに応じつつも、できるかぎりその程度での審議終了を目指すといった取扱いが考えられる)。

 次に、上記③の決議事項の採決については、もともと端的に採決をするシナリオが通常であるため、短縮の余地は余りないと思われるが[16]、閉会後の役員紹介については、本年は省略することも合理的と考えられる。

7.おわりに

 新型コロナウイルスをめぐる状況は、100年に1度のパンデミックとも言われるに至っており、株主総会実務との関係でもまさに未曽有の緊急事態である。そのような状況下で、株主総会について、株主の健康確保や社会的な感染拡大防止の観点から合理的と思われる措置を採ったことにより、株主総会の決議が取り消されるなどの事態に至ることはないだろう(又は、あるべきではない)というのは社会通念といってもよいであろう。

 ただし、一方で株主に対して責任を負う立場にいる会社としては、そのような措置を採るに当たって拠るべき指針が欲しいというのも当然であり、そのような指針として本Q&Aは重要な意義を有する。各社においては、本Q&Aの内容を踏まえ、自社の状況と社会の情勢に応じた総会運営を検討していくことが必要になるものと考えられる。

[2020年4月17日脱稿]

以 上



[3] 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会が2020年4月15日に公表した「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」においても、企業においては、本Q&Aを踏まえ、新型コロナウイルス感染拡大防止のためにあらかじめ適切な措置を検討することが求められるとされている。https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200415/20200415.html

[4] 大阪株式懇談会編『会社法実務問答集Ⅲ』54頁〔北村雅史〕(商事法務、2019)参照。

[5] 拙著「株主総会に係る議決権行使書面の提出期限」商事2174号(2018)79頁。

[6] 経済産業省2020年2月26日策定「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「バーチャル総会実施ガイド」という)https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf参照。

[7] バーチャル総会実施ガイドにおいても、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会にバーチャル参加する株主は、法的に株主総会に出席していると取り扱われるわけではないし、また、ハイブリッド出席型株主総会にバーチャル出席する株主についても、バーチャル出席は、株主に対してリアル株主総会への出席に加えて提供される追加的な出席手段であるという理由で動議の提出権を制限することも考えられるとされるなど、システムの限界に対処する工夫として、厳密な法的な出席とは異なる取扱いがされている(バーチャル総会実施ガイド6頁、21~23頁)。

[8] 東京弁護士会会社法部編「新・株主総会ガイドライン〔第2版〕」(商事法務、2015)48頁、大阪高判昭和54年9月27日(判時945号23頁)参照。

[9] 総会会場における適切なソーシャル・ディスタンスがどの程度かは、純粋な法理論というよりも、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からの検討がなされるべきである。例えば、東京都知事の会見では、2メートルの距離を取ることが呼びかけられているようであり(https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/governor/governor/kishakaiken/2020/04/10.html)、また、米国カリフォルニア州の外出禁止令では6フィート(約1.8メートル)の距離をとることが求められているようである(https://covid19.ca.gov/stay-home-except-for-essential-needs/)。これらは行列や屋外での距離を想定したものであるため、そのまま株主総会に当てはめることは合理的でない可能性があるが、一つの参考にはなるだろう。

[12] 岩原紳作編『会社法コンメンタール7 機関(1)』(商事法務、2013)273頁〔中西敏和〕参照。

[13] 大阪株式懇談会編『会社法実務問答集Ⅰ(上)』(商事法務、2017)229頁〔前田雅弘〕。

[14] 元木伸『改正商法逐条解説〔改訂増補版〕』(商事法務研究会、1983)191頁参照。

[15] 前掲注[8]・東京弁護士会会社法部編93頁。

[16] 全ての議案について事前の議決権行使により可決されることが判明している場合等には、全ての議案を一括して採決することも許容され得ると考えられるが、株主には議案ごとに議決権を行使する権利があると考えられること(会社法施行規則66条1項1号参照)からすれば、一括して採決することにより短縮できる時間とのバランスも踏まえた検討が必要になろう。


(わたなべ・くにひろ)

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士。コーポレート・ガバナンス業務、株主総会対応、会社法関係争訟を含む紛争解決、M&A / 組織再編を専門とする。2004年東京大学法学部卒業、2006年弁護士登録(第二東京弁護士会)、森・濱田松本法律事務所入所、2012年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M., Harlan Fiske Stone Scholar)、米国 Simpson Thacher & Bartlett 法律事務所にて執務(~2013年4月)、2013年法務省民事局にて執務(平成26年会社法改正を担当)(~2015年6月)。