日本版リーガルオペレーションズ研究会 INTERVIEW
1.株式会社JERA様の場合
2022年7月29日公開
会社概要
設立2015年。東京電力フュエル&パワー株式会社と中部電力株式会社の50:50の合弁会社。グローバルに展開している事業を通じ、世界最先端のエネルギー・ソリューションを日本に導入し、日本が直面するエネルギー問題の解決に貢献。日本の新たなエネルギー供給モデルの構築を目指している。同時に、日本で構築したエネルギーの供給モデルを、世界で同様のエネルギー問題に直面している国々に提供し、世界のエネルギー問題解決にも貢献することを目指している。
総資産約4.1兆円、LNG取扱規模は世界最大級の年間約4000万トン、売上高約2.7兆円、従業員数約5000人。
[法務部門概要]
法務部は約30名で、全員が東京本社勤務。
プロジェクト法務や法規制アドバイスを担う戦略法務ユニット、取締役会やガバナンスを担うコーポレート法務ユニットに加え、2022年1月からはリーガルオペレーション・ユニット(以下「LOU」)を設置(3名)し、リーガルオペレーションズに片手間でなく専任で取り組めるようになった。なお、同年7月からはコンプライアンス総括ユニットも設置予定で、企業の法務部門としては、フルラインアップの分掌。
LOU所属員は法務部の全ユニットを兼務し、企画だけでなく手を動かすところまで実参加。これによりLOUが「部」の目線で横串を通せるようにしている。LOUユニット長でオーストラリア法弁護士のAngela Yuen氏に加え、課長のDaryl Osuch氏は元もと米国Washington DC弁護士。米系の大手法律事務所(4年超)、コンサルティング・ファーム(eDiscovery, digital forensic等)を通じ、日本語に加え、日本の企業法務やTech案件の経験が豊富。宮田氏は情報通信系企業で11年勤務(SEでキャリアをスタートした後、1人法務やファシリティマネジメントを経験)し、約2年前にJERAに転職。LOUの3名とも、企業の法務部門の業務やワークフローを理解している点では共通するが、プラスαの部分は多彩・多様である。「同僚に対してサポーティブに、その提案を受けた側が対応したくなるようなアプローチを取るよう心掛けている。『上から言われたからやる』仕組みでは、人は本当には自分事として取り組まない。LOUは『同僚と一緒にやる』というスタンスを大切にしている」とはOsuch氏、宮田氏の談。
▶インタビューご協力:法務部長 多賀谷健司さん
コーポレート法務ユニット長 小西智子さん
リーガルオペレーション・ユニット課長 Daryl Osuchさん
リーガルオペレーション・ユニット主任 宮田照三さん
CORE8総論
CORE8イベントには、多賀谷氏、Osuch氏がオンライン参加。昨年末、LOU設置について経営会議で承認された直後であり、時機を得ていると感じた。それ以前にもLegal Operationsの情報には触れていたが、欧米発の情報が多く、しかも100名規模の法務部を擁する大企業の声が大きい印象であった。CORE8は日本企業目線でLOを再編集、レベル分けしていた点で身近に感じた。研究会には貢献できず、イベント時はただ「学ばせてもらう」側だったが、その後、法務部内に紹介し、LOUでは自分の立ち位置を知る「物差し」として活用してきた。
CORE8各論
1.戦略
自己採点ではレベル2。JERAでも法務部のミッション・ビジョンや、経営向けのValue Propositionを大切にしてきたが、CORE8が冒頭に「戦略」を置いていたことで、自社の取り組みが間違いではなかったのだ、と我が意を得た思い。今後は戦略を法務部の個人レベルまで落とし込もうとしているが、要員の入れ替わりや、個人間でニュアンスも異なると思れることから、個人目標のレベルまで咀嚼していくのはこれからの課題。その意味でレベル3はこれからとの評価。
「JERAは会社全体の仕組みとして組織の戦略・計画(アクションプラン)を作って個人のアクションプランに落とし込むようになっている。この会社の仕組みに載せていくことで自ずと法務部の戦略・計画を個人の行動に落とし込むことができる」と小西氏。
2.予算
レベル2-3と評価。大企業の恵まれている点かもしれないが、金額的には予算確保はできており、法務部としては「それを価値ある用途に使いこなせているか?」を客観的に示すことが問われている。ちなみに、法務部長のレポート先は直接CEO(社長)であり、法務部が経営に近いことも、予算が比較的獲得しやすい要因の一つ。外部弁護士の予算管理については外部リソースの項(7)で詳述。
3.マネジメント
本社法務部内(今年から4ユニット体制)のレポーティングは確立している。国内・外に展開する関係会社のレポート先は、一義的には本社の関係会社管理部門だが、当該管理部門にモニタリングしてもらうと同時に、本社法務部も「第2線」として現地法務からDotted Line Report(DLR)を受けている。DLRが機能しているのは、そのための入念な働きかけ・仕組みづくりをしているから。例えば関係会社が法務要員を必要とする場合は、本社法務部に相談があり、その採用段階から関与。配置後も、本社法務部から現地法務に対し、本社への連絡を歓迎する旨明確に伝え、本社へ招聘する機会も設けている。コロナ禍ということもあり、今年は昨年に続いて、LOU主催で本社・海外子会社の法務部員が一堂に会するオンラインイベントを企画している。チームビルディングをはじめ、1日当たり4時間、2日間のプログラムを準備している。このイベントでは、言語の問題でコミュニケーションが阻害されないよう、発表資料を日本語と英語で用意するほか、同時通訳者も手配する予定である。
4.人材
人財は法務部の唯一の資産であり最重要と認識。ただ、自己評価はレベル1。法務部員30名を擁する規模になったが、株主である電力会社からの転籍者、キャリア採用者、また、今後は新卒採用者の配属もある見通しで、そのバックグラウンドは様々(因みに、会社全体では9割以上が株主2社からの転籍者である)。人財育成や部員に求めるスキルセットの整理はこれからの課題。例えば、これまで一貫して法務畑を歩んできた部員、会社のローテーションの一環でたまたま法務部に来た部員、いずれも、これから積む経験が(本人にとっても会社にとっても)宝であり、法務部としてもキャリアにつながる仕事をアサインしたいが、各自のキャリアの岐路で参考になるよう、幾つかの異なるキャリアパスを示す必要も感じる。
昨年、法務部員のスキルマッピング(事業分野や各国法律の知識など)を、外部コンサルティング・ファームの協力のもと実施した。JERA法務人材の現在のスキルレベルは必ずしも高くないという評価が出たが、伸びしろは大きいというメッセージと受け止めている。
宮田氏は「自分は前職で転職先を探していた際に(もともと法学部卒ではなく、弁護士資格も有していない。加えてSEから法務への異動も会社のローテーションによるものだったので)自分のスキルでは法務人材としての転職は難しいと感じた。そのような折、JERAの面接を受ける中で、LOの推進には法務+αのスキルセットが効果的で、それが評価されたのかなと思う」。多賀谷氏は「法務部で求められる人材が多様化しており、かつて仰ぎ見るように感じていた欧米企業の『弁護士100名規模の巨大法務部』は、もはや古いモデルになりつつある、という記事や話を見聞きしたのが印象に残っている」とのこと。
5.業務フロー
自己評価ではレベル1と2の間。契約・法律相談は最も頻度の高い業務であり、そのフロー整備は鋭意取り組んでいる。トランザクション系の契約審査を案件管理システム内で完結できる法務相談依頼フォームを今年(2022年)2月から全社に展開した。事業部門からの反発も想定していたが、LOUの入念な事前準備・潜在的な問題発覚時の速やかな対応が奏功し、スムーズに導入できた。その他の要因としては、社内全般に法務部への信頼が比較的厚く、その指示に従ってくれる風土であることや、新しい会社であるがゆえに既存システムとのバッティングがなかったこともある。
システム内にあるデータの分析や、それを利用した潜在的な問題の発見・解決手法の確立はこれからの課題だが、手応えはある。例えば、ある法務部員が案件解決までに平均以上の時間を要している場合、その原因が当該部員のキャパシティ不足か、逆に能力が高いがゆえに案件の依頼が集中しているからか等を検討し、原因に応じた対処が可能になるはずと思っている。
テーラーメードの大型取引以外に、反復的な契約・定型取引や業務もあり、これらのテンプレート化・効率化も進めている。また、コーポレート法務には、社内決裁権限についての問い合わせなど、同種質問対応業務が相当数ある。現状ではFAQにて対応しているが、今後はチャットボット対応を検討している。
6.ナレッジマネジメント
人財と同じく最重要課題で鋭意取り組んでいる。法務部内の情報活用だけならレベル2だが、全社大のナレマネでは自己評価はレベル1と2の間。直近の契約等は案件管理システムで捕捉可能だが、システム導入以前のものを視野に入れた文書管理システムや契約書管理システムの導入が必要と感じている。当社は、設立は新しいが、株主2社から承継した事業は長い経緯があるというユニークさがある。JERA設立に際して移管を受けたプロジェクト等の中には、関連資料が紙ベースで倉庫に保管されていたりするほか、その後の組織改編も経てどの部署が契約原本を管理しているかはっきりしないものもある。こうした過去の文書や法務部外の保管書類を含めた全社のナレッジ・データすべてを捕捉・活用して、法務部の機能発揮につなげるのがLOの目指す姿。そこまでできて初めてレベル3ではないかと考えている。
7.外部リソース
外部弁護士については、起用段階で法務部が協議を受ける決まりになっている。また、相見積もり取得やEvaluationに入ることもある。選定後の法務部の関与の仕方は千差万別。主管部署と合同で振り返りは行うが、案件遂行中の弁護士との協働や支払いについての法務部集中化は行っていない。その点を敢えて変えるかどうか自体考えどころ。JERAでは案件が大きく複雑でもあり、弁護士を起用することは日常茶飯事。そのすべてを法務部が捕捉することでかえって主管部署の主体性・機動性が失われる可能性もある。また、事業部門では会計、技術、保険など弁護士以外のアドバイザーを管理しており、これらとは別に外部弁護士だけ法務部管理とするのは非合理的な部分もある。
同様に、費用面も、法務部が独自に必要とする外部弁護士の費用は自身で予算化しているが、各事業部門も担当プロジェクト遂行に必要な経費として予算化しており、全社の弁護士費用総額は現時点では法務部でとりまとめはしていない。この点も何が全社のためによいか思案中。
法務部が利用する外部リソースとしては、弁護士事務所以外にリーガルテックやコンプライアンス対応のためのコンサルタント起用もあり、これらも予算化している。
8.テクノロジー
自己評価ではLOU設置によりレベル2ができるような体制が整った、というもの。LOUメンバーはテクノロジーに慣れており、法務部内のニーズに応えるための立案・作業などはLOUメンバーのICTスキルで対応可能だし、同僚の業務効率化に貢献できること自体を働き甲斐に感じている。LOUメンバーは1つの専門性に狭く深く特化するというより、各種領域の境界線を行き来できる存在。こういう人の方がこれからの法務人財として求められるのではないか。
全体を通じての自社の課題感
自社の組織に合うもの、合わないものがあるので、すべて万遍なくレベル1から2へ、2から3へと上がって行ける訳ではないが、CORE8を「物差し」にして順に目指すことができるのは心強い。
今後の期待
情報発信に期待したいし、JERAの試行錯誤の状況も、お役に立てるようであれば積極的に共有したい。
以上
(この記事は2022年6月に実施されたインタビューをもとに、2022年7月に作成されました)