日本版リーガルオペレーションズ研究会 INTERVIEW – 株式会社ショーケース

日本版リーガルオペレーションズ研究会 INTERVIEW

2.株式会社ショーケース様の場合

2022年7月29日公開

会社概要

エントリーフォーム最適化サービスやオンライン本人確認サービス (eKYC)、エントリーフォーム作成から有人無人のチャットボットツールを有するプラットフォーム事業提供、広告・メディア事業、クラウドインテグレーション事業、DX支援開発事業、投資事業等を行う上場企業(スタンダード)。資本金約10億円、従業員約130名。グループ会社3社。

[法務部門の概要]

コーポレート本部(15名~20名)の総務部(4名)内に法務担当1名が所属する、いわゆる一人法務(アシスタント1名、業務委託で弁護士1名が参画予定)。業務内容は契約書審査、法務相談、セキュリティ回り、株主総会・取締役会、全社従業員のエンゲージメント向上施策の実行等多岐にわたる。法務担当は原則総務部長にレポートするが、M&A等の秘匿案件は取締役に直接レポートする。法務担当は入社3年目。

インタビューご協力:コーポレート本部 総務部 打田太一 さん


CORE8総論

 一人法務ゆえ、法務運営・アプローチが今のやり方でいいかは、今まで顧問弁護士に相談していた。もっとも顧問弁護士に全てを教えてもらえるわけではない。法務部門の基準・質について部内外で説明できる客観的な指針が欲しいと思っていた。かかる自社の問題意識とCORE8が合致した。

 法務の第一線にいる者が素案を作成したCORE8と現状を対比させることで、できているところは自信を深め、それ以外は反省するなどの検証ができた。例えば業務フローに関し、稟議・捺印の仕方など典型的な問い合わせについても従来は全て個別に回答していた。しかし、CORE8の具体例に、FAQ対応すると良いとの記載があったのを機に、対応を変更。直接業務改善に役に立った。規模や経営からの期待を基に、目線合わせは必要だが、法務体制を構築に向けてのモチベーションに繋がった。


CORE8各論
1.戦略

 一人法務における「戦略」立案には悩むところがあり、また、目の前の案件対応でいっぱいになりがちなのが正直なところ。しかし、今はCORE8という戦略立案の基準提示があり、また、法務部門以外でも「組織」でありさえすれば戦略や計画は立てるものだから、そこから学べばよいと考えるようになった。レベル3の具体例などは示唆に富む。例えば、KPIを立てるのは難しいが、CORE8記載の「部員の理解度アンケート」を一人法務用にアレンジして「他部署の部長に法務の取組みへの理解度を聞くアンケート(5段階評価)」を実施。経営法友会の若手と話すと、目標設定に悩む人は多く、アンケートを使ったという自分の実例は評判がよい。

 「法務部門の」戦略といっても、経営陣の意向・社会情勢などを踏まえた戦略でないと意味がない。その点についてCORE8でも説明があるとよい。とりわけレベル3になるためにはこうした経営・世界情勢への目配りは必須と思う。例えば経営陣との対話を踏まえての戦略になっているかをレベル3に求めてみてはどうか。

2.予算

 予算は自社の弱点と認識している。弁護士費用、人件費(追加人員をどうするか、は予算検討アイテムには常に入っている)、Legal Tech、書籍、研修などが予算の項目。ベンチャーかつ一人法務なので、いい意味でも悪い意味でも「予算」がなく、前年度ベースで算定し、計上している。ところが、特殊案件(例えばM&A)が入るとすぐに予算を超過。こうした超過は会社に許容されてはいるが、急な事態への対応も含めた予算管理ができていないという意味で、自己評価としてはレベル1。また、以前と異なり、法務担当者がいることで外部弁護士に頼らず社内で解決できている案件も多々あるが、それを具体的に「自分がいるからいくらコストが減った」といった目に見える形でのアピールは足りないかもしれない。こうした予算計上の仕方や法務機能の社内宣伝を他社がどうやっているか知りたい。会社の状況によって異なるとは思うが、一般論として、どのような比率・割合で予算確保されているのか、数字で示されるとありがたい。

3.マネジメント

 一人法務なのでマネジメントはあまり経験がない。しかし、社内で積極的行動をしていると、他部局巻き込んで立ち上げるプロジェクトチームの「マネジメント」機能を期待される(M&Aでのプロジェクトリーダーなど)。自分の意識とメンバーの意識を合わせ、管理型ではないマネジメントなどを求められており、実践している。

 なお、ベンチャー企業では、業務はプロジェクト単位で行われており、マネジメントも固定の組織内のレポーティングラインよりは業務の仕方が大切である。

 CORE8のレベル1-3は全て法務部門内の話をしていて同じに見え、違和感がある。自社では常に他部署と連携する。自分にとっては、法務部門内にとどまる限りマネジメントはレベル1。組織内統一のその先に何があるのかが知りたい。例えばレベル3には法務のミッション・ビジョン・バリューがあること、という例示があるが、日本版リーガルオペレーションズ研究会でそのミッション・ビジョン・バリューの一つの「理想形」を提示してくれたら有意義。

4.人材

 レベル1-2はやれている。レベル3はやれているものもやれていないものもある。例えばやれていないのは法務独自の給与体系や早期昇進制度。もっともこれは(自らではなく)部門長が取り組むもので、前提として法務人材には特別な市場価値があると社内で認知されることが必要。法務業界では「法務は専門家」であって独自の給与体系や早期昇進制度が必要と思うかもしれないが、テック企業にとってはエンジニアの方が希少価値の高い専門家で、市場価値も上がっている。そのため、エンジニア用の特別報酬体系を作ろうという流れになる。これに対して法務のバリューの社内説明は理解者も少なく難しい。

 具体例にある360度評価は、自社にはかつてはあったがなくなった。かつての360度評価は半年に1回実施されていだが、ベンチャー企業の規模だといつも同じ人への評価依頼となるし、従業員100人規模の会社で一人が20人分評価するのはきつい。法務部門のアンケートは360度評価がなくなるのを機に、これに代わるものとして作成した。教育プログラムは、一人法務だからこそ積極的に取り組んでおり、経営法友会の研修はじめ、外部研修も積極的に取り入れている。

 目標設定については、何を目標として定めるかは悩む。契約○件、○○規程を作る、下請法強化……だけではよくない。それよりも重要な案件が発生し、取り組んでいるうちに目標未達、ともなりかねない。「目標設定に何かストーリーを作るのがいい」とおっしゃった他社法務シニアポジションの方がいるが、自分はそれに共感している。抽象的な、会社の方向・道しるべの形で目標設定をして、その中に個別具体的に、数値化を含め、成し遂げたことを入れるという形がよい。

 CORE8のレベル2は手段を書いているが、その「手段」自体のレベル1-3設定があってもいいように思う。

5.業務フロー

 法務担当者の入社前は、自社では営業の人が契約を見ていた。そうした「ゼロ」から立て直して今日に至る。他社の話を聞こうとしても、自社開発システムありきとか、Slackその他特定のソフトは入れられないルールがあるなどの各社事情により、業務フローの話は一番かみ合わない。自社では相談依頼はSlackに一本化し、メールや電話での依頼は禁止とした。その依頼方法も自由にさせるとむらができるのでフォーマットを作成し、納期、置かれている状況、どのように解決したいのか、クライアント、自社ひな形利用の有無などを必須項目とした。案件のうち機密性高いものはアクセス制限をつけたチャネルで対応している。NDAも整理して、中立検討型、一方的情報開示型、一方的情報受領型、M&A用の4つを作成。エンジニアとの業務委託契約も多いので定型化。この二種類の契約は自動化し、契約当事者が書けば完成し、別途のリーガルチェック依頼は不要とした。

 会社によって置かれている状況が違う。業務フローについては他社と話していても噛み合わない。各社各様でシステム利用可否が異なる。法務関係者と話をしていても、前提のすり合わせに時間がかかり本質の話まで深掘れない印象。書かれているところは納得。

6.ナレッジマネジメント

 レベル1、2は満たしている。Legal Techも導入しているが、ストレージはGoogleドライブ(Google Workspace)。自社では昔は権限管理が雑だったが、個人情報を扱う企業として権限ごとのファイル管理体制を整備。

 質問だが、会社規模によってもナレマネが必要な状況なども違う。規模ごとの指標を出すというやりかたは検討したのだろうか(ここでインタビュアーを務めた川口から、規模だけでもないので、インタビューを実施して、他社事例を多数提示することを今は考えていること、インタビュー&コンサルテーションのコンセプトなどを説明)。今の規模などにかかわらず、その会社(特に現在は大企業ながらそこに至るまでに試行錯誤しながら法務部門運営を構築してきた企業等)がいつどのように規模が変わり、それに合わせてリーガルオペレーションが変わったのかなども知れるといい。

7.外部リソース

 既存弁護士事務所に相談。現状では、Fintech分野の専門家が欲しいので、外部から来た役員にアドバイスもらうなどして探している。外部弁護士の評価の基準は難しい。個人的にはタイムリーに対応し、求めていることにちゃんと答え、期日を守ればいい。なお、弁護士事務所の慣習として、新人を連れてきてチャージするのが普通なのかなどは知りたい(川口から、それは断るルールを作るなど、対応方法がある旨説明)。

8.テクノロジー

 Techありきでなく、検討した結果導入しなかったこともテクノロジーの項目での「成果」だと思う。


全体を通じての自社の課題感

 企業法務の標準化は自社だけではできない。他社の法務の実力が低いから相手の知らないところに付け込んでいい条件を取る、などということはもうやめたい。自社有利であればいいというのではなく、どこに条件を落ち着けるのが全体としてよいかを考えていきたい。

会社規模も大きくなってきて、今度は子会社も含めたグループ経営となるので、新たな対応が求められる。人材採用も考えていきたい。


今後の期待

 リーガルオペレーションズを知らない人も多い。しかし、この活動は重要なので広めていってほしい。現状では法務部長レベルが前のめりなのかもしれないが、現場にいる法務部員の方が課題感のリアル感はあるはず。こうしたレベルの人材をつなげていただければありがたい(川口から、レベル感・課題感が同じくらいの法務部同士をつなげるような活動もしていきたい旨説明)。メンバーレベルがCORE8に関しディスカッションし、これを運営側やCOREに参画しているマネジメント層に提示して、それを擦り合わせるイベントがあると面白そうである。その過程で課題解決や新たな施策等が見えてくると思う。

以上

(この記事は2022年6月に実施されたインタビューをもとに2022年7月に作成されました。)

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