◆SH3087◆事実上の「バーチャルオンリー型株主総会」を志向した「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」の開催のポイント 塚本英巨(2020/04/02)

事実上の「バーチャルオンリー型株主総会」を志向した
「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」の開催のポイント

アンダーソン・毛利・友常法律事務所

弁護士 塚 本 英 巨

1 はじめに

 新型コロナウイルスによる感染症が世界中で猛威を振るっており、日本もその例外でない。日本では、小池百合子・東京都知事が、2019年3月25日、都民に対し、同年3月28日・29日の週末における不要不急の外出自粛を要請したことにみられるとおり、政府により緊急事態宣言が出される瀬戸際にあるとされている。

 新型コロナウイルスによる感染については、その拡大を防ぐため、「換気の悪い密閉空間」(密閉)、「多数が集まる密集場所」(密集)及び「間近で会話や発声をする密接場面」(密接)という3つの「密」を避けることが求められている。

 そのような中、多くの会社は、これから6月の株主総会シーズンを迎える。株主総会では、一定数の人が集まるが、多くの人の密集をいかにして避けるかが重要な課題となっている[1]。また、今後、緊急事態宣言が出されるなどした場合は、株主総会の会場として利用する予定であった施設が閉鎖されることも想定される[2]

 そこで、本稿では、新型コロナウイルスによる感染拡大という非常事態の中、株主総会において多くの人が密集することを避けるため、いわゆる「バーチャルオンリー型株主総会」(意味についは後述)に極力近い形で、すなわち、インターネットを通じて多数の一般株主がリモートで株主総会に出席することとする場合における論点について検討することとしたい[3]

 このような株主総会自体は、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」(意味については後述)と言われるものである。その法的論点については、経済産業省が、2020年2月、「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」での議論(筆者も委員として議論に参加)に基づき、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」という。)を策定・公表している[4]。本稿は、実施ガイドを踏まえたうえで、会社が、株主に対し、極力、株主総会の会場に来ないことを要請しながら、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を開催することに係る論点を検討するものである。

 ハイブリッド出席型バーチャル株主総会については、インターネットを通じて多数の一般株主がリモートで株主総会に出席することができるようにするため、一般に、会社における一定のシステム対応を要することが想定されている。これに対し、本稿では、大掛かりなシステム対応を基本的に要しない「Web会議」(インターネットを通じて、音声、映像、資料の共有を行い、また、テキストベースでのチャットを行うことができるオンラインツール)の方法をとることを想定する。

 また、以下では、書面又は電磁的方法による事前の議決権行使の結果により、株主総会の開始の前の時点で既に議案の成否が判明しているという一般的な会社を前提としている。

 なお、個々の論点で逐一触れることはしないが、新型コロナウイルスによる感染拡大という非常事態にあり、通常の株主総会と異なる取扱い(特に、株主に不利な取扱い)をする高度の必要性があるからといって株主総会について何をしても会社法上許容されることになるわけではない。例えば、会議体の体をなしていると言い難い場合には、株主総会の決議に瑕疵があるとされる可能性もある。そのため、状況によっては、株主総会の開催を延期することがむしろ合理的な対応となる場合があり得ることに留意する必要がある。

2 「バーチャルオンリー型株主総会」と、「事実上」のバーチャルオンリー型株主総会としての「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」

 本稿の前提として、まず、「バーチャルオンリー型株主総会」及び「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」について説明しておきたい。

 「バーチャルオンリー型株主総会」とは、株主が物理的に来ることができる特定の場所(以下「リアル総会場」という。)を設定せず、インターネットを通じたチャットや電話会議、テレビ電話等の手段(以下「インターネット等の手段」と総称する。)「のみ」で株主が出席することにより株主総会を開催することをいう。

 バーチャルオンリー型株主総会は、現行の会社法上、認められないと解されている。これは、株主総会の招集に当たり、特定の「場所」(リアル総会場)を決定しなければならないとされており(会社法298条1項1号。また、会社法施行規則63条2号参照)、当該「場所」を設定しないで株主総会を招集することができないと考えられているためである[5]

 これに対し、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」とは、リアル総会場を設定し、株主がリアル総会場に来る方法で株主総会に出席すること(以下「リアル出席」といい、リアル出席をする株主を以下「リアル出席株主」という。)に加えて、情報伝達の双方向性及び即時性が確保されていることを前提として、インターネット等の手段で株主総会に出席すること(以下「バーチャル出席」といい、バーチャル出席をする株主を以下「バーチャル出席株主」という。)も許容する株主総会をいう。

 ハイブリッド出席型バーチャル株主総会は、リアル総会場を設定するものであり、現行の会社法上も可能であると解されている(会社法施行規則72条3項1号括弧書参照)[6]

 ところで、会社法上、リアル総会場を設定しなければならないということは、法的には、株主総会の開催日に、会社が、株主が当該場所に来ることを拒むことができない、すなわち、当該場所に来た株主には、当該場所において、議長から説明を受け、また、質問と議決権行使を行う機会を与えなければならないということを意味するものと解される。逆に言えば、リアル総会場を設定して株主総会を招集したが、株主が一人もリアル総会場に来ないということも許容される。

 そうすると、リアル総会場を設定し、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の形で株主総会を招集したころ、実際は、株主が一人もリアル総会場に来ず、インターネット等の手段によってのみ出席したことにより、結果として、バーチャルオンリー型株主総会となった、ということは、会社法上何らの問題もないと解される。

 新型コロナウイルスによる感染が広がる中、リアル総会場を設定しながらも、リアル出席株主の数を減らしたいというニーズが高まっている。そして、リアル総会場をそもそも設定しないバーチャルオンリー型株主総会は会社法上不可であるとしても、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を招集し、かつ、リアル出席株主の数を極力減らすことにより、バーチャルオンリー型株主総会に近い形で(「事実上」のバーチャルオンリー型株主総会として)株主総会を開催することを検討する会社の数が俄かに増えている。

3 「事実上」のバーチャルオンリー型株主総会としてのハイブリッド出席型バーチャル株主総会を開催する場合の留意点

 前述の実務のニーズを踏まえ、以下では、事実上のバーチャルオンリー型株主総会を開催する場合の留意点を述べる。

(1) 取締役会の決議の要否

 リアル総会場をどこに設定するかということは、株主総会の招集に当たり、取締役会の決議により決定する必要がある(会社法298条4項、1項1号)。

 これに対し、株主がWeb会議その他インターネット等の手段により株主総会に出席すること(株主がリアル総会場に存する方法以外の方法により株主総会に出席すること)を認めることについては、会社法上、取締役会の決議を要するものとはされていない。また、これは、株主総会への出席の方法にすぎないことから、取締役会の決議を要する「重要な業務執行」(会社法362条4項柱書参照)にも該当しないと解される。

 したがって、事実上のバーチャルオンリー型株主総会としてのハイブリッド出席型バーチャル株主総会を開催するに当たり、取締役会の決議を経ることなく、株主のWeb会議の方法による出席を認めることができると解される。

 もっとも、株主総会の招集を決定するに当たり、株主のWeb会議の方法による出席を認めるという方針が既にあるのであれば、この点も併せて取締役会の決議により決定するのが望ましい。また、株主総会の招集決定の時点では、そのような方針や予定がまだない場合であっても、新型コロナウイルスの感染拡大の状況等に鑑み、株主のWeb会議の方法による出席を認める可能性があるときは、当該招集決定に係る取締役会の決議において、代表取締役に対し、株主のWeb会議の方法による出席を認める措置を取ることについての権限を付与することも併せて決定しておくことが考えられる。

(2) 株主総会の招集通知や会社のホームページにおける記載

 次に、事実上のバーチャルオンリー型株主総会とするためには、株主がリアル総会場に来ることがないようにしなければならない。

 そこで、会社としては、株主総会の招集通知や自社のホームページにおいて、リアル総会場へ来ることを極力控え、バーチャル出席をすることを強く求めることを記載することが考えられる。また、事実上のバーチャルオンリー型株主総会を目指しているため、リアル総会場を例年よりも狭い場所としており、リアル出席株主のために十分な座席を確保することができない可能性があることに言及することも考えられる。そのうえで、Web会議の方法による出席の具体的な方法(アプリのダウンロードの方法やアクセス先・パスワード、質問や議決権行使の方法等)を株主に分かりやすく説明した書面を、株主総会の招集通知に同封すべきである。

 併せて、株主総会の定足数を満たすため、リアル総会場へ来ることを控えるだけでなく、書面又は電磁的方法による事前の議決権行使を行うことを強く推奨することとなる。

 また、リアル出席とバーチャル出席のいずれをもしない株主のために、株主総会の議事の様子を動画で(ライブ)配信することも検討に値する。バーチャル出席までしなくとも、株主総会の当日の様子を遠隔地からでも見ることができることとすることにより、リアル出席株主の数を抑えることが期待される。

 以上の点を踏まえた株主総会の招集通知等における記載として、例えば、以下のものが考えられる。

 新型コロナウイルスの感染拡大の防止のため、Web会議の方法による株主総会への出席の方法を設けており、株主の皆様には、株主総会へのご来場に代えて、こちらのご利用を強く推奨いたします。Web会議の方法による出席の場合におきましても、株主総会の当日に、ご質問及び議決権行使をしていただくことが可能でございます。Web会議の方法による出席の具体的な方法については、同封の書面をご覧ください。

 株主総会の会場は、例年と異なり、○名程度の株主様のみを収容することができるスペースに留めております。株主の皆様におかれましては、健康状態にかかわらず、株主総会へのご来場をお控えくださいますよう、お願い申し上げます。

 Web会議又はご来場の方法により株主総会に出席されない株主の皆様におかれましては、株主総会招集のご通知に同封の議決権行使書面やインターネットによる議決権行使が可能ですので、是非これらをご利用くださいますようお願い申し上げます。

 Web会議又はご来場の方法により株主総会に出席されない株主の皆様のために、別途、株主総会の様子をライブで動画配信する予定でございますので、そちらのご視聴も是非ご検討ください。

 ところで、会社が、リアル総会場を設定しておきながら、当該リアル総会場へ来ないことをむしろ推奨することについて、株主総会の招集の手続が著しく不公正である(会社法831条1項1号)とされないかが問題となり得る。

 この点については、新型コロナウイルスによる感染拡大の防止の必要性があり、また、事前の議決権行使やWeb会議の方法による出席の機会が確保されていることからすれば、やむを得ない措置として認められると解される。

(3) 議長その他役員がリアル総会場に所在しないこと

 人の密集を避けるため、株主のみならず、株主総会の議長その他役員も、リアル出席をせず、Web会議の方法により株主総会に出席すること(バーチャル出席をすること)が考えられる。このように議長その他役員がリアル総会場にいないことも会社法上認められると解される(会社法施行規則72条3項1号括弧書参照)。議長が所在する場所が株主総会の「場所」(リアル総会場)と解する必要もない。

 議長その他役員が外国におり、外国から日本への入国が規制されている、又は日本へ渡航することができないという事態も想定される。このように海外にいる役員がWeb会議の方法により株主総会に出席することも考えられよう。

 ただし、議長を含め、役員の全員がバーチャル出席をする場合において、リアル総会場との接続が通信障害により不可能となり、株主総会が中断してしまうと、事実上、議事の進行ができなくなることに留意する必要がある。このような場合には、通信障害から復旧するまでしばらく待つことになる。しばらく待っても復旧しない場合の対応について、リアル出席及びバーチャル出席をする役員が一人もいない中で、いずれかの株主が(仮)議長となって、その場での審議を継続することは、説明義務の観点から問題が生じ得る。そのため、特に、質疑応答が終了する前に通信障害が生じ、復旧しない場合は、例えば、リアル総会場にいる株主である事務局スタッフが(仮)議長となり、株主総会の続行(後日に株主総会を再開して議事を継続すること)を決議することが考えられる(会社法317条)。これに対し、質疑応答の終了後に通信障害が生じた場合は、リアル出席及びバーチャル出席をする役員が一人もいなくとも、例えば、リアル総会場にいる株主である事務局スタッフが(仮)議長となり、採決を行い、株主総会の議事を最後まで進めることが考えられる。

 なお、必ずしも全ての役員が株主総会にリアル出席又はバーチャル出席をしなければならないわけではない。役員の一部が新型コロナウイルスに感染してしまったということも想定されるが、あくまでも、取締役や監査役、執行役の説明義務(会社法314条)の観点から、それを果たすことのできる最低限の役員の出席が求められるにすぎない[7]。そのため、役員の一部が株主総会に出席しなかったからといって直ちに、説明義務違反の問題や当該欠席した役員の善管注意義務の違反の問題が生ずるわけではない。

 また、定款に株主総会の議長として定められた者(例えば、取締役社長)が、外国に所在しており、通信環境の関係でバーチャル出席もできないという事情や、新型コロナウイルスに感染しているといった事情があれば、当該者に「事故があるとき」に該当し、代行順位に従って別の者が議長に就けば足りる。株主総会の開催中に、バーチャル出席をしている議長の通信端末の問題で通信障害が生じ、当該議長が議事進行をすることができなくなった場合も、代行順位に従って別の者が議長に就くことになる。

(4) バーチャル出席株主の本人確認

 バーチャル出席株主の本人確認については、株主に対し、株主総会の招集通知と併せて、Web会議用のリンク先又はIDとパスワードを通知し、これらを使用して株主総会に参加する者は、株主本人とみなすことで足りると考えられる。

 なお、株主総会の開催中、Web会議の映像機能(カメラ)を利用してバーチャル出席株主の顔を映し出すことは必須でないと解される。

(5) 開催時間の短縮化

 リアル総会場を設定して株主総会を開催する以上、リアル出席株主が生ずることも十分に想定される。そこで、リアル総会場での感染拡大を防止するため、また、バーチャル出席が通信障害によって途絶してしまうことを可能な限り避けるため、株主総会の開催時間はなるべく短くする必要がある。

 そのような方法として、以下の方法が考えられる。このような方法により、議長による株主総会の開会宣言後、5分程度で、質疑応答に入ることが考えられる。

  1. ・ 株主数、総議決権数並びに出席株主及びその議決権数の報告を省略する(定足数を満たしている旨のみを報告する。)。
  2. ・ 監査役や監査(等)委員会による監査報告は、省略する(ただし、株主総会の議案等に法令・定款違反又は著しく不当な事項がある場合は、その報告を省略することができない。会社法384条、399条の5)。
  3. ・ 事業報告、(連結)計算書類及び連結計算書類の監査結果の報告は、招集通知に記載のとおりと述べるにとどめ、ナレーションその他の方法による詳細な説明は省略する。
  4. ・ 議案の説明も、招集通知に記載のとおりと述べるにとどめ、詳細な説明は省略する。

(6) 質問応答

 事実上のバーチャルオンリー型株主総会といえども、株主総会として開催する以上は、質疑応答の時間を設ける必要がある。

 バーチャル出席株主がWeb会議の方法で株主総会に出席する場合、例えば、バーチャル出席株主による質問の方法については、以下のとおりとすることが考えられる。これらのルールについては、株主総会の招集通知に記載するなどして予め株主に周知しておくべきである。

  1. ① チャット機能を利用し、事務局のアカウントに対してメッセージを送信する方法で質問する。
  2. ② 一括上程・一括審議方式を前提として、報告事項の報告及び決議事項に係る議案の説明が終わるまでに、事務局のアカウントに対して質問を送信する。
  3. ③ 一人につき2問までとする。
  4. ④ 送信された質問の取捨選択の基準について、基本的に、株主総会の目的事項である報告事項及び決議事項に関連するものに限って取り上げるものとする。一次的な取捨選択は事務局が行う。
  5. ⑤ 取り上げる質問に対する答弁は、簡潔にする(報告事項について、附属明細書の記載を敷衍・補足し、また、決議事項について、株主総会参考書類の記載を敷衍・補足する程度の内容の答弁に留める)。

 ①及び②に関しては、バーチャル出席株主が、質疑応答の時間の中で、Web会議の映像機能(カメラ)を利用して挙手をし、議長に指名された者が質問するというように、リアル出席株主による質問の方法と同様の方法とすることも考えられる。特に、バーチャル出席株主の数が少ないことが予想される場合に採用し得る方法ではないかと思われる。

 ②及び③に関しては、実施ガイドにおいても、「1人が提出できる質問回数や文字数、送信期限(リアル株主総会の会場の質疑終了予定の時刻より一定程度早く設定)などの事務処理上の制約……について、あらかじめ運営ルールとして定め、招集通知やweb上で通知する。」とされている(21頁)。

 ④及び⑤に関し、通常の株主総会では、昨今、必ずしも株主総会の目的事項に関連しない質問であっても取り上げ、また、いずれの質問に対しても丁寧に答弁する傾向にある。しかし、今回は、通常時とは異なる株主総会であることから、株主総会の目的事項に関連しない質問は一切取り上げないこととし、また、答弁の内容も、説明義務を果たすことが求められる最低限の範囲内に留め、手短・簡潔に答弁するという方針とすることが合理的である。

(7) 動 議

 動議については、実施ガイドでは、「株主に対し、事前に招集通知等において、『バーチャル出席者の動議については、取り上げることが困難な場合があるため、動議を提出する可能性がある方は、リアル株主総会へご出席ください。』といった案内を記載したうえで、原則として動議についてはリアル出席株主からのものを受け付ける。」とされ(22頁)、バーチャル出席株主による動議を認めない方向の対応が示されている。

 もっとも、これは、あくまでも、リアル出席が問題なく行える、通常の株主総会を前提としたものであると考えられる点に留意する必要がある。これに対し、政府が国民に対して外出の自粛を求め、また、会社としても、株主に対し、リアル出席を極力控えることを求めながら、動議を提出したい場合にはリアル出席をすることを求めるというのは、違和感があり得るかもしれない。

 そのため、事実上のバーチャルオンリー型株主総会の場合には、修正動議及び手続的動議のいずれも、バーチャル出席株主がチャット機能を利用して(又は映像・音声機能を利用した発言を通じて)提出することができるという取扱いをせざるを得ないという考え方もあり得ると思われる。このように解する場合であっても、修正動議については、事前の議決権行使により会社提案の原案に対して議決権の過半数の賛成が得られていることが判明している限りは、修正動議そのものに対する賛否の意思を確認する必要がなく、否決されたとみなすものとして淡々と処理すれば足りる。この点は、通常の株主総会の場合と同様である。

 手続的動議については、通常の株主総会と異なり、株主総会の議事をより効率的に進める観点から、以下の方針とすることが考えられる。

  1. ① 議場に諮ることが必要であると一般的に考えられている以下の4つの手続的動議に限って取り上げ、議場に諮る。
    1. ・ 総会提出資料等の調査者の選任を求める動議(会社法316条1項)
    2. ・ 株主総会の延期・続行を求める動議(会社法317条)
    3. ・ 会計監査人の出席を求める動議(会社法398条2項)
    4. ・ 議長不信任を求める動議
  2. ② 上記4つの手続的動議以外の、議長の裁量に委ねられている事項に関する手続的動議(例えば、休憩動議)は議場に一切諮らず、当該動議を採り入れるかどうかは議長の裁量により判断する。

 また、手続的動議の採決は、実務上、手続的動議の内容と反対の内容の取扱いとすること(例えば、議長不信任(議長交代)を求める動議の場合、現任の議長が議長を続けること)について、議場に諮り、議場にいる株主の過半数の賛成を得て、手続的動議を却下するのが一般的である。ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の場合も、手続的動議に対するバーチャル出席株主による議決権行使について、後述の議案に対する議決権行使と同様に、チャット機能を利用して、賛成又は反対のメッセージを送信してもらうこと等により議場に諮ることが考えられる。会社としては、大株主に確実に、手続的動議の内容と反対の内容の取扱いに賛成する旨のメッセージを送信してもらう(又は、予め大株主から包括委任状を取得しておく)などし、これを確認することで、手続的動議を却下することになる。この点も、通常の株主総会における手続的動議に対する対応と異ならない。

(8) 質疑打切り

 質疑を打ち切る際、通常の株主総会では、例えば、質問者をあと2名とすると予告し、残り2名の質疑応答が終わった段階で、質疑を打ち切って採決に移ることがある。このように質疑を打ち切って採決に移る場合や、発言を求める株主からの挙手がないことから採決に移る場合に、議長が、採決に移ることについて議場に諮り、その過半数の賛成を得るのが一般的である。しかしながら、質疑打切りを議場に諮ることは法律上必須でないと解される。そこで、新型コロナウイルス対応のハイブリッド出席型バーチャル株主総会では、バーチャル出席株主による賛否の確認の煩雑さもあることから、議場に諮らず、議長の判断のみで採決に移ることとすることが合理的である。

(9) 当日の議決権行使・採決

 バーチャル出席株主は、リアル出席株主と同様に、株主総会の当日に、採決の場面で議決権を行使する。そのため、バーチャル出席株主がいる場合の議案の採決(議決権行使)の方法が問題となる。

 通常の株主総会では、当日の採決は、拍手によって行う。これは、一般に、書面又は電磁的方法による事前の議決権行使の結果から、議案が可決されることが既に判明しており、株主総会の当日に議場で行使された議決権の個数(賛否・棄権の議決権個数)をわざわざカウントする必要がないからである。

 これに対し、実施ガイドでは、「インターネット等の手段でバーチャル出席した株主が、株主総会当日に議決権を行使できるよう、会社はそのシステムを整える必要がある。」とされている(24頁)。

 もっとも、バーチャル出席株主がいるからといって、必ずしも、当日の議決権行使に当たり、バーチャル出席株主についてのみ、賛否・棄権を示す形で個々の議決権を行使することができるようにシステムを整えておかなければならないわけではないと考えられる。特に、株主総会の開始の前の時点で、書面又は電磁的方法による事前の議決権行使の結果から、議案が可決されることが既に判明している場合にまで、常に、バーチャル出席株主が、リアル出席株主と異なり、賛否を明確に示す形で議決権を行使することができるようにしておく必要性も合理性もないと考えられる。重要なことは、あくまでも、議案の成否を決するために合理的な範囲内でバーチャル出席株主が議決権を行使する機会が与えられている点である。このような観点からは、バーチャル出席株主は、採決に当たり、例えば、Web会議のチャット機能を利用して、賛否のメッセージを送ることができることとすれば足り、特段のシステムを整えることをしない、ということも許容されると解される。この場合に、賛否のメッセージを送らなかったバーチャル出席株主について、「棄権」として扱う必要もない。リアル出席株主が、拍手による採決の際に拍手をしなかったとしても、棄権と扱われないことと同じである(株主総会の決議に係る臨時報告書との関係では、賛否・棄権のメッセージを送ったバーチャル出席株主については、その行使された議決権の数をカウントすることになるが、リアルタイムで数える必要はなく、株主総会の終了後にカウントすれば足りる。)。

 さらに、バーチャル出席株主がいる場合であっても、拍手のみで採決することとすることも考えられる。この場合、バーチャル出席株主は、Web会議の音声機能を利用して、「異議なし」「賛成」「反対」等と適宜発声する、拍手の音を伝える、又はチャット機能を利用してこれらの内容のメッセージを送ることで足りると考えられる。

4 終わりに

 新型コロナウイルスによる感染拡大の規模及びそれに伴う人々の行動の制限の内容が今後どのようになるかは予断を許さない状況にある。そのような中、会社としては、適法であるとともに効率的に、かつ、株主はじめ関係者の生命の安全及び健康に配慮しながら株主総会を運営することが求められる。今後、株主総会シーズンを迎えるにあたり、本稿がその一助になれば幸いである。

以 上



[1] 2020年4月2日、経済産業省と法務省が連名で、「株主総会運営に係るQ&A」を公表し、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、株主総会運営上想定される事項についての考え方を整理している。

[2] 2019年3月13日に新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という。)の改正法が成立し、新型コロナウイルス感染症が同法の適用対象とされた。特措法の下では、政府対策本部長(内閣総理大臣)は、新型コロナウイルス感染症が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(「新型インフルエンザ等緊急事態」)が発生したと認めるときは、緊急事態宣言をするものとされている(特措法32条1項)。都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、一定の必要があると認めるときは、住民に対し、特定の期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅等から外出しないこと等の必要な協力を要請することができる(特措法45条1項)。また、都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、一定の必要があると認めるときは、学校や興行場その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(「施設管理者等」)に対し、当該施設の使用の制限・停止又は催物の開催の制限・停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができ(同条2項)、さらに、施設管理者等が正当な理由がないのに当該要請に応じないときは、特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる(同条3項)。このように、緊急事態宣言が出された場合であっても、都道府県知事は、外出自粛の要請及び施設の使用制限等の要請又は指示を行うことができるに留まり、また、これらの違反に対する刑事罰はない。そのため、特措法上は、日本政府や都道府県知事が、国民に対して強制力を持って外出を禁止したり、文字どおり都市封鎖(ロックダウン)を行ったりする権限を有するわけではない。

[3] ガイアックス(名古屋証券取引所セントレックス上場)は、2020年3月27日開催の定時株主総会について、同月26日、「【株主総会 完全オンライン化】2020年3月27日開催予定の当社第22回定時株主総会に関するお知らせ~東京都の外出自粛要請を受け、完全オンラインに急遽切り替え~」とのリリースを出し、同月25日の「小池百合子東京都知事による、『新型コロナウイルスの感染爆発の重大局面である』という発言を受け、本総会をWEB会議ツール「Zoom」を利用してオンラインにて開催することを決定しました」「なお、本総会の会場……にお越しいただいても参加は可能ですが、昨今の状況を踏まえてご来場を自粛いただき、オンラインにてご参加いただきますようよろしくお願い申し上げます。」「当社取締役及び執行役は、当日本総会会場には来場せず、オンラインにて参加いたします。」としている。

[5] 第197回国会の2018年11月13日開催の衆議院法務委員会において、小野瀬厚政府参考人(法務省民事局長(当時))は、「実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容することができるかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております」と答弁している。

[6] 相澤哲=葉玉匡美=郡谷大輔編著『論点解説 新・会社法――千問の道標』(商事法務、2006)472頁。

[7] 役員の全員が新型コロナウイルスに感染してしまい、役員の一人もバーチャル出席すらすることができない場合は、株主総会を延期せざるを得ないのではないかと思われる。


塚本 英巨(つかもと・ひでお)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2003年東京大学法学部卒業、2004年弁護士登録。2010年~2013年に法務省民事局へ出向し、平成26年会社法改正の企画・立案を担当。また、2016年~公益社団法人日本監査役協会ケース・スタディ委員会専門委員、2017年~2019年経済産業省コーポレート・ガバナンス・システム(CGS)研究会(第2期)委員、2019年~経済産業省新時代の株主総会プロセスの在り方研究会委員。主に、M&A及び株主提案・委任状勧誘を含む株主総会対策をはじめとする会社法関連業務を扱う。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 http://www.amt-law.com/