日本版Legal Operations CORE 8 EVENT Report

Japanese Legal Operations Study Group

日本版Legal Operations CORE 8 EVENT Report

2022年1月17日
日本版リーガルオペレーションズ研究会

 日本版リーガルオペレーションズ研究会が立ち上がって約1年。この間、幾度にもわたる議論を経て、研究会として「日本版リーガルオペレーションズ」を提唱し、そのフレームワークとなるCORE8の概要を発表した*1。2021年12月13日には、株式会社商事法務の力添えを得て、CORE8モデル案を公表し、広く意見を募集するべく「日本版Legal Operations CORE 8 EVENT」をオンラインで開催した*2。先行する米国の有力2団体のリーガルオペレーションズのフレームワークや関連資料の厚みに感心し、これを学びつつも、どこか焦燥感に駆られてもいた1年前を思うと隔世の感がある。多忙な業務の合間を縫って議論に参加されたメンバー、研究会の議論やイベントに毎回参加し、諸般取り纏めの他羅針盤の役割を果たしてくださった株式会社商事法務の皆様、そしてイベント参加やメンバーとの公私の付き合いを通じ、様々な示唆をくださった方々にあらためて感謝申し上げたい。以下は、このイベントの概要をまとめたものである。

*1 「日本版リーガルオペレーションズの八つのコア」(NBL1191号、2021)
  「フレームワークの意義と期待――日本版リーガルオペレーションズMaturity Modelに関する意見交換会」(NBL1206号、2021)

*2 https://wp.shojihomu.co.jp/archives/74394 本ページ内よりアーカイブ動画の視聴申込みが可能となっている。
  動画視聴・意見募集期間は2022年1月31日まで。https://forms.gle/BoWbsKhuYNx524EX8

 冒頭、川口(千代田化工建設株式会社。以下、メンバーの敬称略)からイベントの趣旨として、リーガルオペレーションズが職人芸でなくフレームワークを使って法務部門を運営するという考え方であること、米国に先行事例はあるが、日本社会や日本企業の成り立ちや現状に鑑み、今般「日本版」の「CORE 8」を提唱すること、これに対して広く意見を募ることなどを説明した。

 次に、CORE 8のコアを1つずつ解説した。

◆日本版リーガルオペレーションズ 8つのコア
 1.戦略  5.業務フロー
 2.予算  6.ナレッジマネジメント
 3.マネジメント  7.外部リソースの活用
 4.人材  8.テクノロジー活用

1.戦略

 1つ目の「戦略」については、中川(ダノンジャパン株式会社、イベント告知当時)から以下の通り説明した。

 戦略については、当研究会でもさまざまな議論があり、そもそも法務部門の「戦略」が何かがわからないという意見もあった。議論の中で概ね収束したのは、法務戦略なるものが独立してあるわけではなく、基本的には、企業の戦略(目的と目標)が先にあり、それに沿ったもの、あるいはその企業の戦略に基づいたミッション(任務とか使命)と方針を明確化し、さらには具体的な目標設定や活動計画を策定し、遂行することが法務部門の戦略であるということである。また、戦略は他の7つのコアを繋ぐ接着剤のような役割をしているというコンセンサスも研究会の中で得た。即ち、法務部門独自というよりも、企業や組織の戦略に基づいているものが、当研究会の考えるリーガルオペレーションズにおける戦略である。そこで戦略では、「法務部門のミッションの明確化、目標・活動計画等の策定・遂行」と定義した上で、3つのレベルに分けている。これは企業の大きさ、法務組織の大きさによって多少変わってくるであろうが、本質的には大きく変わらないと考えている。

 戦略と戦術について補足する。いずれも本来は軍事用語だが、ここ30年で経営にも使われる言葉となった。戦略は、規模や成熟度にかかわらず、いずれの企業・組織も持つべきものというのが研究会で議論されてきたところである。戦略のポイントは、企業の戦略、即ち中長期の目標や企業の存在目的などを指すことである。他方戦術は、それを各部門で具体的な任務(ミッション)に落とし込んでいくものを指す。

 戸部良一らによる『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』(中公文庫)には、そもそも昭和期の旧日本軍に戦略目的が曖昧なので統一行動が取れないという問題が書かれている。戦略的な思考を持たないことには、組織は戦術だけでは生き残れない。昨今の日本企業も同様の状況に陥っている可能性があり、企業や組織の戦略を明確にして、もって戦術面もクリアにする意味で、コアの1番目に「戦略」を持ってきている。なお、軍事の専門家であるエドワード・ルトワック氏は著書『エドワード・ルトワックの戦略論—戦争と平和の論理』(毎日新聞出版)の中で、よく練られた軍事計画は、単純さを追求するものだとしている。また、複数の異なる行動を実行する場合、いくつかの要素と調整する必要性があると述べており、今回作られた戦略のスライドも単純化を追求し、3つのレベル感に落とし込んでいる。そして、それぞれのレベルでは、他の7つのコアとの調整する機能も果たしている。

 レベルは、構築する段階、落とし込む段階、実現する段階として、それぞれの到達指標も記載した。

 これらは、企業の規模や法務部門の規模には必ずしも依拠せずに、普遍的な内容を選んでいる。

 重ねてとなるが、戦略は法務部門単独で戦略があるわけではなく、企業や組織の戦略に基づくものであり、その戦略のために、法務部門として具体的な目標を定めて、ミッション(戦術)に落とし込んでいくものである。

2.予算

 二つ目の「予算」について、守田(双日株式会社)から以下の通り説明した。

 予算は、法務部門の機能・役割を支える重要な要素でありながら、パンドラの箱のように扱われ、また、お金の話は論じにくいところもある。そのためか、従来、企業間の比較・理想モデル等では予算について論じて来ていないように思われる。また、法務部門の予算は、会社全体予算の制度・運用に大きく依拠していることから、法務部門独自の視点で考えていく発想があまりなかったとも思われる。

 研究会では、予算について大きく3つの観点で分析を行った。1つは、法務部門独自でどの程度裁量が効く予算を有しているか、次は法務部門の活動・機能とどの程度結びついて予算策定・管理がなされているか、最後は、法務予算がカバーする範囲、具体的にはグローバル法務が進む中で本社法務部門が他国法務部門の予算に対してどの程度関与しているか、また、営業部門が行う個別取引に必要な弁護士費用を法務で予算化・管理しているか、という点である。かかる観点から参加企業の方々と意見交換を行い、その要素を抽出したものがCORE 8の予算マトリックスである。

 なお、予算だけが独り立ちして進化することはなく、法務部門の機能・役割に見合った適切な予算が策定・運営されているかという分析が重要である。このマトリックスを参照しながら、3つの観点について現時点での評価を行い、自社法務部門の現時点での機能・役割を考えたうえで、法務予算は適切に策定・管理・運営されているかを考察し、その上で足りない視点などあれば、更なる議論を行うことが重要と思料する。今回の活動を契機に法務部門の予算について今後議論・研究が深まっていけばと期待している。

3.マネジメント

 3つ目の「マネジメント」について、河野(丸紅株式会社)から以下の通り説明した。

 CORE 8でいう「マネジメント」とは、法務部門運営のための法務組織の最適化を指し、「レポートライン」の標準化と「組織内連携」の強化からなる。「マネジメント」は他の7つのコアと密に関係しており、例えば「戦略」は、戦略を実現するためにマネジメントという関係にある。また、予算・人材・仕事・知識・外部リソース・技術のいずれもマネジメントの対象であるため、「マネジメント」のコアの説明にも「ミッション・ビジョン・バリュー」「人事権」「予算」「情報」といった言葉が出てくるが、これらはそれぞれ他のコアにおいて深掘りされている。

 レベル1は「レポートラインが定められている段階」、レベル2がレポートラインを活用して「法務部門内で連携されている段階」、レベル3が法務部門内の連携が強化され「マネジメント情報・ノウハウの共有・活用が活発になされている段階」としている。また、世界各国で事業展開し複数国に法務部門を擁するグローバル企業や、事業部門・子会社等にも法務部門がある大規模企業については、複数の法務部門をマネジメントする観点で、各段階において別建てのチェックボックスを設けている。イメージとしては、レベル1は各法務部門が個別に活動している段階、レベル2は法務部門間の連携がなされている段階、レベル3は法務部門が統合されている段階である。

 マネジメントにおいて重要なのは、法務部門の課題への対応を考えることに加えて、会社全体の課題への対応、会社の発展段階や組織戦略の変化と一体となった対応が肝となる点である。

 まず、日本国内中心の単一事業A社があるとする。ここの法務部は、レベル1~3のボックスにチェックが入るであろう。法務部門および部門内の各チームの役割は業務分掌規程等に明確に定められており、法務部門の方針は、年度初めに部門トップより共有されるほか、個人別の年度目標設定時、四半期毎の進捗レビュー時などに周知徹底の場がある。また、中長期の目指す姿・各メンバーへの期待は明文化され、役職者間、チーム内、チーム横断でのオンライン・対面ミーティングを通じて活発な情報共有がなされているからである。

 数十年にわたって海外の地域統括会社・現地法人を含めた事業展開を行っているB社の法務部門であれば、レベル2までチェックが入るであろう。米国、ブラジル、欧州、シンガポール、インド、中国の現地法人に法務部門があり、役割分担・重要事項の連携等を明文化し、定期報告を行い、人となりを把握し、コロナ禍で現在はオンライン会議となっているが、互いに出張し対面のコミュニケーションを増やすことで、連携強化を図っている。本社法務部門が導入していた業務管理システムを海外法務部門が活用することで、情報共有や業務品質の管理も容易になっている。レベル3の項目が全て必須ではないと思うものの、本社、現地の法務部門間の横連携の仕組みなど、課題と考えるところはあろう。

 グローバルに活動しているものの300を超えるローカルな事業の集まりであるC社を考えると、レベル1にチェックが入るであろう。グループの連結子会社の中には、上場会社・分社型の会社・合弁会社・グループ歴の長い会社・短い会社と様々なステージの会社があり、基本的には、普段の法務リスク管理は現場に任せ、重要事項や危機管理等報告事項を明確化し、連携するというやり方が基本であろう。日本、米国、欧州においては、地域のグループ会社法務会議を開催する等連携はしているが、共通ポータルなど更に情報共有が進められる余地がある。また、現時点で法務部門のない連結子会社であっても、新規事業分野に取り組むなどビジネスが変わり、法令環境の変化の影響を受けて、法務リスクを管理するための法務部門が必要となることが考えられる。従って、「グループ全体での法務リスクがリアルタイムで分かる仕組み」が望ましい。

 以上のように、CORE 8のようなMaturity Modelは、自社の現在地を確認し、目標設定や課題解決のための目安とするものである。皆が皆レベル3を目指すものではなく、自社の強み・弱み・得手・不得手等の特徴を確認し、次の手を打つため、周囲の人と協議するためのツール・フレームワークとして活用されることを期待している。

 法務部門の役割・会社への貢献は、会社の法務リスクを特定し、マネージすることである。そのためには、個別の案件一つひとつ、契約書の整備、紛争の解決、当局対応等をしっかり対応することとともに、企業集団全体の法務リスクマネジメントの仕組みを作り、更新し続けていくことが重要である。それらを効果的・効率的に行うために、誰かがまたは誰もが少しずつでも、法務部門の運営・リーガルオペレーションズを考えて対応すべきと考える。

4.人材

 4つ目の人材については、少徳(パナソニック株式会社)に代わり川口から、各レベルについて以下の通り説明した。人材は、戦略を実践するための一つのツールである。

 レベル1は、法務部門立上げ初期にあるように、当面の業務遂行に必要な人材を確保し、これに対して必要最低限の教育・研修を行っているというレベルである。

 レベル2は、より意識的な採用・育成を図っているレベルである。求める人材像、キャリアパス、評価ポイントなどが言語化されており、期初に人材計画が立てられ、かつ、個々人へのフィードバックやミスマッチ防止のため法務部門が人材採用・育成に積極関与する。このレベルの法務部門には、部門独自の募集要綱・採用基準、教育プログラム、スキルマップ、育成やローテーションの計画、360度評価をはじめとした複眼的な評価制度などがある。もっとも、レベル2では、「法務部門」内にキャリアパスが限られ、また、育成制度も全社共通あるいは法務部門のそれに限られるイメージである。

 レベル3は、個々人のみならず法務部門自体の幅を広げるような、戦略的な人材活用を図るレベルである。例えば、不確実性が高く変化の多い経営環境下でリスクを発見・対応するため、ダイバーシティも意識して組織構成を図り、あるいは法務部門外の経験を積ませる。優秀人材の抜擢や、特別なインセンティブ付与など、メリハリをつけた評価も積極的に行える。こうした組織には、戦略的な人材計画、抜擢人事を可能にする人事制度、詳細な人材データベースなどもあるイメージでもある。

 人材のフレームワークの分け方については、本来的には、採用・育成・評価といったフェーズごとにフレームワークが求められるという考え方もあろう。ただ、CORE 8では全体のバランスを取る中で、統合した一つのコアとしている。また、人材について法務部門だけで語ることは難しい。日本企業に典型的な、新卒一括採用、ゼネラリスト育成・評価を前提とした人事制度の中で、人材に相応の専門性を求め、キャリア採用も多い法務部門がどう折り合いをつけるか。法務部門をいわばテストケースとして、日本企業全体の人事制度も戦略的になっていくことを期待している。

5.業務フロー

 5つ目の「業務フロー」については、佐々木(株式会社LegalForce)から以下の説明をした。

 企業法務部門では、近年、事業のスピードが早く、スピードに対応するため業務の生産性を高めなければならない一方で、案件の難易度は年々高くなっており、高い品質が求められている。生産性と品質はトレードオフの関係にあり、いかにバランスを取るかが法務部門の経営課題である。ここで、法務部門で受付た案件を分析すると、およそ80%はルーティンワークとして処理できる案件であるため、ルーティンワークを効率的に処理して生産性を高め、難易度の高い案件に対応する時間をつくる必要がある。さらにルーティンワークの生産性を高めるためには、業務フローの整備が必須条件であるため、業務フローの整備は、法務部門の最重要課題となっている。

 レベル1は、社内で何らかの業務フローが定められていることを要件としている。ルーティンワークを処理するために、必ず何らかの業務フォローがあるはずであり、主な業務である契約・法律相談については、何らかの依頼する方法が定められているはずである。これには、法務担当者へ直接依頼したり、統一依頼窓口を設けたりすることが考えられ、また、手法としてメール、Slack、システムを用いる等、様々なバリ―ションがあるまた、契約書については、自社モデルを準備している会社も多い。更に、法務部門内の業務フローとして、担当者の一次審査、管理職の二次審査といったといったフローを整備している会社も多いと思われる。

 レベル2は、各社で設定した業務フローが標準化されていることを要件としている。案件依頼の際に、依頼者が任意に法務担当者を選んで依頼できる状態である場合は、標準化されているとはいえない。つまり、依頼窓口を法務部門が指定し、または窓口が統一化されている状態で、法務部門で審査を行う担当者を指定できる状態にあることが、標準化されている状態といえる。契約書審査については、全契約書を法務部門が審査すべきと定めている会社は稀で、一部を審査している会社が多数を占めていると思われるが、その場合、法務部門に依頼する契約書は何かという基準を作成していることも標準化の一例である。このレベル2の業務フローとしては、契約書審査の審査基準、法律相談の回答方針、業務処理手順等を書面で定めることが求められており、契約書モデルについては、主要な取引で完備されていることが求められる。さらに、業務フローの有効性を確認するための、依頼者の満足度調査を実施することも想定されている。

 レベル3では、標準化された業務フローを定量的に評価し、定期的に見直していることを要件としている。例えば、契約審査の受付件数、納期(受付から返答までの期間)、案件の難易度等を数値で測定し、法務部門の人的リソースを最適活用するため、測定したデータを用いて各担当者の処理件数と案件難易度を平準化していくことが求められている。また、既存の契約審査の依頼基準、審査基準、契約書モデル、処理手順等を定期的に見直すことがこのレベル3では求められている。さらに、依頼者の満足度調査を実施して、その結果を分析し、改善活動を行うことも想定されている。

6.ナレッジマネジメント

 6つ目の「ナレッジマネジメント」については、馬場(サントリーホールディングス株式会社)から以下の通り説明した。

 ナレッジマネジメントとは、言語化が難しい概念であるが、ここでは「情報、知識、ノウハウや経験、スキル等のあらゆる知的資産の蓄積・共有・活用」と定義した。企業法務において、法律知識や解釈事例などの情報資産は極めて重要だが、これらは業務を通じて担当者個人に蓄積するにとどまるケースが多い。法務部門を持続可能な組織として、より強固なものにするためには、貴重な資産であるナレッジをいかに組織単位で共有化していくかが極めて重要である。そのためのプロセス指標の作成を試みたのがこのコアである。

 レベル1は必要な情報を蓄積する段階である。過去の案件情報が残っていない、締結済みの契約書が見当たらないといった事態は、多くの法務部員が経験しているところであるが、こうした事態が生じると、法的安定性が失われ、法務部門の信用を損なうことにもなりかねない。また、時間をかけて検討した貴重な情報が無駄になってしまうことにもなる。そのため、まずは、必要な情報をしっかり蓄積することが必須と考え、レベル1とした。

 レベル2は、必要な情報を集約して体系的に整理する段階である。情報を蓄積したのでどこかにあるはずだが、どこにあるかわからない、探すのに時間がかかるという状況では、情報が蓄積されていないのと同じ状況である。そこで、特定の場所に情報を集約し、探しやすいように情報を体系的に整理することが必要になる。整理の方法は、共有フォルダや案件ファイルの作成といった方法から、案件管理システムのようにシステム化する方法など、色々と考えられる。また、法分野別、相談部署別といった分け方だけではなく、複数の観点からの検索を可能にするため、検索キーワードの設定やタグ付けなどの方法も考えられる。

 レベル3はナレッジとして積極的に活用されている段階である。多くの法務部門では、必要な情報を蓄積して、方法に違いはあるとしても、ある程度体系的に整理されていると思われる。しかし、それを積極的に活用することができているかは別である。ナレッジマネジメントは、ナレッジを貯めることが目的ではなく、活用することが目的になるので、レベル3を活用されている段階と定義したものである。

 活用してもらうためには、①情報自体の鮮度や網羅性と②検索の容易性が重要である。この2つを継続的に担保することが必要だが、そのためにはCLM(contract Lifecycle Management)システムのようなシステムの導入が有用である。他方、契約書やリーガルメモのような言語化できる情報だけではなく、ノウハウや経験値のような言語化が難しい、いわゆる暗黙知についても、共有化・承継の対応を取っていることが、企業法務においては非常に重要である。これらは無理に言語化してシステムに保存するような方法ではなく、ケーススタディなどの教育プログラムや事例共有会など、人と人とのコミュニケーションによる方法が適切である。このように、ナレッジの対象によって適切な蓄積・整理・活用方法をとるべきである。

 ナレッジマネジメントは、リーガルテックの普及とともに、近時、あらためて注目を浴びている。確かにテクノロジーが馴染みやすい分野ではあるが、会社によって管理体制やナレッジの内容は自ずと異なっており、テクノロジーをただ導入するだけで解決するものではない。テクノロジーの導入に走る前に、まずは、どういうナレッジをどのように活用していくかを自社で整理したうえで、どのようなテクノロジーを活用できるかを検討するといったプロセスをとることが重要であり、より効果の高いナレッジマネジメントに繋がると考える。ナレッジマネジメントは、その重要性を認識しつつも、苦戦している法務部門・部員が多いと思われる。CORE 8の指標がナレッジマネジメントに取り組む契機となれば幸いである。

7.外部リソースの活用

 7つ目の「外部リソースの活用」については、齋藤(LINE株式会社)から以下の通り説明した。

 外部リソースには、外部弁護士のみならずリーガルテックベンダーなども含まれる。今でも各社各様それらの活用を工夫していると思うが、標準的な取組みを理解し、自社の現在地を把握するためにフレームワークは有用である。

 レベル1は、「法務部門が弁護士起用事実を把握・何らかのコントロールをしている」状況である。事業部や他の管理部門で直接弁護士を雇用している場合でも、法務部門がその起用事実を把握することは、外部リソース管理の第一歩である。また、法務部門自身が外部への依頼する場合には、「依頼する業務範囲・案件を明らかにしている」ことが必要である。これにより、コストを適切にコントロールし、あるいは作業の重複をなくすことができる。また、レベル1でも、案件依頼前に情報収集していること、即ち「外部弁護士候補の情報収集」「業務範囲・案件ごとの外部弁護士候補のリスト化」を項目に掲げている。

 レベル2は、法務部門が、外部弁護士起用の決定権を持つ段階である。これにより法務部門が本格的に外部リソース管理を行えるようになるが、他方でその責任も負うことになる。そのため、このレベルの法務部門は外部弁護士の選定方針を持つべきである。レベル2の説明として外部弁護士を「適正に」選定するとあるが、「適正」とは案件の内容に応じて、専門性・コスト・スピードやコミュニケーションの取りやすさなども考慮して選定することを指す。その方法として、RFP (Request For Proposal, 提案依頼書) を用いるのも一案である。RFP書式の出来・不出来よりも、法務部門の要求を言語化して、先方から文書で提案をもらうというプロセス自体が重要である。次に、「評価基準・起用ポリシー・Engagement Letterが具体的に示されている」ことは、特に、相対的に費用の高い海外の弁護士起用の場合は重要である。コストコントロールのためには、事前に見積もりを取得し、担当弁護士のリストや経歴を開示させ、請求書の発行のタイミングを明確にするために、Engagement LetterやBillingポリシーにそのような内容を書き込み、請求書の内容もきちんとレビューすることが必要である。レベル2では、「評価基準・ポリシー等に基づき、外部弁護士を適正に評価し、記録している」ことも想定している。評価基準については、明確に書き下した基準だけでなく、評価項目の例示、5段階評価での評価・データベース化、四半期ごとの評価会議の実施などを通して形成することも検討に値する。

 レベル3は理想像であるが、外部弁護士の評価記録をデータベース化して実際に活用に落とし込み、外部弁護士候補リストを見直すプロセスを導入して、新鮮なリストを維持するなど、常に運用が回っている状態を想定している。この段階まで行くと、外部リソースデータベースが単にコスト管理にとどまらず、案件管理の機能も果たし得る。また、データベースを通じて、部門全体の内製業務・外部委嘱業務を一覧性ある形で把握できる。本来あるべき内製・外注のバランスを再検討して、いずれかを増減し、あるいはバランスの最適化を図るなど、次の打ち手を考えやすい状態になる。この取り組みは、戦略・ナレッジマネジメント・予算などと有機的に結びついていくであろう。

 レベル3では、新規分野の外部ベンダーのリスト、評価基準も取り上げている。これは、フォレンジックやリーガルテックを念頭に置いた記載である。今でも、電子契約や、法律書籍の閲覧のためのSaaSなど、リモートワークに親和性のあるサービスについては既に候補のリストを作り、使用している企業も多いと思われる。今後は、例えば文書レビューや、CLMと呼ばれる契約ライフサイクルマネジメントに関するソリューションもより拡大を見せていくことになると予想している。

 このように、外部リソースの活用は、最初はコスト削減のための取組みからはじまるものの、最終的には、自社法務部門のあり方を最適化するためのきっかけに発展する内容となる。

8.テクノロジー活用

 8つ目の「テクノロジー活用」について、鈴木(三菱商事株式会社)から以下の説明を行った。

 テクノロジー活用のレベルは、情報収集の段階、テクノロジーを導入する段階、導入したテクノロジーを使いこなす段階、と分けているが、これらに共通する重要なポイント2つを強調した。まず、「テックドリブンではなく、課題ドリブンで考える」ことである。レベル2の「導入手順」項目で、テクノロジーの導入手順をまとめているが、課題の洗い出し、デモ、提案依頼・提案、トライアル、本格導入というように、テクノロジー活用のスタートは「課題の洗い出し」にあることがポイントである。テクノロジー活用はLegal Operationsの一つのCoreだが、Legal Operationsではいきなり最新のテクノロジーを導入するのではなく、まずは、自社のLegal Operationsにおける課題を把握することから始め、オペレーションそのものの改善で課題を解決できないかを考えるべきである。

 例えば、課題として、機密保持契約の相談から締結まで1か月近くかかっているところ、1,2週間に短縮したいということがあるとする。そもそも何に時間がかかっているのかを紐解くと、相談初期段階のコミュニケーションが原因だとわかったとする。法務部門がレビューするのに当然必要と思っている諸要素(情報受領者側か提供側か、対象情報の範囲、用途、共有範囲など)が、依頼者側からすぐに出てこないので時間がかかるということはよくある状況である。そうであれば、解決策は、LegalTechの即時導入というより、依頼者側が法務部門に対して必ず提供すべき機密保持契約関連アイテムの明確化や、そのための様式作成となる。他方で、時間を要している原因がメールを利用しての文書のやり取り(いわゆるバケツリレー方式で、同時編集や、最新版特定が困難)ということであれば、同時編集機能を備えたITツールが解決策になる。このように、まずはオペレーションの見直しを行い、それでもどうしても解決できない課題に絞って解決策となるテクノロジーを探すと、自社に合ったテクノロジーが見つかると思われる。

 次に、自社なりのロードマップを持つべきである。即ち、課題から入る方法でテクノロジーの活用を検討すると、自社に合うテクノロジーを導入でき、徐々に効果が表れる。それと同時に、新しいテクノロジーと古いテクノロジーが混在した状態が生まれ、新たな課題が見えてくる。それらを自転車操業的に繰り返すことは、法務部門内外を疲弊させる。そのうち「今のやり方で十分回っているのだから、新しいテクノロジーは不要である」という声が大勢を占めることにもなりかねない。そこで、導入するテクノロジーの優先順位付けも含め、自社なりのロードマップを持つことが重要になる。これについては、レベル3の「計画/ロードマップ」に基本的な考え方を記載している。3-5年程度の中長期のロードマップ、即ち、自社の課題を整理した上で、既存のシステムの使用目的、更新時期(SaaSモデルであればその契約期間の満了時期、自社開発であれば保守期限が切れる時期)、予算手当済か否かなどを年表形式で色分けして一目で分かるようにして管理することが推奨される。こうしたロードマップを個々のユーザーとも共有しておくと、自社の方向性が分かり、「新しいテクノロジーに慣れるだけで大変」といった事態も避けることができる。

おわりに

 最後に、明司(サントリーホールディングス株式会社)から、メッセージを述べた。

 まず、リーガルオペレーションズは、企業内法務のためのものであり、CORE 8についてもまず社内・部内で議論することが大切であるとした。次に、8つのCOREはそれぞれが独立したものではなく、連関しているものであり、特に中心にあるべきは戦略であり、まずは戦略からということが重要であることを強調した。最後に、リーガルオペレーションズやCORE 8について企業法務に携わっている多くの方々から「実践」の中からのReview/フィードバックをいただきたい旨のお願いをし、日本の企業法務がより強くなって、日本企業の成長に繋がることを祈念してイベントを締めくくった。

以上


日本版リーガルオペレーションズ研究会 メンバー一覧(五十音順・2021/11/30時点)  

明司雅宏(サントリーホールディングス株式会社)

 少德彩子(パナソニック株式会社)
川口言子(千代田化工建設株式会社)  鈴木 卓(三菱商事株式会社)
河野祐一(丸紅株式会社)  吹野加奈(株式会社LegalForce)
齋藤国雄(LINE株式会社)  中川裕一(ダノンジャパン株式会社)
佐々木毅尚(株式会社LegalForce)  馬場恵理(サントリーホールディングス株式会社)
守田達也(双日株式会社)